インバウンドコラム

第2回 黄金の市場⁉オーストラリアのシニアたち

2013.04.02

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オーストラリアには、シニアを対象としたシニアのための旅行会社があり、大成功している。現在では、彼らがオーガナイズしているシニアホリデークラブのメンバーが88000人いるという。オーストラリアのシニアが見たいのは、それぞれの国の“culture”であり“history”なのだ。

 

目次:
シニアというのは、何歳からなのだろうか?
ベビーブーマー、団塊の世代
70歳以上のシニアたち
大成功しているシニア対象の旅行代理店
長い旅行日数のオーストラリア・シニア・トラベル
オーストラリアのシニアは何が見たいのだろう?
シニアの一人旅は、つらい。じゃあ、どうしたらいいのか?
インターネット利用
JAPANにツアーを出してもらうためには?
JAPANをバケットリストにいれてもらおう。そのためには?

 

シニアというのは、何歳からなのだろうか?

オーストラリアのシニアというのは、何歳からシニアというのだろう? それは日本と同じく、かなりアバウトである。確かに、それぞれの州が実施しているシニア登録は60歳からであるが、おおよそ70歳を過ぎないと、世間も自分達もシニアの自覚はないものだ。実際には、60歳をとっくに過ぎていても、自分達がシニアという自覚のないグループもある。グループ? そう、日本でいうところの団塊の世代、英語でいうベビーブーマー(Baby Boomer)のことだ。
ベビーブーマーというのは、単にグループを指すだけでなく、彼ら独特の市場性も表わすことが多い。
厳密には、何年に兵隊達が帰国して、何年ぐらいからベビーブーム、出産ブームになったのかは、それぞれの国で異なっているけれど、大体は第二次世界大戦終了後の1946年から1961年までの期間に生まれた世代をいう。この世代は年齢的にはシニアであっても、彼らの両親の世代とは大きく異なることが多い。

 

ベビーブーマー、団塊の世代

筆者も、1949年生まれで、ベビーブーマーである。オーストラリア人である主人もそうなのだが、結婚していて大変驚いたことがある。太平洋を遥か挟んで、日本とオーストラリアで大変似通った文化を共有しているのだ。例えば、子供の頃のラジオ、それからimg01-6テレビ文化を最初に享受した世代で、このテレビでいわゆるアメリカ文化を体験している。音楽もそうだ。オーストラリアの場合には、英国の音楽がかなり入ってきたという独自性はあるものの、日本とオーストラリアで、同時期に同様のアメリカから入った音楽を聴きながら育っているのだ。「ボナンザ」、「ラッシー」、「奥様は魔女」、若い方々は知らないと思うが、我々はそれらのアメリカの番組で育った。音楽は、ロックンロール。プレスリー、ビートルズ。共通項がいくつもある。今、一番高齢のベビーブーマーは、68歳である。冒頭で述べたように、彼らは“シニアという自覚がなく”、自分達は、「ミドルエイジド」。つまり、中年ではあるが、まだまだやれるという感覚がある。したがって、旅の仕方もシニアというよりは「年取った若者」という感じなのだろうか。我々日本でもそうだったが、若者は世界を目指した。日本でいえば、我々は小田実の『なんでもみてやろう』をバイブルとして、世界を目指した。インターネットも何もない時代。世界を知るためには、出かけていかなければならなかったからだ。オーストラリアのベビーブーマー達も、同じことだったという。

今、オーストラリアのベビーブーマー達に人気のあるディスティネーションは、ヨーロッパ。30年前にバックパックで歩いた場所だ。もちろん、現在は、さすがにバックパックは持たないが、同じ場所を今度は汽車だったり、ドライブだったり、飛行機で移動するのだという。

現在550万人だといわれるオーストラリアのベビーブーマーのハートを掴もうとすれば、JAPANも「プチアドベンチャー」をデラックスに提供することが必要かも知れない。

 

70歳以上のシニアたち

ベビーブーマー以前のシニアには、ヨーロッパはあまり人気がない。それは、長距離のフライトが大変だからだ。
「日本? わずか9時間、時差が1時間(オーストラリアの地域にも寄るが、夏時間の時には、シドニーやメルボルンから2時間)」。
70歳以上のシニアには、条件的に日本はぴったりだ。

70歳以上のシニアは、ニュージーランドやフィジーなど近場に行くだけでなく、海外に行く場合にはクルーズもよく使う。カナダなどは、飛行機で飛び、現地では汽車とクルーズで旅をする、というのが人気である。オーストラリアは、広大な島大陸であるが、起伏のある地形や緑や紅葉など、シーズンで変化する山岳地帯や大きな湖がない。それらはオーストラリアのシニアたちの旅心をくすぐるのだ。

img02-6前に、筆者は、アジサイの時期に、鎌倉の明月院(あじさい寺)に、オーストラリアの知人を連れて行ったことがある。その美しさと感動を、彼は今でも語っているが、オーストラリアとまったく異なる日本の自然は、必ずオーストラリアのシニアを惹きつけることができる。シニアは特にガーデニングが好きだから、日本の美しい庭は人気が出るはずだ。最近オーストラリア人を連れていった和歌山の粉河寺で、千年もの木に出会い言葉を失うほど感激していた。

