インバウンドコラム

【体験レポ】京都の隠れスポットをまわる4時間のサイクリングツアーに、30分の祇園散策が組み込まれている理由

2024.04.17

山本 紗希

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兵庫県姫路市在住の山本紗希です。現在は、京都大学経営管理大学院で観光を学んでいます。新卒から10年間、香川県の琴平バスに勤め、香川発着のバスツアー企画と添乗を担当していました。これまでの経験をもとに、訪日客に人気の体験ツアーに参加し、その内容や様子、どのような工夫がなされているのかを紹介していきます。

今回、私が参加したのは「京都の隠れスポットをまわるサイクリング&祇園散策」ツアーです。東山エリアで3時間半自転車ツアーをした後、30分の徒歩ツアーがついた、合計4時間のガイドツアーです。今回ガイドを務めた藤本賢司さんに参加者の満足度を高めるための工夫やポイントも伺いました。

 

計4時間、サイクリング+祇園散策ツアーの中身

「京都の隠れスポットをまわるサイクリング&祇園散策」ツアーの集合場所は、定番の待ち合わせスポットである三条大橋東側にある土下座像の前。京阪、地下鉄の駅の出口の目の前、かつ大きな像でわかりやすいので、全員がスムーズに集合していました。ウェルカムスナックとして、抹茶味のキットカットが配られ、各々自己紹介をしてから出発します。

ツアーに参加したのは私を含めて8名。カリフォルニアからきた1人参加の男性、ボストンからきたカップル、そしてイングランドからきた4人組のファミリーでした。参加費は、1名1万1000円で自転車レンタル、休憩時のお茶代が含まれています。


▲集合場所で参加者を待つ本日のガイド藤本さん

集合場所に到着後、ガイドの藤本さんはまだ到着していない参加者に対して、場所やガイドを知らせるために写真を撮ってメッセージを送っていました。

参加者が揃ったらレンタサイクルショップで、自転車を各々の身長にあわせてもらい、いよいよ自転車ツアーがスタート。


▲参加者が快適に自転車を利用できるよう、スタート段階で念入りに調整する

まずは、鴨川沿いを北上、序盤は短い間隔でストップしながら自転車の使い方、ガイドが出すハンドサイン、京都ならではの景色の説明が入ります。実際、走り始めてからサドルの高さを再調整したり、日本式の自転車スタンドに戸惑ったりする参加者も多く、序盤での休憩の多さはポイントの1つと感じました。

途中、京都府立医科大学内の敷地を抜け道のように通過し、京都御所の東にある静かな梨木神社へ。神社とお寺の違い、手水舎の使い方、そして京都三名水のひとつ「染井の水」を汲んで、お参り方法をご案内。ガイドの藤本さんが説明した後、ひとりずつ順番に2礼・2拍手・1礼のお参りをしたのですが、参加者の中で日本人は私1人、全員が静かに見ている前でのお参りは人生で一番緊張したかもしれません。


▲手水舎の使い方をはじめ神社でのお作法をレクチャー

そのまま隣の京都御苑へ。参加した3月30日は例年通りであれば京都の桜は満開のはず。ですが、今年はまだまだで、序盤から参加者の残念な声が聞こえていましたが、訪れた京都御苑はほぼ満開。参加者も大喜びで写真を撮っていました。


▲京都御苑で満開の桜をバックに記念撮影

さらに北上して、河合神社と下鴨神社へ。ここでは嬉しいお茶休憩がありました。休憩処さるやにて、下鴨神社の名物「申餅」とお茶をいただきました。餅や小豆の説明をしていましたが、小豆に初めてトライする参加者もいました。

最後は鴨川の飛び石スポットを体験してから、一気に南下して三条まで戻ります。自転車を返して、5分休憩をとり、徒歩ツアーがスタート。


▲フォトスポットでは、ガイド自ら積極的に写真撮影の声掛けをする

ウォーキングツアーでは、祇園を中心に、花街や芸舞妓の説明を聞き、京都の夜におすすめのレストランを紹介してもらいながら歩きました。運よく舞妓さんにも会えて、皆さん満足した様子で、時間通り18時ごろの解散となりました。

私が参加した午後のツアーはこのような行程でしたが、天候や参加人数、参加者属性によって、ガイドがアレンジします。

参加者に話を聞くと、1万1,000円という金額に対して「安い」という声があり、終了後、チップを渡したお客様もいました。最近、春秋の行楽シーズンは試験的に値段を2割ほどあげて販売しているが、予約数に大きな変化はないそうです。

 

なぜ、3.5時間のサイクリングの後に30分の祇園散策を組み込むのか

最初に行われた全員の自己紹介の際に、藤本さんが「Bike friends」というワードを発したことが印象に残りました。「そうだね!今日はバイクフレンズとして仲よくしよう!」といった声から、自然と参加者同士の会話に繋がる瞬間がみえました。参加者同士が自然と話をしてくれることで、ガイドも次の行程を考える余裕が生まれます。

