インバウンドコラム

【体験レポ】広島の課題解決を目指したツアーが、ゲストのニーズに応じて柔軟に構成を変える理由

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こんにちは!NPO法人湯来観光地域づくり公社の佐藤亮太と申します。普段は、広島市内の湯来町で、アウトドアアクティビティのガイドや、アクティビティを軸としたまちづくり事業を行う傍ら、一般社団法人Hiroshima Adventure Travelの業務執行理事として、広島エリアでのアドベンチャートラベル(AT)商品開発や、ATを軸とした中国地方全体でのプラットフォームの構築に向けて取り組んでいます。

今回は、普段からアクティビティのガイドや開発を行っている立場から、訪日客に人気のツアーに参加し、その魅力や工夫点などを紹介していきます。

 

広島の歴史と自然に触れる「Asageshiki」ツアー

今回参加したのは、一般社団法人My Japanが手掛けている「Asageshiki」というツアーです。広島駅の裏にある、広島東照宮や二葉山を舞台に展開される2020年に誕生した比較的新しいツアーです。それでも、広島の課題解決を目指した成り立ちや、参道を整備しながらツアーが発展してきたその背景から、メディアにも広く取り上げられ、ジャパントラベルアワード2023で感動地として選出されたり、ソーシャルプロダクツ・アワード2024でソーシャルプロダクツ賞を受賞したりするなど、今注目されています。

集合場所は、広島駅新幹線口すぐにあるペデストリアンデッキ。Asageshikiのロゴと、大きな木箱を背負ったガイドが出迎えてくれます。この日のガイドは、アメリカ育ちで世界70カ国の旅の経験がある川口康太さん。今は故郷・鹿児島の屋久島や種子島でも活動しながら、一年の多くを広島でガイドしており、Asageshikiのツアーガイドも定期的に務めています。

川口さんは広島出身ではないですが、この地に住んで7年ほど。地元ではないからこそ、広島の様々な魅力を客観的に捉えながら、それを自分事として捉えて伝えている印象を持ちました。一方、ツアーの主催者である(一社)My Japan代表の三村さんは広島出身。Asageshikiに関わるメンバーの多くは広島出身なので、外からの視点を持った人と、広島愛の強い地元メンバーが融合して、お客さんを案内しているように感じました。

今回の参加者は、フランスとポルトガルからのお二人でした。簡単に自己紹介したのち、広島東照宮に徒歩で向かいます。出発する前に「ペデストリアンデッキから見える、“謎の銀色の建物”のある場所まで、歩いて向かいますよ」と。その言葉でおおよその距離感と、標高のイメージができます。ただ“謎の銀色の建物”の正体は、あとのお楽しみ。

 

様々な形で観光客と地域をつなぐツアー

雑談しながら10分ほどで、広島東照宮に到着しました。ここは、日光東照宮と同じく、徳川家康公をお祀りした神社です。約370年前、広島藩主浅野光晟公(浅野家第四代)によって、広島城の鬼門(北東)の方向に当たるこの地に建立されたものです。


▲広島の街が出来上がるうえで重要な場所である広島東照宮について説明するガイド

海外の方に日本の歴史を詳細まで伝えるのは難しいことなので、かいつまんでの紹介にはなりますが、偉大な殿様が祀られていること、そしてこの地が広島という街を作っていく上で非常に重要な場所であること、そしてその場所でツアーすることは、広島の原点を紐解いていくことだと案内がありました。

境内を一周した後、いよいよ境内の中に登山道の入り口がある二葉山へ。ここは、外国人にも大人気の京都の伏見稲荷大社を思わせます。

今でこそ、美しい登山道が続いていますが、江戸時代からある参道のため、以前は雨風などで階段は荒れ放題で、登山装備をした大人がなんとか登れる状態だったそうです。そこで、地域の方に声を掛けて、道を整備することからこのツアーはスタートしたといいます。今でもツアーの利益の一部が登山道の整備に充てられています。登山道を所有する広島東照宮からは喜ばれ、参加するボランティアの方々も、維持することが生きがいの一つになっているそうです。地域の方と共にツアーが作られたというストーリーからは、地域に愛された場所であり、参加者も意義を感じられるツアーだということがわかります。ツアーが様々な形で、観光客と地域をつないでいます。

