インバウンドコラム

「ライフスタイル」を売る、フィンランドが仕掛けたデザインプロモーション

2021.11.01

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(提供:Visit Finland)

オーロラの見られる国としてブランディングに成功したフィンランドは、季節変動(シーズナリティー)が大幅に改善し、ヨーロッパでも珍しい冬に第2のピークシーズンのあるデスティネーションとなった。オーロラ観測という商品の性格上、北極圏のリゾートに3泊する商品が定番となり一人当たりの宿泊数も増えた。

そうなると次のステップとして、今度は雪のないシーズンの新たなブランディングが必要となった。夏の旅行者数は多かったが、ほとんどが北欧周遊のため、フィンランドでの宿泊は長くても2泊。ハイキングやスパホテルも訴求し、個人旅行者の指示を集め、長期滞在化にもつながった。ただし、旅行業界においてフィンランド旅行の主力商品となるには至らなかった。

 

日本発案でデザインを旅行テーマに

そこで次にフィンランド政府観光局が2001年から日本市場向けに取り組んだのが、フィンランドデザインプロモーションだ。北欧デザインは長い歴史があり、デザイン業界では定番のカテゴリーだ。ただプロモーションを始めた当初は旅行とは無縁のテーマで、デザインを目的に一般の旅行者がフィンランドを訪れるとは思われていなかった。

しかし、フィンランド人にとってデザインは日常の生活に根付くもので、気がつけばそこにデザインがあるという、ライフスタイルの一部のようなものだ。高価だがシンプルなので世代を超えて長く使える、日常使いのためのデザインが多く飾らない、モチーフはフィンランドの自然をもとにしたものがほとんどで親しみやすい。ライフスタイルを商品にするアイデアは、このフィンランドデザインプロモーションが出発点となった。

なお、デザインプロモーションは日本から発案し、日本市場向けに特化したローカルプロモーションである。


(提供:Visit Finland)

 

消費者本位で進めたプロモーション

デザインプロモーションはオーロラの場合とは真逆で、まず一般の消費者に焦点を当て、旅行業界にはそれに合わせて商品を造成してもらった。プロモーションを進めていく上で考えたのは以下の4つのポイントだった。

1.ターゲットを年齢や性別で設定しないで、北欧デザイン好きとその可能性のある層に設定

北欧デザインは1970年台に第一次ブーム、1990年代後半から第二次ブームが始まったため、ファンの年齢層が広い。そのため、年齢や性別でターゲット設定せず、北欧デザイン好きとして海外旅行ファンでない新しい層にもアプローチすることを目的とした。

2.プロモーションは旅行業界以外の産業とコラボしてデザイン好きにコンタクトする機会を増やす

家具や雑貨などデザイン業界は勿論、音楽、ファッション、食、映画とのコラボレーションを通してデザイン好きとのコンタクト機会を創出した。例として、 2001年から9年に亘り毎年1カ月間開催した「フィンランドカフェ」ではデザイナーのプレゼン、ファッションショー、ジャズライブ、ムービーナイト等のイベントも開催し、毎年1万人以上の集客を実現した。


▲フィンランドカフェのイベントは多くの人でにぎわった

また映画「かもめ食堂」の制作に協力し、映画中に自然な形でデザインを紹介した。「かもめ食堂」は1年以上のロングラン上映となり15万人以上の、主に女性が鑑賞した。その効果は5年以上に亘り続き、ロケサイトはデザインで訪れる観光客以外にも大人気となった。

3.PRでは全体の露出量よりも媒体一つあたりの露出量と媒体のクオリティーを優先

取材やタイアップ記事は最低20ページを協力の条件とした。フィンランドは一目でわかる観光アイコンが少ないので、情報量がないと魅力が伝わらない。デザインがテーマになると、記事そのものにデザイナーのインタビューや実例の紹介などのコンテンツが加わるので素材不足にもならず、100ページを超える特集記事もあった。

4.有料、書店販売という新しいパンフレット形態でプレスに訴求

新しいコンセプトのパンフレット「TORI(トリ)」を2004年から2008年まで年1-2回発行した。通常政府観光局のパンフレットは無料配布だが、これはパンフレット作成のためフィンランド現地取材も行い、徹底的に記事内容のクオリティーにこだわった。それを有料で書店やデザインショップで販売した。特にTV局やラジオ局、出版社周辺の書店に集中配本し、プレスの方々のネタ本を目指した。

これにより政府観光局からの依頼という形でなく(この場合は、有料となることが多い)、取材依頼や問い合わせが増加した(先方からの依頼なので条件を調整できる)。

このような施策でフィンランドデザインは徐々に浸透し、最終的に旅行会社によるパッケージツアーでも「暮らすように旅する」というキャッチフレーズで、ヘルシンキの街を歩きながらデザインを楽しむというコンセプトの商品化ができた。ライフスタイルを商品化することで良いことといえば下記のようなことだろうか。

・その国や地域のユニークな文化なので競合が少ない
・オーセンティック(本物)なので奥が深くて息の長いプロモーションがしやすい
・通常の旅行プロモーションでは接する機会のない層も見込み客になる
・デスティネーション先の人々も抵抗なく受け入れられ協力しやすい


▲北欧をモチーフにしたカフェ

なお、3年前からフィンランド政府観光局は次なるライフスタイル商品として「サウナ」をプロモーションしている。ここでの新しい見込み客はミレニアル世代以下の男性だ。

 

季節変動に対する2つの対策

最後に、ブランディングに加えて季節変動(シーズナリティー)について考えてみたい。シーズナリティーの改善は全世界共通のテーマだ。私はシーズナリティーの改善には以下の2種類の方法があると考えている。

・ローシーズン対策の商品造成

オーロラはちょうどこれに当たる。オーロラは暗くて寒い冬ならではの自然現象だ。ただ、ローシーズンにはそれ相応の事情があるので商品造成は簡単ではない。

・オールシーズン体験可能な商品の開発

もし商品が全世代の旅行者がオールシーズン利用できたり、体験できればどうだろう。旅行商品にはシーズンにより価格の上下があるが、限られた予算しかない旅行者は必然的にショルダーシーズンやローシーズンに訪れるので自然にシーズナリティーを改善できる。

 

株式会社Foresight Marketing CEO/元フィンランド政府観光局日本局長
能登 重好

大手旅行代理店勤務を経て、1993年フィンランド政府観光局にマーケティングマネージャーとして入局、1996年より同日本局長。20年以上にわたりフィンランドのプロモーションに関わっている。2010年に株式会社Foresight Marketingを設立し、現在もVisit Finland (フィンランド政府観光局の現在名)の業務を助けるほか、バルト三国の政府観光局の日本代表、EUによるプロジェクトのマーケットスペシャリストとしてプロモーションの戦略立案、マーケティングにも関わる。

 

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