インバウンドコラム
新型コロナウイルスの世界的大流行で、大打撃を受けた観光業界。なかでも航空業界では出入国制限や外出自粛により国際線・国内線ともに大幅な減便を余儀なくされ、深刻な状況が続いている。Go toキャンペーンが開始され、国内線は徐々に動き出したが、リモートワークやオンライン・ミーティング、webセミナーなど極力人が移動しなくても済むようなスタイルが浸透するなかでビジネス客の戻りも鈍い。顧客をつなぎとめるため、航空業界で始まった新たな取り組みを紹介する。
緊急事態宣言以降、需要が一気に落ち込む航空業界
緊急事態宣言が発表され、外出自粛が全国的に強化された4月から航空需要は大幅に落ち込んだ。4月の羽田空港における国内線旅客数は前年同月から約478万人減の47万8067人、前年同月の9.1%に過ぎず、国際線は前年同月から約154万人減の2万9828人、比率はわずか1.9%まで落ち込んだ。なお、成田空港でも国際線旅客者数は前年同月比2%の6万9849人のみとなった。
緊急事態宣言が解除された6月からは国内線は徐々に戻りを見せている。6月の羽田空港における国内線旅客数は前年同月比19.1%まで回復した。一方で、国際線は各国における出入国規制や検疫体制の強化の影響もあり、低調のままだ。6月になっても羽田空港の国際線旅客数は前年同月比1.2%と低いままで、成田空港でも6月で同3%、7月も3%と横ばいのままだ。
国内線は改善方向に戻るも、国際線は依然として厳しい状況
直近の現状を7月の成田空港の航空機発着数でみると、国内線は前年同月比41%の1982回で、国内移動制限の緩和やLCC各社の復便により6月の同16%から大幅に改善した。国際線は前年同月比15%の2438回で、3月から6月まで、前年同月比15%程度のまま横ばいが続いている。
また、今後の航空路線の運航状況については、航空各社が発表する当初事業計画からの減便率でみると、全日空(ANA)の国内線では9月の減便率47%、10月は43%という見通しを発表している。日本航空(JAL)の国内線でも9月が40%、10月は34%との見通しを発表、両航空会社共に半数以上は計画通りの運航を予定しており、小幅ではあるが改善方向に向かっている。
一方、国際線については、ANAでは9月の減便率が89%、10月は87%、JALでは9月が87%、10月は86%となっており、運航は依然として当初計画の1割前後という状態が続く見通しだ。ただ、帰国やビジネス需要などに応えるため、10月以降、国際線運航再開の動きも出てきている。ANAでは、10月から成田=ホノルル線、羽田=ヒューストン線の運航を再開、そのほかにも羽田=シドニー線、パリ線、成田=ニューヨーク線、メキシコ線を増便することを発表している。JALでも、羽田=台北(松山)線を再開、9月までは往路のみだった羽田=シドニー線で往復運航を再開するという。
運休する自社機材を活用し、旅行気分を味わえる体験プログラムを開始
台湾の航空会社や空港では、相次ぐ運休や減便で出番を失った航空機材などを活用し、まるで海外旅行に行ったかのような気分を味わえる観光フライトサービスをいち早く提供、定員を大幅に上回るほどの大盛況ぶりを見せる動きが見られたが、日本の航空会社も工夫を凝らす動きが出ている。
ANAではハワイへの旅行気分を味わってもらおうと、自社のエアバスA380を使った成田空港発着の体験飛行「ANA FLYING HONU」を8月に実施した。約90分間の体験飛行でエコノミークラス1万4000円~ファーストクラス5万円の参加費だったが、定員に対して約150倍もの申込が殺到した。好評を受け、9月20日にも実施する。
JALでは夜景や日の入り、星空などが体験できる成田発着の周遊チャーター「空たび 星空フライト」を9月26日に実施する。通常ハワイ線で使用する機材に乗り込み、機内食を食べたり、海外旅行気分が味わえるような体験を提供する。窓際のみの席を販売することで密を避けたり、夜景や日の入りを観察しやすい翼を避けた席を高価格帯で販売するなどの工夫がなされており、チケットは既に完売となっている。
