インバウンドビジネス入門! 業界の現状や歴史を解説

2025.04.08

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1. インバウンドとは?

いまやビジネスを語る上で欠かせないキーワードとなった「インバウンド」。元々は「入ってくる、内向きの」という意味を持つ言葉ですが、現在では「訪日外国人観光」を指すのが一般的です。

2003年に政府が観光立国を宣言してから、この言葉は広く使われるようになりました。その後2015年には流行語大賞にノミネートされ、市民権を得ました(ちなみにその年の大賞はインバウンド消費を象徴する「爆買い」でした)。なお、日本人が海外へ旅行する場合は「アウトバウンド」と呼びます。

 

2. インバウンドがなぜ注目されているのか?

日本の国内外を取り巻く環境の変化

グローバル化する現代では、日本経済の新たな成長エンジンとして、インバウンドはますます注目を集めています。多くのビジネスがインバウンドを視野に入れ、戦略を練り直す中で、改めてその意義を理解することは、今後のビジネス展開において不可欠と言えるでしょう。ここからは、インバウンドが注目される理由と、なぜインバウンドに取り組むべきなのかについて考えていきます。

・日本の人口減少と国内市場の限界

日本の人口は2008年をピークに減少期に入りました。今後、長期の人口減少が続き、2048年には1億人を切って、2050年には9515万人、2060年には8674万人になると予想されています。生産年齢人口(15~64歳)も総人口に沿うように減少していく様子はグラフからもわかるでしょう。つまり、人口減少に伴い、国内のみの事業展開では減収が目に見えているのです。

日本の人口推移

・ 急成長する世界の旅行市場

一方で、世界の旅行市場は拡大を続けています。2010年の世界の観光客は9億5500万人でした。UN Tourism(当時UNWTO)は、2020年には14億人との予測値を出しましたが、2018年には2年も早くその数を達成し、14億800万人を記録、2019年にはさらに伸びて14億6500万人となりました。その陰には2010年~2019年の平均伸び率が最も高かったアジア・太平洋地域の成長があります。

コロナ禍の数年、世界観光は低迷を余儀なくされましたが、2024年の旅行者数はコロナ前の水準の99%に当たる約14億人まで回復。2030年には18億人になると予測されており、アジア圏の更なる成長に期待が高まっています。

世界の観光客数と成長予測

UN Tourismによると、2019年の国際観光輸出額(国際観光収入+旅客輸送)は1兆7420億米ドル(約188兆8800億円)に増加し、世界の輸出区分で、観光は、燃料、化学に次ぐ第3位に入り、自動車関連を上回りました。

世界の輸出額2019年

なお、UN Tourismの2024年版International Tourism Highlightsによると、コロナ禍の2022年の国際観光輸出額は1兆3500億ドルで、燃料、化学製品、食品)、自動車製品に次ぐ世界第5位の輸出品目となっています。2023年のデータはまだ発表されていませんが、観光業の回復に伴い、再び順位を上げるのは間違いないでしょう。

海外旅行中の財布の紐はどんな国の人でも緩くなります。訪日外国人観光客も同じで、「外国人旅行者8人分」の旅行支出と、「定住している日本人1人」の年間消費額が同じという2019年の観光庁のデータもあります。

人口減少により、国内経済のみでは成長が期待できない中、「観光インバウンド」が日本の経済成長の切り札として注目されているのです。

 

3. インバウンドの現状

2025年の春、日本のインバウンドはコロナ禍からの回復を遂げ、さらなる成長を続けています。

2020年3月のパンデミック宣言以降、世界的な渡航制限により、日本のインバウンドは壊滅的な打撃を受けました。しかし、2022年春から日本政府は段階的に水際対策を緩和し、2023年4月29日にはすべての入国制限を撤廃しました。

2024年日本のインバウンド市場、客数、消費額ともに過去最高を更新

コロナ禍で激減した訪日客数は、2023年には2500万人を超え、パンデミック前の2019年の8割程度まで回復しました。円安や水際対策の撤廃が追い風となり、2023年10月以降は2019年同月比を上回る月も出るようになり、2024年には2019年比15.6%増の3686万9900人で過去最高を記録しました。