少人数のガイドツアーでは当たり前のことかもしれませんが、ウェルカムスナックやお茶休憩の時間を用意され、フォトスポットでは「写真を撮ってあげるよ」という声掛けがありました。また、写真サービスは進化しており、INSTAXで今日のツアーからお気に入りの1枚をその場で印刷してプレゼントしてくれます。写真はガイドが撮ったものでも、お客様自身が撮ったものでも構いません。お客様が撮影した写真の場合はAirDropでもらって、自転車ツアーとウォーキングツアーの間にプリントして配ります。デジタルを上手に使いこなすことも、ガイドツアーに必要な要素と感じました。


▲私も1枚プリントしてもらいました

そもそも、ツアーの作り自体が本当に良く練られていました。自転車ツアーでは、走行中はお客様と話すことができないので、会話不足は否めず、疑問点の解消も難しくなります。午前、午後いずれのツアーであっても、そのあと食事に行きたいと考えるお客様は多いはず。30分の徒歩ツアーでお勧めのレストラン紹介など会話する時間をとることで、全員が気持ちよく終われる流れだと感じました。


▲祇園の町並みをあるいて周りながら、レストランも紹介

また、当たり前のことなのですが、時間どおりの18時に終わりました。日本ではツアーが盛り上がって時間が延長してしまうツアーも多いと感じます。「その後の予定が決まっているけど、盛り上がっているツアーからも抜けがたい」いくらツアーが盛り上がって延長したのだとしても、参加者にそう思わせてしまうと最終的には満足度は下がると考えます。

 

主催者が語る、ツアー参加者のプロファイル

今回参加したツアーを催行するのは、大阪・京都を中心に募集型ガイドツアーとプライベートツアーの企画造成販売を行っているJapan Exploration Tours JIN-仁です。ガイドを務めた代表の藤本賢司さんによると、参加者は、コロナ前からアメリカの方が圧倒的に多く、半分近くを占め、ついでオーストラリア、シンガポールと続きます。サイクリング好きなドイツやオランダからのお客様も多いそうです。

年齢や属性は、新型のラグジュアリー志向で、贅沢より経験に価値を置き、新しいことへの挑戦や自分にとっての意義を重視するモダンラグジュアリー層、30~40代のカップルが多いということです。


▲今回のツアーも、全員が欧米圏からのお客様だった

予約はAirbnb経由が主流です。現在日本に多く訪れている韓国、台湾、香港などアジア圏のお客様はほぼいません。英語ツアーということ、東アジアのお客様がよく利用するプラットフォームではないからだろうと分析していました。

 

コースの選定は「知的財産」、細部までこだわる理由

主催者として工夫しているポイントは、何よりもコース選定だそうで「私たちの知的財産です」とはっきり話していました。1度決めたコースでも、景色や安全性、季節を考慮してマイナーチェンジを重ねており、通常はガイド1名のところを2名にして、互いにアドバイスや改善点を出しあっているそうです。


▲京都御所隣にある梨木神社、混雑しておらず静かな雰囲気の場所

自転車ツアーの良いところは、柔軟にコースを変えられるところなので、会話の中でお客様の興味関心にあった場所を当日のコースに組み込むこともあるのだとか。

また「あなたのためにカスタマイズした」ことが伝わるような話し方も意識していました。例えば、今回参加したツアーでは、ラグビーの神様と親しまれる雑太社に立ち寄ったのですが、その直前の下鴨神社を出発する前にお客様に「ラグビーは好きか?」と投げかけ「好き」と回答した人がいるかどうかを確認していました。実はここ、もともと今日は立ち寄る予定だったのですが、事前にあえて聞いておくことで「ラグビー好きのあなたのために立ち寄ったんだ」というカスタマイズ感が演出できるということです。

他にも、ローカルガイドがいるからこそ行ける場所、混んでいない場所で歴史的に価値がある、美しい場所を選定しているということです。


▲春シーズンでも静かで落ち着いてお参りができる相国寺

過去に参加したことがある家族や友人にすすめられてこのツアーに申し込んだというお客様はすでに何人もおり、そのためにも目の前の人を満足させることに注力しているそうです。以前イスラエルからきた1人のためにツアーを行った際、そのことに感動したお客様は友人や家族に広めてくれたそう。そのあとすぐ20名ものイスラエル人から問い合わせがあったのだとか。1人の時こそ手厚くもてなすのがコツだと教えてくれました。

現在、1番人気は伏見稲荷を案内するウォーキングツアーで、今後ツアーの数は徐々に増やしたいものの、ヒットツアーを生み出すのは簡単ではないのだとか。藤本さんはオーダーメイドツアーも行っているため、満足度が高かったものを、募集型ツアーにも展開したいと考えているそうです。

今回、ツアーに参加してみて、安全に考慮する、相手の反応を見て柔軟に対応するといったガイドとして当たり前のことを確実にやることの大切さを改めて実感しました。海外からお越しのお客様はマニュアルではない人と人との出会いと案内に価値を感じ、ツアーをリピートしたり、周りへおすすめしてくれたりするのではないでしょうか。

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