インタビュー

広島にプラス1泊を、朝7時半からのローカルツアーが訪日客を惹きつける理由

2023.08.04

印刷用ページを表示する



欧米を中心に、多くの訪日客が訪れ人気の観光地として知られる広島。先日のサミットでもG7の首相らの平和記念資料館(原爆資料館)訪問が世界中に報道されたことも追い風となり、より一層盛り上がりを見せている。平和の町としての知名度ゆえに大勢の観光客をひきつける一方で、課題もある。「原子爆弾が投下された町」という印象が強すぎるゆえに、それ以外の広島の多様な側面や本来の豊かさなどの魅力が、訪問客になかなか伝わらないことだ。多くの場合、平和記念資料館と宮島を訪れ、その後は他府県に移動してしまうというのが訪日客の行動パターンであり、広島に滞在する時間は短い。

「広島に来たのに、日帰り旅なのはもったいない」「有名な観光スポットを見て回るだけでは知りえない魅力を体験してほしい」そんな想いで、広島のプラス1泊につなげるべく朝7時半からの早朝ツアー「Asageshiki(あさげしき)」の企画運営しているのが、一般社団法人My Japanの三村理紗氏だ。

Asageshikiは、広島駅から徒歩10分、市内を一望できる「二葉山」に登り、朝の絶景を眺めながら朝食を食べるツアーだ。2021年のコロナ禍まっただ中でスタートしたが、国内外から参加する人を集め、TripAdvisorでの口コミは95%超が5点満点という高い評価を得ている。

有名な観光スポットを巡るだけではないローカルツアーをどのようにして形にしていったのか、また参加者からの高い満足を得るために、どのような工夫をしているのか、三村氏に細部まで話を伺った。

 

「原爆が投下された町」の枠を超え、違う「広島」の側面を伝えたい

─ 三村さんはこれまで日本の伝統文化を次世代に伝える活動をされてきたそうですが、「絶景」と「朝ごはん」をテーマにした早朝ツアーAsageshikiはどのような経緯で始めようと思われたのですか。

私は学生時代に留学をしていた経験があるのですが、思った以上に「広島」という地名が海外で知られていることに驚きました。ただ多くの人から原爆で破壊された街のイメージが強く「街はもう大丈夫?」と聞かれ、世界で認識されている「HIROSHIMA」と私が知っている広島にはギャップがあることを知ったんです。たしかに広島という場所は原爆とは切っても切り離せない場所ではありますが、それだけではありません。江戸時代から紡がれている伝統や文化、脈々と受け継がれている人々の想いがあって、いまの豊かな広島がある。現在の広島、復興した広島をもっと知ってほしいと思ったのがきっかけです。

広島に訪れる外国人が訪れる場所は、多くの場合、原爆ドームと宮島に集約されていますが、これだけでは広島の魅力は十分には伝わりません。過去の歴史だけに注目したり、現在の広島だけを見たりするのではなく、地域の魅力を歴史や文化と絡めて伝えるためにはどうしたらいいかを考えました。

▲広島のシンボルともいえる原爆ドーム

─ 場所を巡るだけにとどまらない、地域の歴史や人々の想いなど文化的なつながりを重視されているのですね。

Asageshikiの構想にあたっては2つのポイントがありました。1つはツアーを実施する場所への想い、もう1つは広島の観光に対する課題感です。

広島という地域の歴史においてとても重要な場所が江戸時代から大切にされている広島東照宮です。その裏手には二葉山という山があり、広島東照宮と同様に江戸時代から藩が管理してきた貴重な原生林があります。しかしこの神聖な山の管理が時とともに難しくなり、荒れてきていることを知りました。この場所をこのままにしておいてはいけない、どうにかしなければいけないという想いがありました。

もう1つは、行政や観光事業者の方々に話を聞く過程で見えてきた課題です。広島には多くの外国人が訪れているものの滞在時間が短く、通過型の観光になっていることがわかりました。これら2つを結びつけて両方の課題を解決できたら地域のためにもなりますし、観光と地域が密着した新たな価値を生み出せるのではないかと思いました。

地域にとって大切な場所を生かし、時間帯を早朝に設定することで宿泊を促し、滞在時間を延ばして地域のことをより深く知ってもらう。人々が守り、つないできたものを次世代だけでなく世界の人に伝えたい、残していきたいという想いがAsageshiki構想の出発点です。

