インバウンドコラム
国慶節に合わせて10月1~7日が7連休となった中国だが、大型連休が過ぎた今も、海外旅行人気が冷めていない。関連の報告によると、昨年、中国人観光客の国際観光支出は1000億ドル(約10兆円)を超えた。また、海外旅行先も日に日に多元化している。2012年から、中国は4年連続で国際観光支出世界一の座を守っており、中国人観光客が「世界中を移動する財布」となっている。
所得の増加で高級志向化
中国国家旅游局が10月19日に発表した「2015年中国観光業統計公報」によると、中国のアウトバンド客の数は1億1700万人で、旅行費用は1045ドル(約10兆4500億円)に到達。それぞれ前年比9.0%増、16.6%増だった。
世界観光機関(UNWTO)の最新統計によると、15年、中国の国際観光支出は世界一だった。中国は12年から4年連続でトップに立っている。
では、中国ではなぜこれほど海外旅行が人気になっているのだろう。広く知られているのは、中国の国民所得が増加していることや高級志向の高まり、各国の中国人を対象にしたビザ(査証)発給要件緩和などの要因だ。
旅行業コンサルタント機関、勁旅諮詢の創始者である魏長仁氏は、「中国の国民所得の水準と直接的な関係がある。所得が向上するにつれ、中国では海外旅行のニーズが生まれた。これは必然的なことで、欧米など、観光市場が成熟している他の国も、この段階を経て来た」と分析する。
大型連休が過ぎた後でも海外旅行に出かける人が大勢いることについて、魏氏は、「連休中は各地が混雑し、旅行をゆっくり楽しむことができない。自由に休みを取れる人もおり、ゆっくり旅行を楽しむために、大型連休をわざと避けているのだろう。また、場所によっては季節的なことも関係する。一般的な旅行シーズンは、ある地域にとっては最も良い季節ではなく、観光客が旅行シーズン以外の時に訪れる場合もある」と分析する。
旅行先が多元化
海外旅行ブームが冷めない中、海外バケーションやじっくり型の海外旅行に出かける人が増加し、海外旅行先が多元化するという新たな動向となっている。
例えば、1が4つ並ぶため中国で「独身の日」と呼ばれる11月11日(ダブル11)に合わせて、ロシアがダークホース的な存在になり、人気の海外旅行先になっている。旅行サイト・携程網の統計によると、今年、ロシア旅行に行く中国人観光客の数が昨年と比べて50%以上増加し、延べ約200万人になると予測されている。ロシアにおける観光支出も200億元(約3000億円)に達する勢いだ。
東興証券の研究報告によると、中国人を対象にしたビザ発給要件緩和を追い風に、海外旅行先が多元化している。例えば、10月の7連休中、モロッコやトンガ、チュニジアなどの中国人観光客が前年同期比約400%となった。
魏氏は、「中国の海外旅行先が多元化しているのは、旅行者が提供する旅行商品と密接な関係がある。提供する商品がどんどん豊富になる旅行サイトもある」とその理由を分析している。
観光専門家の劉思敏氏は、「海外旅行市場が急速に成長していると同時に、中国人観光客の旅行スタイルも変化している。観光地をそそくさと見るスタイルの旅行者が減り、経験のある旅行者はじっくり型の旅行を選び、同じ場所に2、3度行って、現地の文化・習慣を体験するようになっている」と指摘している。
中国国内の観光地が「輸入代替」の役割
中国のアウトバンド市場が安定した成長を見せているものの、その成長速度は鈍化傾向にあるのは注目に値する。例えば、15年、中国のアウトバンド客数の増加率は初めて2ケタ台を割り、9.0%にとどまった。
魏氏は、「中国のアウトバンド市場の基数は当初、小さかったため、毎年大きな成長幅となっていた。しかし、今では基数が大きくなったため、成長速度が鈍化するのは当然のことだ」と分析している。
その他、魏氏は、「成長速度の鈍化は、世界経済の低迷にも関係している。ほとんどの国の経済が低迷しているため、中国のアウトバンド市場も必ず影響を受ける」との見方を示す。
渤海証券の報告によると、現在、海外の観光環境が不安定であるのを背景に、中国のアウトバンド市場の成長速度が鈍化し、一部の海外旅行の需要は、国内旅行へと転じている。中国国内のクオリティの高い観光地が「輸入代替」の役割を果たすことになりそうだ。
不動産購入規制が海外旅行ブームのきっかけか
海外旅行ブームが続く中、注目すべき点が他にもある。携程網が最近発表したビッグデータ報告によると、中国の観光市場は中国の不動産市場と反比例の関係にある。不動産市場が低迷すると、旅行市場は逆に活性化するのだ。
同報告によると、10月13日の時点で、10月末と11月に出発する旅行商品の予約数が前年同期比40%増となっている。うち、不動産購入規制が打ち出された21都市の予約数が同比60%以上となっており、海外旅行人気が続いている。同報告によると、11年に中国全土で初めて不動産購入規制が行われた時にも、同じ状況が見られたという。
周知の通り、9月30日より、中国の20以上の都市が、不動産市場の調整・抑制政策を相次いで発表した。ただ、魏氏は、「不動産市場と株式市場は、中国人の『余っているお金』が流れる場所。しかし、海外旅行の盛衰と不動産市場の関係を証明する、権威あるデータは今のところない」としている。
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