訪日外国人数の推移2024年

インバウンド消費額は、2015年に飛躍的な伸びを示して初めて3兆円を突破すると、2017年には4兆円を超え、2019年は4兆8113億円でした。コロナ禍で低迷したものの、2023年は5兆2923億円で2019年を上回り、2024年は8兆1395億円と、訪日客数とともに過去最高を更新しました。

また、2024年の訪日外国人旅行者の1人当たりの旅行支出は、22万7000円でした。日本人の1人当たりの宿泊旅行が6万9336円でしたから、単純に見ても1人当たり日本人の3倍以上を支出している形になります。外国人旅行者は日本人旅行より経済効果が高いと言われる所以です。

訪日外国人の旅行消費額2024年

2030年6000万人、15兆円達成に向けた新たな計画策定へ

政府は2023年3月に6年ぶりに改定された観光立国推進基本計画で、観光政策の方向性について、「持続可能な観光地域づくり」「消費額拡大」「地方誘客促進」の3つのキーワードを掲げ、2025年をめどにインバウンド回復、国内交流拡大に集中的に取り組むとしましたが、その中で挙げた以下ののうち上3つはすでに2024年に達成されました。

一方で、地方部の滞在日数は目標を下回るなど課題も残されています。「明日の日本を支える観光ビジョン」で掲げた2030年に6000万人15兆円の目標は引き続き維持されており、新たな基本計画を、2026年末までに完成させる予定です。

訪日外国人旅行消費額単価 20万円/人(2019年の25%増)→22.7万円
訪日外国人旅行消費額5兆円の早期達成→8兆1395億円
・訪日外国人旅行者数 2019年水準(3188万人)超え→3686万9900人
・持続可能な観光に取り組む地域数 100地域
・訪日外国人旅行者一人当たり地方部宿泊数 2泊 (2019年の10%増)
・日本人の海外旅行者数: 2019年水準(2008万人)超え
・アジア主要国における国際会議の開催件数に占める割合 アジア最大の開催国(3割以上)にする、2019年アジア2位(30.1%)

2025年度観光庁予算、持続可能性、地方へのインバウンド誘致などの3本柱で展開

なお、観光庁の2025年度の当初予算は、前年度比約5.4%増の530億円3300万円が決定しました。前年度と変わらず、「持続可能な観光地域づくり」、「地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組」、「地域交流拡大」の3本柱を軸に構成されています。

・持続可能な地域づくり: 53億9900万円

中でもICTやDXなどのデジタル技術を活用した観光振興に重点が置かれました。

「ICT等を活用した観光地のインバウンド受入環境整備の高度化」(18億6600万円)
「DMOを核とした世界的な観光地経営モデル事業」(2億5000万円)
「全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業」(12億3000万円)
「ICT等を活用した観光地のインバウンド受入環境整備の高度化」(18億6600万円)

・地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取り組み:464億1800万円

大阪・関西万博を契機とした全国への誘客プロモーション強化と、新たな観光客層の開拓や、観光コンテンツの質的向上による消費拡大を図るための施策が打ち出されました。「戦略的な訪日プロモーションの実施」(130億円)

「新たなインバウンド層の誘致のためのコンテンツ強化等(歴史的資源を活用した観光まちづくり、ローカルガイド人材の持続的な確保・育成を含む)」(25億2000万円)
「デジタルノマド誘客促進事業」(10億円)

・国内交流拡大:4億600万円

予算にはインバウンドのさらなる増加へ向けた施策が多く盛り込まれています。これらの施策により、2025年にはこれまで以上に質の高いインバウンドを実現することが期待されます。

 

4. 世界から見た日本の観光インバウンド市場

2024年の国際観光市場の動向

国連世界観光機関(UN Tourism)が発表した2024年版の国際ツーリズム・ハイライトによると、日本は2023年の海外旅行者数(国際観光客到着数)で世界13位、アジア太平洋ではタイに次ぐ2位でした。2019年にトップ10に入っていた中国、タイがトップ10圏外となり、トップ10はコロナ禍からの回復が早かった欧米が占めています。

国際観光客到着数ランキング2023年

2023年の国際観光収入ランキングでは、日本は全体の9位、アジア太平洋ではオーストラリアに次ぐ2位になりました。

アメリカは1位を維持したものの、欧州諸国が2019年比でプラスになっているのに対し、まだマイナスのままでした。中東のUAEが大きく順位を上げています。

国際観光収入ランキング2023年

インバウンド消費は日本の輸出産業で2位

また輸出産業という側面で見ると、インバウンド消費は、自動車産業に次ぐ規模を誇っています。2023年は3位でしたが、インバウンド市場の拡大により、2024年は2位に浮上しました。