ツアーテーマは”Another face of HIROSHIMA”、観光地だけではない広島の魅力という意味です。参加者が、ツアーの中でガイドから紹介された広島城や宮島に行ったときに「そういえばこんな話を聞いたな」と思い出してひとつひとつの場所がつながる。ガイドが語るストーリーによって、参加者それぞれの広島の旅が完成するような仕掛けをしています。


▲Asageshikiへの参加が、新たな宮島の一面を知るきっかけになる

 

人とのつながりで完成したツアーがあらゆるものをつなぐプラットフォームへ

─ 地域の歴史や伝統などを次世代や外国人に伝えていく手段はいろいろあると思いますが、なぜガイドツアーという形にしようと思われたのでしょうか。

もっと多くの人に広島に来てもらうきっかけを考えた結果、観光が手段として最適だとたどり着きました。

Asageshikiで訪れる場所は広島駅から徒歩10分ほどの場所にある広島東照宮とその裏手にある二葉山です。二葉山は広島城からみて北東つまり鬼門にあたり、裏鬼門となる宮島と対になって広島という地域を守ってくれている鎮守の森。しかしながら今ではこのような歴史や背景を知っている人は広島の人でも多くはありません。

また、二葉山は歴史的に大切な場所であるだけでなく、登ると広島市内はもちろん、宮島や瀬戸内海も一望することができる絶景スポットでもあります。広島城と広島東照宮と宮島の関係に限らず、多くの観光地にはそれぞれ関係性があり、点ではなく線でつながっています。このようなストーリーを実際の景色を見ながら語り継ぐために、ガイドツアーという形にしています。
ツアーは、二葉山へのトレッキングと野点(のだて)がついた3時間のコースは8800円、朝食付きを1万1000円(2023年7月時点)で提供しています。


▲広島東照宮で写真を撮るゲスト<写真提供:(一社)My Japan>

─ ツアーの構想から開催までにはどのような苦労がありましたか。

実はツアーの構想はすぐに出来たのですが、開催までには2年ほどかかりました。というのも、二葉山は歴史ある場所であるがゆえに時間の経過によって簡単には登れないほど危険な状態になっている場所があり、ツアーの安全性を確保するためにもまずは山を整備する必要があったためです。雨で土が流れていたり、階段が崩れているところがあったり、地域の人々にとって大切な場所なのに自然環境の維持管理ができず荒れてしまっているという現実がとても悲しく、何よりもこの状況をどうにかしなければならないと思いました。

山を管理する神社の方に相談し、土木関係の仕事をしている仲間の協力を得ながら、まずは自分たちガイドの手で修繕に取り組んでみたのですが、これが重労働でなかなか大変なのです。SNSで自分たちの活動を報告しながら手伝ってくれる人を募ってみたところ、興味を持った人たちが何人か来てくれるようになりました。二葉山のことを想い、応援してくれる人たちが現れたのです。手伝ってくれる人は回を重ねるごとに増え、1年近くかけて7.5トンの土を補充し、手すりをつけたり土が流れるのを防ぐ土嚢を積んだり、鬱蒼とした場所は景観を保つために間伐をしたり間伐材を使って階段を作ったりして山道を整備しました。
ツアー開催の準備段階で行った数々の作業を通して、山の環境が整うだけでなく、自然を楽しむ仲間が増えていき、今も「山を楽しむ会」として活動を続けています。


▲集まったボランティアと共に、山頂までのハイキング道を整備<写真提供:(一社)My Japan>

─ 人を集めたというよりは、活動に興味をもった人たちが集まってきたような形ですね。

この経験を通して、人と人は「関わりしろ」でつながることをあらためて感じました。関わりしろとは、自分が力になれるかもしれないと思える場所。完成されていない場所ほど、この「自分が関われるかもしれない」という余白はたくさんあります。現状や課題を発信することで応援してくれる仲間ができた。自由で自発的なつながりだからこそ、想いと想いが人をつなぐエネルギーには強い力があるのだと思います。
Asageshikiは2019年に構想を固め、ツアーを開催したのは2021年です。この間、ボランティアの方はもちろん、それ以外でも本当に多くのつながりが生まれました。ツアーガイド、地域の住民、場所の所有者、行政、自治体、県内の観光事業者、そして参加者。どれも欠かせないつながりです。これからも単なるツアーではなく、二葉山を守り、人と人、人と自然、過去と現在をつなぐプラットフォームのような存在であり続けたいと思っています。

 