但し、彼らをターゲットにする際には、アクセス面や食べ物などにも気をつける必要があるだろう。

 

大成功しているシニア対象の旅行代理店

オーストラリアには、シニアを対象にしたシニアのための旅行会社があり、大成功している。クインズランド州のSenior Holiday Travel (シニアホリデートラベル)は、その第一人者だ。旅行代理店としてこれまで多くの賞も受賞している。現在では、彼らがオーガナイズしているシニアホリデークラブのメンバーが88000人いるという。代表取締役のPerry Morecombe(ペリー・モーコム)氏にいろいろと話を聞いてみた。

ペリーさんが、現在の旅行会社を設立したきっかけが非常におもしろかった。

1998年、当時ペリーさんはクインズランド州の州政府が持っていたクインズランド・レイルウエイ(汽車)に勤務していた。そのとき彼は、ペンションナー(年金生活者)たちがimg03-6年に2回無料でクインズランド州内のどこにでも行けるクーポン券のプロモート方法について相談された。その無償クーポンがほとんど使われていなかったからだ。シニアたちにすれば、たとえ無償でも一体どこに行ったらいいのか分からない。ペリーさんは直ちにブリスベンからケアンズまでの往復旅行、5泊6日の旅を企画した。そしてあっという間に会社を設立して、そのパッケージを販売しはじめた。多くのシニアがこのツアーに群がる。
朝食と夕食を毎日つけて、ケアンズでのシーニックレイルウエイとクルーズ。毎日のアクションが一杯のこのツアーは、今では伝説のツアーになった。

 

長い旅行日数のオーストラリア・シニア・トラベル

昔の話になるが、私が、30年前にカンタスの子会社QHホリデーズで勤務していたときに、アメリカとヨーロッパからのインバウンドを担当していた。

アメリカからは、当時ケアンズが到着地で、ヨーロッパからは、パースが到着地。欧米からは通常、4週間から5週間と長い滞在日数に驚いたものだ。オーストラリア人の旅行日数も、アジアや日本人市場に比べれば、かなり長い。例えば、オーストラリア人のシニアが、アメリカやカナダなどに行く際には、3週間ぐらいが平均。ヨーロッパだと、更に長く4週間ぐらいが平均旅行日数になるという。

日本であれば、新幹線という、日本ならではの素晴らしい移動手段があるし、最近はデラックスバスも出てきた。それに、クルーズなども含めれば、コレまでと違う、新しいシニア向けの長めの旅行日程が出来る。

 

オーストラリアのシニアは何が見たいのだろう?

3週間から4週間。オーストラリアのシニアは、旅行で何が見たいのだろう。何をしたいのだろう。アジア市場とは異なり、ショッピングはその中に入らない。

オーストラリアのシニアが見たいのは、それぞれの国の”culture” であり、’history’だ。
最近はそれに加えて、”meeting locals” つまり、現地の人たちと会いたいという希望が多くなったという。

例えば、これまでのヨーロッパツアーは、古城や歴史的な建造物を見たりすることで終わっていたが、最近は、ヨーロッパに住む人の家を訪問するというプログラムが出来た。一般人の家で、彼らの家庭料理を、実際に目の前で作ってもらい、出来上がったものを食するというプログラム。大人気なのだという。
おっ、またここでアイデアが浮かんできた。伝統的な日本家屋で、日本の家庭料理作りを見せれば、オーストラリアのシニアはきっと喜ぶに違いないと。

昨今のオーストラリアは日本食ブーム。スーパーでも豆腐や海苔などが売られるようになってきた。シニアは、それを使って積極的に日本料理を作るわけではないが、しかし、それらがどのように出来るのかは大変興味があるはず。したがって、日本で、豆腐作りを見せるとか、海苔作りを見せるとか、あるいは作らせるとか、日本ならではの参加型ツアーのアイデアは湯水のように出てくるはずだ。

 

シニアの一人旅は、つらい。じゃあ、どうしたらいいのか?

