インバウンドコラム
コロナ禍で苦境に立たされている事業者を支援しようとクラウドファンディングが広がっている。持続化給付金や休業補償などの支援策もあるものの、家賃や従業員への給与支払いなどといった目先の支払いには十分ではなく、不安を抱えている事業者も多い。そんななか、クラウドファンディングは事業者にとっては、幅広い層から手元の資金を確保でき、支援側は気軽にお店をサポートすることができるため、利用者が急増している。当初は飲食店や宿泊施設などの民間企業を中心に、未来チケットを販売する形でスタートしたが、その後、自治体が参加する事業者を募り、事業者を選択して支援する旗振り役として主導するような動きも見られる。今回は、観光事業者を支援するクラウドファンディングの取り組み事例を紹介する。
未来の旅行チケットを購入できる、千葉県館山の取り組み
2019年秋、房総半島を直撃した台風で大きな被害を受けた館山市。そこから立て直しを図っていた矢先、今度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で観光業は大打撃を受けている。館山の観光の灯が消えないように、自分たちで出来ることはないかと市内のホテル・旅館などの宿泊施設や、ダイビングショップなどの体験事業者が集まり、未来の館山の旅を考える「みら・たび・たてやま実行委員会」が結成された。実行委員会では館山市の協力を得て、5月28日~6月28日までクラウドファンディングを実施している。
支援の内容は、2パターンある。一つは、応援したい宿・体験・観光施設で将来利用できるチケットを購入するコースと、もう一つは観光事業全体を支援するコースがある。応援する施設を選択するコースでは3000円~5万円まで5つの金額設定を選ぶことができ、支援者は申し込んだ支援金の1割増しの「たてやま旅チケット」を受け取ることができる。チケットの有効期限は2020年8月20日〜2021年8月31日まで。
事業全体を支援するコースでは、集まった金額から諸経費を差し引いた分を参加した全施設で均等に分配する。目標金額は200万円に対し、6月11日現在231万1000円が集まっている。
つくば市が購入金額に2割上乗せ 筑波山観光地を支援するクラウドファンディング
日本百名山の一つで毎年多くの登山客で賑わう筑波山。緊急事態宣言が解除されたものの、県外からの移動は自粛が続き、ハイキングは三密を避けて楽しめるアウトドアレジャーであるにも関わらず、客足は戻らないままだ。この苦しい状況を何とか乗り越えようと、つくば観光コンベンション協会と茨城県つくば市は連携して、将来、筑波山観光で使用できるチケットを購入してもらうクラウドファンディングを始めた。目標金額100万円に対して6月11日現在、91万7500円が集まっている。
支援方法は3種類。1つ目が「筑波山観光地応援チケット」の購入、2つ目は個別事業者を指定して1口2500円から支援するコース、3つ目が事業全体への支援だ。応援チケットコースでは、申込支援金額に、つくば市が2割を上乗せした額面のチケットを支援者に送る。チケットは同封のマップに掲載されている筑波山周辺の飲食店、お土産店、筑波山ケーブルカー、ロープウェイ、タクシー会社、日帰り温泉施設、テーマパーク、陶芸体験教室などで使うことができる。利用可能期間は2020年8月1日〜2021年2月28日まで。
茨城県大洗町 開始から8日間で目標額2,000万円を達成
大洗観光協会ではクラウドファンディングによる観光事業者への支援策『大洗「おかえり」ミッション!』を実施、募集開始からわずか8日間で目標金額2,000万円を達成した。
大洗観光協会長の大里明氏は「まさか、こんなに早く達成できると思っていなかった。プロジェクトページには、大洗町を愛する多くのファンの声が寄せられ、苦境に立つお店にとって心の支えとなっている」と話す。目標金額達成後も多くの支援が続いていることを受け、5月12日にはネクストゴールを3,500万円と設定したところ、5月30日に達成。現在は5000万円をネクストゴールとして6月30日まで引き続き支援を募っている。また、当初の参加店舗は約50だったが、現在は約130店舗まで増えている。
短期間で資金調達可能なクラウドファンディングの利用が急増 CAMPFIREでは、コロナ支援プロジェクトに開始3ヶ月で44.1億円超
クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」によると、5月の流通額が前月対比180%、前年同月比590%の38.9億円と過去最高を記録し、利用が急増している。
CAMPFIREでは、コロナ禍によって経営・生産に大幅な支障をきたした事業者を対象に、支援金振込時に掛かるサービス手数料12%をゼロとする「新型コロナウイルスサポートプログラム」を立ち上げたところ、6月1日までにプログラム申請数は4,100件、その内、資金調達を開始した事業者は延べ2,170社、支援者数は41.6万人、総支援額は44.1億円にのぼる。利用が最も多いのが「飲食」の910事業者で17.1億円、次に「音楽」が560事業者で14億円、「宿泊・地域」が280事業者で7億円と続く。3億円近い調達に成功する大規模なプロジェクトもあった。平均して1社あたり約200万が支援された形になり、公的資金や融資などと比べても遜色のない金額が支援として集まっている。
自治体・商工会議所を主体とした地域・エリアを挙げた大規模な取り組みも増加している。2018年から2020年6月1日までに連携数は自治体数50、商工会議所は20を超え、資金調達に至ったプロジェクトは延べ250件超ある。特に新型コロナウイルスサポートプログラムを開始した3月以降では、資金調達を開始したプロジェクトは21件、調達額は4.6億円となった。エリア別にみても、3月~5月のプロジェクト掲載数が関東エリアで前年同月比188%、関東以外のエリアでも前年同月比209%と共に大きく増加しており、全国的に利用が広まっている。
京都では会員のクラウドファンディングを紹介するポータルサイトを開設
京都市観光協会(DMO KYOTO)は、京都を好きな人たちが京都を応援し、つながるためのポータルサイトとして「京都つながるNAVI」を立ち上げた。DMO KYOTOに加盟している会員事業者がクラウドファンディングサイトCAMPFIRE、Motion Gallery、Makuakeなどを通じた資金調達や購入・寄付などを行うプロジェクトをまとめて紹介している。例えば、京都のロクロ体験事業者が実施するプロジェクトでは支援金額に応じて、職人手作りの器が届く。市内のホテルでは未来の宿泊チケットを購入してもらうことで支援金を募るプロジェクトも紹介されている。
新しい資金調達の方法として広く普及するクラウドファンディング。苦しい状況のなか、支援者からの声が観光事業者の精神的な支えになっている。旅行ファンにとっては好きな観光地存続のため一役買うことができ、観光地にとっては支援してくれる一人一人の顧客の存在を改めて認識するきっかけにもなっている。
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