航空会社でも、オンラインツアーやセミナーなどの動きが加速
航空機を使った体験以外にも顧客との接点を継続させようと、オンラインを活用した取り組みも行なっている。JALでは、家で気軽に旅の楽しさや素晴らしさを味わってもらおうと、仮想フライト体験と全国各地の特産品物販をセットにしたリモートトリップを7月から開始した。第一弾は株式会社島ファクトリー(島根県隠岐郡海士町)と、第二弾は一般財団法人VISITはちのへ(青森県八戸市)と協業している。
また、子供が家族と一緒に自宅で楽しく学べるよう「リモート社会科見学」を6月に実施し、キリンビバレッジ湘南工場とJAL羽田整備工場の様子をオンライン生中継で無料公開した。
一方、ANAでは旅に行けない今の時期、自宅にいながら日本各地産品のお取り寄せを通じてご当地を味わえる「おうちでごとうち」プロジェクトを6月に開始。秋田県のおつまみとお酒セット8000円コースや北海道の冷凍ホタテと乾燥貝柱セット1万円コースなど、クラウドファンディングを通じて購入できるようにした。支払いは、クレジットカードのほかにも貯めておいたANAマイルでもできるようにした。
またグループ会社のANAトラベラーズでは、海外旅行を待ち望むお客様に向けて、各国の状況や旅に役立つ情報などを届けようと、ベテラン添乗員やツアー企画者によるオンラインセミナーを開催している。また、ハワイ州観光局やシンガポール政府観光局など各国の観光局と連携し、現地の最新情報や動画コンテンツなども提供する。
テクノロジーを活用した非接触型の接客サービスを模索
コロナ禍で感染リスクを最小限にするため、非接触・非対面の接客サービスの確立も不可欠だ。JALではパナソニックと共同でアバター式リモート案内サービスの実証実験を9月14日~25日まで羽田空港で実施する。離れた場所にいる係員がディスプレイ上のアバターを通し、出発や搭乗の案内をする。また、NECと南紀白浜エアポートとの共同で、顔認証によるキャッシュレスの実証実験を10月から予定している。既に南紀白浜地区では実施していたが、羽田空港での顔認証決済は初めての取り組みとなる。
他方、ANAでは、カウンターに並ばず非対面で手荷物を預けられる自動手荷物預け機「ANA Baggage Drop」を羽田空港、新千歳空港、福岡空港、那覇空港に続き、7月から伊丹空港にも導入した。海外の航空会社では同様のサービスを導入しているところもあるが、日本国内では初となる。
長期的視野に立ち、ワーケーション需要も取り込む
感染症の長期化が進み、新しい働き方としてワーケーションにも注目が集まり、各航空会社もニーズの取り込みを図っている。
JALでは、2017年にワーケーション、2019年にはブリージャーを既に導入して、ワークスタイル変革にいち早く取り組んできた。そしてwithコロナ、afterコロナを見据えた長期的な取り組みとして、地域と共創型の新しい働き方・休み方を目指し10月から来年の4月にかけて日本各地にJAL社員を派遣して実証実験を行う。労働力不足などの地域課題を抱える、石川県、岩手県、兵庫県、宮崎県で、エリアごとに計5~10名程度がワーケーションを活用しつつ、社会貢献活動に参加する。
なお、ANAトラベラーズでは働く世代に対する新たな旅のスタイルとして、旅行と仕事を掛け合わせた旅行商品「ワーケーション in 沖縄」を6月から販売開始した。
国際的な人やモノの動きを支える航空インフラはどの国や地域にとっても欠かせない存在だ。コロナ禍で運休や減便が相次ぎ、当初の計画から大幅減となるなか、自社の機材を活用した体験飛行プランや、家に居ながら旅行気分を味わえるオンラインツアーなどは、顧客とのつながりを維持できる点でも意味があると言える。航空業界の各社取り組みからは、コロナ禍で生まれる新たな需要に呼応しつつ、非対面非接触型サービスに向けて着実に歩みを進める様子も見えてきた。厳しい状況のなかでも将来を見据え、出来ることを進める航空会社の取り組みを一つの参考にしたい。
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