データインバウンド

企業のサステナブル対応を調査、出遅れる観光業の実態が明らかに。ビジネスへの期待は高いがリソース不足、加速に必要なことは

2021.07.12

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2030年までに持続可能でよりよい世界を目指そうと、国連が定めた国際目標、「SDGs(持続可能な開発目標)」。2015年にこの目標が採択されてから5年が過ぎ、立教大学観光学部の野田健太郎教授と、株式会社JTB総合研究所は、「観光産業におけるSDGsの取り組み推進に向けた組織・企業団体の状況調査」を実施した。回答は、2020年12月から2021年1月にかけ、全国の企業および関連団体の計840件から郵送とオンラインで寄せられた。なお、本調査での「観光産業」とは、旅行業と宿泊業を総称したものである。

 

観光産業はSDGsの対応が最も遅い業界

まず、SDGsの認識、取り組み状況をたずねたところ、「対応をすでに行っている」、もしくは「検討している」と答えた企業の割合は、全体で28.0%だった。業種別に見ると最も高かったのは金融・保険業の85.7%。一方最も低かったのが、観光産業の20.3%である。中でも、旅行業が16.0%と最も低い結果となった。

従業員数別に見ると、1001名以上では9割を超える企業が「すでに行っている」または「検討している」と回答したのに対し、従業員数が100人未満では、取り組みを示す回答は2割前後に留まる。本調査では、回答した旅行業の約75%は従業員数が10名未満であり、SDGsに対応できない一因として、人員などのリソース不足も挙げられそうだ。

 

観光産業ではビジネス効果への期待が比較的高い

次に、SDGsに取り組む効果をたずねたところ、全業種で回答が多かった上位3つは、「従業員の意識の向上(55.8%)」「ブランド力が向上(34.9%)」「経営方針が明確化(28.6%)」。観光産業でも、この3つが上位を占めたが、興味深いのは、取り組む効果として「売上の増加」「収益の増加」「取引先の増加」と答えた割合の高さだ。全業種と比較すると抜きんでて高い。また、SDGsに取り組んでいる企業と比較しても、観光産業での回答率の高さが目立つ。観光産業はSDGsへの取り組み率が低いにもかかわらず、ビジネス効果への期待が高いのが顕著だ。これはビジネス効果への期待がなければ積極的に取り組みづらいとも読み取れる結果といえよう。

 

「雇用」や「技術革新」への積極性がSDGsの達成に求められる

SDGsでは下の表で示す通り、17のゴールが定められている。それぞれのゴールをリスク、チャンスのいずれと考えるかという質問に対しては、リスク、チャンスともに、全業種と比較して観光産業での認識が高かったのは、「環境(ゴール6,13、14、15)」、「平和と公正(ゴール16)」、「パートナーシップ(ゴール17)」に関するものだ。一方、認識が低かったのは「雇用(ゴール8)」と「技術革新(ゴール9)」。働きがいやキャリア形成、デジタル化への取り組みに消極的で、その重要性への認識が今後の課題と考えられる。

 

観光産業での課題はリソース不足の解消

次に、SDGsに取り組む企業に「現状の課題」を聞いた。全体で最も多かった回答は、「定量的な測定が難しい(56.6%)」。次に、「社内の認識が低い(37.4%)」「必要な人材が不足している(37.0%)」と続く。観光産業でも「定量的な測定が難しい」は最も多い回答だが、注目は、「必要な人材が不足している」「運用する時間的な余裕がない」「必要な予算が確保できない」という回答が全体と比べて多くなっている点である。SDGsに取り組むリソース不足という課題は、ここからもうかがい知ることができる。

また、SDGsの取り組みに対して期待する支援策をたずねた回答では、「SDGsに取り組む際に利用できる補助金」という回答が観光産業では最も高く、全業種と比べても多い回答となっている。

 

観光産業の競争力の源は「顧客対応力」、一方弱みは…?

最後に、SDGsの取り組みと企業の競争力との因果関係をさぐるために、「自社の企業としての競争力の源泉」をたずねた。全業種で回答数の多かった上位4つは、「安定顧客の存在」「顧客対応力」「地域に根差した/地域密着のサービス」「長期的な取引関係」で、いずれも5割前後の回答数にのぼった。観光産業での上位4つも同じ結果だったが、中でも「顧客対応力」は、全業種と比べて10%近く多い回答数を得た。一方、全業種と比べて低い回答数だったのが、「優秀な人材の確保」と「オンリーワンの技術力」。いずれも8%程度低い結果だった。

本調査での結果から、観光産業におけるSDGsへの取り組みはかなり遅れていることが示された。その要因は、観光産業では、回答企業の大半が中小規模の旅行事業者だったことから、十分な人材や時間、資金の確保が難しいという点にある。SDGsが目指す目標が「経済・社会・環境のバランスがとれた社会」であるならば、今後、ビジネスとしてSDGsに取り組む道筋をいかに示すかも、観光産業でSDGsを推し進めるうえでのポイントとなってくるといえよう。

 

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