「人生いろいろ」、といった総理大臣がいたが、長く生きれば生きるほど、その“いろいろ”が、いろいろと出てくる。オーストラリアは、3人に1人が離婚経験者という話もあり、独りでシニアになる例も多い。もちろん、連れ合いに先立たれるということもあるし、当然ながら、チャンスがないままにひとりで年を重ねるという人もいる。調査では、60歳以上の40%が独りだと出ている。では、独り身のシニアは、果たして旅をするのだろうか? 若いときならいざ知らず、年をとって、一人旅をするのは寂しすぎる。
というので、先ほどのシニアホリデートラベル社では、シングルのシニアのためのクラブ、Solo Travellers Clubを作った。そこで知り合いになった人たちと一緒に旅をさせるのである。なんという、グッドアイデア! 友情? 婚活? ところが、このソロトラベラーズクラブには、友情以上の?意味があった。それはお金(苦笑)。つまり、シングルサップリメントで旅費が高くなるのを避けるための意味もあるのだという。

 

インターネット利用

シニアホリデートラベルでは、前述のように、88000人もトラベルクラブメンバーがいる。このメンバーのために、ここでは3ヵ月に一度、32ページのトラベルマガジンをWEBからダウンロードできる。もちろん、ハードコピーが欲しい人には送付もしている。同社は、また、ウイークリーで、1万人にメルマガも出している。これらのツールを印刷して、すべて郵送すれば巨額の経費がかかるから、まさにインターネットさまさまだ。

70歳以上がすべてインターネットをしているわけではないだろうが、70歳以下のベビーブーマーは、インターネットを使いこなしている。オーストラリアでは一家にではなく、ひとり一台でコンピューターが普及している。

また、同社が行っているメンバー制度は、会社とメンバーの間に親密感も出るだろう。シニアにはその親密感が必要だ。そういえばこの会社では、社員1人ひとりのプロフィールを詳細に出している。たとえインターネットを使うにしても、できるだけ売る側の「顔が見える」パーソナルな方法をとっているのだ。他にも、この会社ではエスコーテッドツアー、つまり添乗員付きのツアーを強く打ち出している。

 

JAPANにツアーを出してもらうためには?

シニアホリデートラベル社では、年に2回しかジャパンツアーを実施していない。実施はサクラの季節のツアーだという。なぜ日本ツアーがもっと出せないのか? 同社のスタッフは「日本は物価が高いと、シニアは思っている」と回答した。ホラ出た。前回も書いたように、バブルの時期の日本の物価の高さが、20年経ってもまだ訂正されていないのだ。オーストラリア・ドルの高さ、オーストラリアの収入増から見れば、正直日本の物価は安すぎるぐらいなのだが……。

逆の話をしよう。オーストラリアに、先日日本の私の友人(シニア)が来た。もうすぐ会社を退職する。夢は外国に長期で住むこと。そこでオーストラリアはどうかとやってきた。到着してから、ずっと「高い」「日本だったら、こんなに高くない」を連発して、私から「高い」という言葉を禁句にされた。
ホテルはシドニーの場合、200ドルを下回るホテルはほとんどない。今の為替(約102円/2013年5月11日現在)でいうと、2万円以下はないということだ。コンビニで水を買うと、3.5ドルである。360円近くするのだ。では、逆だったら? 私はこの2年間、オーストラリアで買い物をしたことがない。日本に行けば、オーストラリアの半額で物が買えるからだ。

時代は変わっている。またゾロ昔の話で申し訳ないが、オーストラリア・ドルが、まだ60円、そしてついには55円にまで下がっていった時代があった。
「日本のホテルでコーヒーを飲んだら、20ドル近くもしてコーヒーも飲めなかった」。
そういう話が、オーストラリアのシニアに伝わっていて訂正がされないままになっている。

まずは、「日本の物価が安いこと」を大いに宣伝するべきだ。

 

JAPANをバケットリストにいれてもらおう。そのためには?

img04-5最後にシニアホリデートラベル社社長のペリーさんは、シニアは“死ぬまでにここに行きたい”という、バケットリストを作る。それがシルクロードであったり、マチュピチュであったり、世界の遺産を含め、シニアが歴史で学んだ場所や話に聞いた場所である。現在は彼らのバケットリストに、日本の地名や観光地は何も入っていない。そのバケットリスト作りのためのPRをすべきだと、彼はいう。

しかし、もっとも有効なシニアへのPR手段は、オピニオン作りのためのプロモーショナルツアーを実施することだそうだ。「シニアはアナログのFacebookを持っているんですよ」と、ペリーさん。つまり、ひとつのグループが日本に行って「それはそれは楽しい思い」をすれば、彼らは彼らの「ゴルフクラブ」、彼らの「ポーカークラブ」、そして、シニアたちが集まるありとあらゆるコミュニティーで、日本旅行の楽しさを大いに宣伝してくれる。それをペリーさんは『シニアのFacebook』と読んでいるのだ。ペリーさんいわく、この方法は昔から続いていることであり、既に実証済み。だから彼の会社は「ウハウハ、儲かっている」(……というのは、私が付け足したことであるが)。

オーストラリアのシニアのためのプロモーショナルツアー作り。さあ、日本の誰が最初にそのアクションを起こすだろうか。そう、早い者勝ちだ!

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