徹底したガイド研修、資料の見せ方 立ち居振る舞いまで細かく教える

─ TripAdvisorの口コミでも、95%以上が5点満点の評価で満足度が非常に高いそうですが、心がけていることや工夫、こだわりを教えてください。

ガイドによる案内には特に力を入れており、対応力とテーマ性の2つを大切にしています。
ツアーの主役は参加者です。どんな参加者にも楽しんでもらえるにはどうしたらいいのかを徹底的に考えます。そのためガイドのクオリティにはこだわり、誰がガイドをしても同じメッセージを伝えるようにしています。もちろんガイドのパーソナリティや得意分野による違いはありますが、各スポットで伝えるトークシナリオを作って話す内容を整理し、ガイドによるバラつきが出ないようにしてクオリティを保つようにしています。

話す内容だけでなく、資料の見せ方や立ち位置、動作や対応についても細かくスタンダードを設けています。例えば、資料を参加者に見せながら話す際は、人数が多いときはゆっくりと全員に資料を見せる、一人ひとりの目を見て話すなど「私に対して話している」と感じてもらうことを大切にしています。

テーマに関してAsageshikiには、自然、景色、歴史、文化、人、工芸品、体験、食の8つの要素が含まれていています。参加者によって旅の過ごし方や趣味嗜好が違うので、どんなタイプの参加者が来ても満足してもらえるように切り口をいくつも用意して総合力を上げるガイドも工夫のひとつです。


(Asageshikiツアー概要)

また、参加者は何を求めて日本に来ているのか、どんなことに興味がるのか、ツアーには何を求めているのかをヒアリングし、そのニーズあわせたガイドができるようになるためにガイド研修にはかなり力を入れています。ガイドは現在8名で、全員英語で対応を行いますが、研修のインプットは細かいニュアンスの理解が必要となるため日本語です。翻訳は全員で分担し、長年アメリカに在住経験がある人からの「この表現の方が伝わりやすい」といったシェアもガイド同士で行いながら常にクオリティを高めるようミーティングを重ねています。立ち居振る舞いや話し方についても一定の水準を保つために日々の練習は欠かせません。自分の経験を他のガイドにもシェアすることで引き出しを増やして対応力を向上させ、チーム全体でレベルアップする体制をとっています。
ガイド初心者の方にもじっくり研修するのでガイド研修は最短で3カ月、なかには半年くらいかかる人もいます。歴史や文化の知識だけでなく、野点(のだて)といって、屋外でお茶を点てて参加者に茶道体験をしてもらうメニューがあるため、茶道をやったことがない人も茶道の先生を招いて練習し、お茶を点てられるようになってもらいます。そうした実践の場をつくることで日本文化の次世代育成を推進し、文化を継承していきます。


▲二葉山の頂上では、野点(のだて)を体験してもらうメニューも<写真提供:(一社)My Japan>

 

参加者への事前ヒアリングで情報収集、ツアーでの伝え方を変える工夫も

─ ガイド研修の徹底ぶりからも、力の入れ具合が伝わってきます。なお、参加者のニーズは、どのように聞き出しているのですか。

参加者のニーズは、集合場所である広島駅から開催場所である二葉山に向かうまでのあいだに雑談をしながらヒアリングをします。ローカルツアーは現地集合であることが多いですが、慣れない場所ではその場所にたどり着くことがストレスになる場合もあります。そのため、観光客が多くわかりやすい広島駅まで迎えに行き、一緒に現地に向かいます。
その間、何気ない会話からヒアリングした内容をもとに、ツアーの構成や演出を変えるようにしています。広島滞在は何日目なのか、前日はどこに行ったのか。宮島や原爆資料館にはすでに行ったのか、それともこれから行くのか。これからどんなところに行く予定なのか。すでに宮島を訪れた方、これから行く方では、山頂から望む宮島の捉え方が変わるので、「あれが宮島ですよ」の伝え方や魅せ方を変えています。

ポイントは相手がどの情報を知っていてどの情報を知らないのかを探りながら話を進めることです。また、相手の反応によってもガイドのしかたは変わります。広島を訪れる外国人は原爆投下当時の様子を知り、平和について考えることを目的に訪れる人が少なくありません。ツアーの中では原爆による影響は伝えますが、その後の広島の復興の様子など明るい未来に向けた話題を中心にしたり、自然の中でゆっくりしたいというタイプの人には森林浴の時間を長めにとったりといった調整をしたりもします。