インバウンド消費額と主要品目輸出額の比較2024年

以上、インバウンドに取り組むメリットとインバウンドの現状を解説しましたが、ここで、日本のインバウンドのこれまでを振り返ります。

 

5.日本のインバウンドの歴史、黎明期から観光立国へ

明治時代に、民間のインバウンド専門機関が誕生

日本のインバウンドの歴史は、明治時代に始まりました。1893年(明治26年)、日本初の外客誘致専門の民間機関である「喜賓会」が誕生しました。当時の日本を代表する実業家、渋沢栄一が国際観光事業の必要性と有益性を唱え、訪日外国人をもてなす目的で設立したもので、海外の要人を多数迎え入れ、各種旅行案内書の発行などを行いました。

1912年(明治45年)には、後の日本交通公社(JTB)となるジャパン・ツーリスト・ビューローが創設され、鉄道省の主導のもと、外国人向けの鉄道院委託乗車券の販売や海外案内所の設置など、訪日外国人観光客の誘致を行いました。明治中期以降の日本におけるこれらのインバウンド施策は、当時の世界の観光先進国と比較しても遜色のないものでした。

戦後も、外貨獲得のために外国人旅行者の誘致に力が入れられ、1964年(昭和39年)の東京オリンピック開催に向けて、外国人旅行客を受け入れるインフラが整備されました。

高度経済成長とアウトバウンドの隆盛

しかし、先進的だった日本のインバウンドビジネスは、1970年(昭和45年)頃から成長が鈍化しました。その要因は大きく分けて二つあります。一つは、日本の観光業界が国内市場に重点を置くようになったこと。もう一つは、1964年に観光目的の海外渡航が自由化されたことです。高度成長期には、海外へ出かける日本人(アウトバウンド)が増加。1964年に22万人だったアウトバウンドは、1971年(昭和46年)には96万人に達しました。

インバウンドは、大阪万博が開催された1970年に85万人のピークを迎えましたが、翌年の1971年にはアウトバウンドがインバウンドを上回りました。その後、円高の影響もあり、インバウンドよりもアウトバウンドの市場が拡大。1995年(平成7年)にはアウトバウンドが1530万人、インバウンドが335万人と、アウトバウンドが約5倍に増加しました。

その翌年、1996年(平成8年)には、運輸省が、訪日外国人旅行者数を2005年(平成17年)時点で700万人に倍増させることを目指した「ウェルカムプラン21」を策定しました。また、2002年(平成14年)の日韓ワールドカップサッカー大会の開催は、インバウンドにとって追い風となりました。しかし、アジアへのアウトバウンドが増加するなど、インバウンドとアウトバウンドの差は以前として拡大傾向にありました。 

2003年、「観光立国」を目指す

そこで、2003年(平成15年)、政府はビジット・ジャパン・キャンペーンを立ち上げ、国を挙げて観光振興に取り組み、観光立国を目指す方針を示しました。それから10年後の2013年(平成25年)、訪日外国人客数が目標であった年間1000万人を突破すると、新たに2020年までに2000万人、2030年までに3000万人にするという目標が掲げられました。

同年には、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、円安も追い風となって、2015年(平成27年)には訪日外国人客数1973万7000人を記録しました。2000万人まであと一歩に迫ると同時に、大阪万博が開催された1970年以来45年ぶりに、入国者数が出国者数を上回りました。

目標上方修正とさらなる成長

訪日外国人客数が予想を上回るペースで増加していることから、政府は2016年(平成28年)春に 「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、その中で「2020年に4000万人、2030年に6000万人」という新たな目標を掲げました。2016年に初めて2000万人を突破し、2018年には3000万人を突破しました。

訪日外国人数と出国日本人数の推移1964年_2019年

このように順調な伸びを示していましたが、2019年(令和1年)には、ラグビー・ワールドカップの開催で欧米豪からの訪日客は増加したものの、日韓関係の悪化の影響で韓国からの訪日客が大幅に激減したため、前年からの伸びは2.2%増にとどまりました。

訪日外国人数と出国日本人数の推移2003年_2024年