山頂への道中は、広島駅近くとは思えない原生林が広がっています。そんな自然を楽しみながら、約120の朱塗りの鳥居と約500段の階段を登り山頂へ。そこには、ツアーの最初に言及された“謎の銀色の建物”が現れます。実はこれ、仏舎利塔だったのです。人類の幸福と恒久平和を願い、史上初の原子爆弾の犠牲となられた方々の霊を慰め、1966年に建立されました。世界中の願いが結集した建物のある山頂からは市街地が一望できます。人々の想いが広島の街を支えているようにも感じられ、感慨深い空気が一同の間に流れました。

 
▲伏見稲荷大社を思い起こさせる赤い鳥居と銀色の仏舎利塔

 

五感で楽しむ広島、記憶に残るユニークな体験を提供

少し山を下ったところで、森林浴の時間です。ガイドの川口さんは森林浴ファシリテーターの資格も持っています。旅をしていると、少し疲れを感じることがあるもの。都心からすぐの場所にある森の中で、五感を使った森林浴は、特別な時間です。同時に、海外の人からすると、日本人の自然観にも触れられる貴重な時間でもあります。

なお、森林浴は人間を癒やすという科学的根拠が実証されています。レジャーシートに寝転びながら、土の香り、木の温もり、様々な音などを感じながら、とてもリラックスする時間でした。


▲森林浴ファシリテーターの資格を持つガイドと都心からすぐの森の中でリラックス

そこから2分ほど移動し、ツアーハイライトの野点(のだて)の時間。この日は、東照宮の奥宮から、広島市内、瀬戸内海と宮島を一望できる場所で、代表の三村さんが、お茶を点ててくれました。現在、海外観光客の間で茶道の人気が高まり、京都ではなかなか予約が取れないそう。そんな中、広島の島々の絶景を見ながらお茶を楽しめるとあって、野点を目当てに参加する海外の方も多いそうです。実際に、広島の街を眺めながら飲むお茶は格別に感じられ、とても貴重な時間でした。

さらにこのツアーでは、ご神水としても知られる二葉山の湧き水を使用しています。二葉山を登り始める前に、川口さんが湧き水を汲みに行っていました。通常は神社の奥宮で飲食や火を使うことが許可されていないそうです。これも、登山道整備から広島東照宮と連携していたからこそ実現できる特別な体験です。細部へのこだわりや、日本文化を尊重する点が、海外の方からも高い評価を得ているポイントなのかもしれません。


▲広島市内、瀬戸内海、宮島を一望できる場所で行われる野点(のだて)は貴重な体験

そして改めて、昔の地図や広島の街を見ながら、街が生まれた背景や、原爆が投下された理由などについて伝えてくれます。話を聞いていると、今ここに自分が立っていることへの感謝が溢れ、不思議と明日への活力が湧いてくる、そんな時間でした。

3時間の行程はあっという間でしたが、広島の歴史、自然とのつながり、日本文化などを自然体で感じられました。このツアーでは、参加者自身が山や地域への貢献を体感できます。自分が楽しいだけでなく、地域貢献などプラスアルファの要素が含まれていることが、人気の秘訣なのだと感じました。

参加者からも「日本や広島を、より深く知ることができた」「ガイドが最高だった」などの声が寄せられました。

 

地域資源を活かし、多様なニーズに応えるツアー

ツアーを催行する(一社)My Japan代表の三村さんによると、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国からの参加が多く、1人旅やカップル、ファミリー、2~4人グループなど、個人旅行者が大多数ということでした。年代は20~60代と幅広く、ハイキング好き、茶道などの日本文化に興味がある人が多いとのこと。また、時間に余裕があり、宮島・原爆ドーム以外の場所も訪れたい、新しいツアーを体験してみたい、などのニーズを持っているということでした。