▲森林浴の様子<写真提供:(一社)My Japan>

また、ツアー後にはガイドにレポートを出してもらい、マーケット調査も行っています。レポートでは、広島駅周辺のホテルに滞在している方が多く、ツアーの利便性がいい場所に宿泊していることがわかりました。また、このツアーに参加するために近隣のホテルに前泊したという参加者もいて、広島の滞在時間を延ばすために設定した早朝という時間帯と宿泊が紐づいてきたことを感じられてうれしく思っています。

─ 2021年にスタートして、2年ということですが、どういった方が参加されているのですか。

ツアーを始めた2021年はコロナ禍だったこともあり、参加者比率は日本人が約70%、在住外国人が約30%という比率でしたが、訪日外国人が増えた2023年度は比率が逆転し、外国人が約80%、日本人が約20%になりました。外国人向けには英語で開催していることもあり、多くはアメリカやヨーロッパ、オーストラリアなど欧米豪の方が参加しています。

訪日外国人の方については、旅行会社経由で参加される方がほとんどです。今はトリップアドバイザーなどの口コミも増えましたが、ツアーを始めた当初は他の観光事業者のサービスと連携したパッケージで販売したり、ホテルとAsageshikiの連携宿泊プランを販売したりしました。またホテルのコンシェルジュが実際にガイド研修を受け、ホテルの滞在観光客に案内するといった魅力がダイレクトに伝わる集客の工夫をしました。

ツアーに参加された外国人の方からのコメントで一番多いのは、復興した街を山頂から一望したときに「広島は美しい街だね」というものです。広島の豊かさを知ってもらえてうれしく思う瞬間です。


▲絶景と共に食べる朝ごはんは広島の地元食材にこだわり季節によってメニューを変えている。ベジタリアン、ヴィーガンへの対応も万全<写真:(一社)My Japan>

 

破壊からの再生を経験した広島だからこそ伝えられる「再生型トラベル」

─ 人が大切に紡いできた時の流れを止めずに次世代へ、世界へつなげていこうとさまざまな活動をされていますが、今後のビジョンについて教えてください。

Asageshikiが目指すのは観光を通じて地域のストーリーを伝え、自然と文化を保全し、さらに発展させていく再生型の観光です。

サステナブル・ツーリズムの進化型として、訪問先を訪れる前より良い状態にして帰るという考え方に基づいた「リジェネラティブ・トラベル(再生型観光)」が注目されていますが、これこそ、私たちが目指すあり方であり、旅のスタイルです。

観光客が訪れることによって地域のストーリーや伝承が発信され、その場所が改善され整備されていく。関わる人が増えることで観光が地域に寄与する循環が続く。この仕組みを作ることで次世代に残していけるものがさらに増えていくと私は思っています。

リジェネラティブ・トラベルの循環づくりの一環として、現在、私たちはAsageshikiの参加費用の一部を二葉山の環境保全費として還元しています。

二葉山はこれまで入山料をとっておらず神社が管理をしていましたが維持がなかなか難しく、荒れた山道を修繕するのも難しいのが現実でした。現在はツアー参加費用の一部をボランティア活動の経費に充て、ボランティアの人たちと共に掃除や階段などの設備保全に取り組んでいます。そうすることで地域の人々からは大切にしていた山へ訪れやすくなったと喜ばれています。

ツアーを継続することで二葉山の環境が整い、以前より状況が改善されていくという好循環を生み出し、この場所を守りながら次の世代につないでいくのが理想の姿です。日本は文化継承や環境保全が課題となっており、これからの観光は観光客もその場所を訪れるだけなく、地域貢献に関わるアクションを起こせる仕組みづくりが必要だと考えます。


▲ガイドもするという三村氏、朝食の弁当を運ぶ木箱は地元の職人の方の手作りだ<写真提供:(一社)My Japan>

リジェネラティブには、再生・再始動という意味がありますが、原爆による被害を経験した広島でこの活動を表現することが、私たちがするべきことなのだと思っています。

また、観光業はいろいろな事業者と連携し、発展していけるのが特徴であり大きな可能性があります。現在、Asageshikiは島根県の津和野町、奈良県明日香村でも地域の特徴や魅力を表現するツアーを開催しています。今後は県内に限らずいろいろな人たちとつながり、観光を通じて地域をより良くする旅の仕組みを一緒に地域を盛り上げていきたいです。

取材/文:小野路子

最新のインタビュー