主な予約経路はOTAで、Viatorが一番多いということでした。また日本旅行を扱うランドオペレーターとも広く提携しており、そうした会社経由での申し込みも多いそうです。

二葉山は、アクセスが良く、比較的気軽に登れる山という点から、参加者に人気です。これまで観光スポットとして有名ではない場所でも、街から近くにある小山や神社仏閣等に、付加価値やその土地ならではのストーリーを組み合わせられれば、日本中どこでも人気のツアーを作れるかもしれません。


▲広島の街が一望できる二葉山の山頂

 

伝統文化の継承と地域活性化を目指して

ツアーを造成していく上では、動機や主催者の強い思いが一番重要だと考えています。それがツアーを継続する上で核となるためです。その視点で、三村さんに話を聞きました。

—なぜこのツアーを開発しようと思ったのですか。

広島には「厳島神社」「原爆ドーム」など、世界的にも有名なスポットが存在し、多くのインバウンド観光客も訪れるようになりました。ただ、彼らのほとんどは日帰りで通過型の観光地になっているのが課題です。広島駅周辺は宿泊施設が多く交通の便も良い。朝の時間にツアーを開催することで広島に泊まる理由を作り、滞在時間を伸ばすことができるのではと考えました。

駅からほど近い場所にある広島東照宮の権禰宜(ごんねぎ)を務める方が、(一社)My Japanの理事であったというご縁から、Asageshikiの構想が生まれました。

—広島の課題解決と、地元出身ならではのつながりが、ツアー造成につながったのですね。実は三村さんは、家業が筆作りだそうですね?

熊野筆を製造する会社の家に生まれ、子どもの頃から書道、茶道、生け花など様々な日本の伝統文化に触れて育ちました。それが伝統文化を守り、後世へ伝えたいという想いにつながり、現在の活動の原点となっています。

日本の伝統文化は、後継者問題など、様々な問題を抱えています。日本文化の担い手やアーティストたちと、もっと気軽に日本文化に触れる場所をつくり、末永く文化を継承する機運をつくりたいと考え、(一社)My Japanを立ち上げました。なので、広島だけではなく、他エリアのツアー造成に関わることは、団体のミッションとも合致し、とても嬉しいことです。

—だからこそ、ツアーの中に日本文化の要素が散りばめられているのですね。ツアーで大切にしていることはなんですか?

私たちの開催するツアーは最大6人と少人数形式なので、ガイドとゲストが一体となって創り出す世界観と雰囲気を大切にしています。特に、高い満足度を感じてもらうためにはそれぞれのゲストの嗜好に合わせたガイディングが重要だと思います。

ツアー造成にあたり、ゲストが旅で求めるものを考えてみると、地域の景色や食事、自然、人々との交流、文化体験など、さまざまです。そこで、Asageshikiのツアーではゲストとの会話から、普段の日常生活の過ごし方や旅の目的を聞きだし、ゲストに合わせてツアー構成を変化させています。

茶道には一座建立(いちざこんりゅう)という考え方があります。「亭主が心を尽くしてもてなし、お客が感動で満たされたときに生まれる特別な一体感」とあるように、日本の心をツアーで表現していきます。

—最後に、今後の展望を教えてください。

日本には何千年と続く歴史があり、古いものを慈しむ感性があります。先人がつないできた文化を次の世代に残していくには観光の力が必要です。観光地ではなくても、地域にある歴史資源を活用してストーリーを顕在化させ、担い手を育成し日本の魅力を伝え残すことをミッションとして、日本各地で活動していきたいと思います。

▼「Asageshiki」ツアーを運営する一般社団法人My Japan三村理紗氏へのインタビュー記事はこちら
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