インバウンドコラム
富裕層の海外旅行リピーターがオーダーメード旅行に注目しているという。予算に応じてプランを組み立ててもらうのだ。旅行プランはもはや旅行会社がつくるのではなく、現地の個人が手配する時代になりつつある。それも異業種の人間だ。今後、日本でもそのニーズが高まるだろう。
深圳市の李さんと夫はスイス旅行に出発する前日、ガイドからのショートメッセージを受け取った。旅行中の服装のコーディネートが詳しく指示されていたという。スイス到着後は、カメラマンがすべての日程に同行し、旅の途中のここぞという瞬間を記録した。李さん夫妻が泊まったのは、前から一度泊まってみたかったペンションだった。
「スイスは初めてではないが、今回は最も思い出に残る旅になった」と語る李さんの説明によると、今回はオーダーメード旅行を専門に扱う旅行会社に行程を組んでもらい、「行程はすべてこの会社が独自に開発したもので、訪れた観光スポットの多くは同社だけが取り扱うものだった」という。李さん夫妻のようにオーダーメード旅行を選択する中国人観光客が、海外旅行をする人々の間でますます増えている。
中国の旅行業界は2016年を「オーダーメード旅行元年」と位置づけた。データによると、中国オーダーメード旅行市場は年平均40%の速いペースで成長している。こうした流れにともない、中国人観光客にサービスを提供するオーダーメード旅行が世界に広がっている。
オーダーメード旅行には独自の魅力
重慶市に暮らす1990年代生まれの王軍利さんとガールフレンドは、この2年間に米国を3回旅行した。1回目は団体ツアーで、2回目は自分でプランを練り、半自由旅行をした。3回目は現地でガイドを探して、オーダーメード旅行を楽しんだ。王さんの説明では、「自分とガールフレンドは旅行が好きで、一つの場所に行くとより多く深くその場所のことを知りたいと思い、あまり人が行かない場所に行ってみたくなる」のだという。
米国で14年11月12日にスタートした中国人観光客対象の有効期限10年間のマルチビザ政策を受けて、王さんのような若い旅行者のニーズが実現可能になった。王さんのような人は各地の代表的観光スポットを駆け足で回るスタイルの旅は追求せず、小さな村に1週間滞在することもある。もっと滞在したいと思えば、時間を作って再びその地を訪れる。
中国のパスポートの「価値」がますます上昇し、より大勢の中国人観光客の「もっともっと」というニーズを実現可能にしている。現在、中国の普通パスポートを持った中国国民に対してノービザ政策または到着時ビザ政策を打ち出す国と地域は65ヶ所に達する。
中国人観光客の海外旅行がより簡単になり、頻度もより多くなると、従来の観光プログラムや体験プログラムでは多様化するニーズに応えられなくなった。中国人観光客向けオーダーメード旅行商品を専門に開発することが、旅行業界の多くの関係者にとって新たな業務になっており、他業界の人々も業界の枠を超えて数多く参画するようになった。
3年前にオーストラリアに移住した郭瑩さんは、当時からオーダーメード旅行市場の潜在力を鋭く見抜いていた。そこでまず中国からオーストラリアに来た親戚や友人向けにオーダーメード旅行を組み立て、皆が満足して帰国するのをみて、財務関係の仕事をやめることを決意し、オーダーメード旅行サービスの仕事を始めた。ゴールドコーストの海を眺める、海釣りを楽しむ、シーフードを自分で料理して食べる、海岸線沿いをサイクリングするなどは、郭さんがこれまでに打ち出した「プライベートオーダーメード旅行」の内容の一部だ。
郭さんは、「お客様の年齢、健康状態、興味、滞在時間などに合わせて、いくつかのルートを組み立ててお客様に選んでもらい、全日程に同行する。オーダーメード旅行を始めたばかりの頃は、一年に数件しか依頼がなかったが、2017年は上半期だけで中国からのお客様を20組受け入れた。独自の商品を展開していることがお客様を呼び込める真の理由だと思う」と話す。
オーダーメード≠ハイクラス
国家旅游局の李金早局長は2017年5月に発表した文章の中で、「オーダーメード旅行というと、『ハイクラス』、『高価』、『贅沢』だと考える人は多い。確かにオーダーメード旅行にはハイクラスの旅行商品が含まれるが、ハイクラス商品だけがすべてではない。オーダーメード旅行市場の可能性は大きく、ハイクラスのニーズもあれば、経済的でコストパフォーマンスの高い消費もある。旅行会社は様々なレベルの顧客の個性を踏まえてオーダーメード旅行商品をプランニングし、顧客のニーズに合わせて、それぞれの顧客にふさわしい最良の旅行商品を打ち出さなければならない」と強調した。
前出の王さんはオーダーメード旅行について一家言をもっている。「自分とガールフレンドは働き始めてからそれほど時間が経っておらず、貯蓄も多くないので、最初はオーダーメード旅行は予算を大幅に超えてしまうと考えていたが、実際にはそうではなかった。滞在先の一つの米国オレゴン州ポートランドでは、ガイドが自分たちの希望を踏まえて、海辺の公園を散策し、レストランで現地のヘルシーフードを食べるプログラムを組んでくれ、費用は決して高くなかった。登山やサーフィンや釣りといった専門のコーチやガイドの同行が必要な日程にした場合は、費用は当然高くなる」という。大衆の消費水準に見合ったオーダーメード旅行がますます増えている。
米カリフォルニア州ロサンゼルスで代理購入業務を手がける「小熊熊」さんは、ロサンゼルスに来た中国人観光客で、ガイドに連れられて人気の観光スポットに行くのではなく、普通の町並みを普通に散歩するといった人がますます増えているのに気づいたという。「その辺のカフェやバーやレストランで、数人の中国人観光客が、コーヒーを飲んだり食事をしたりしながら、現地の様子を紹介するガイドの説明を聞いている光景をしょっちゅう見かける。こうした流れの影響で、最近は中国人観光客の買い物も理性的になり、ぜいたく品の店に殺到するようなことはなくなり、大衆的ブランドの商品や普通の価格の商品をより好むようになってきた」という。
微信(WeChat)と旅行予約サイトの窮遊網はこのほど共同で窮遊スマート攻略ミニプロセスを打ち出し、ユーザーのリアルタイム位置情報に基づいて周辺の観光ルートをすすめるサービスを始めた。オーダーメードでコストパフォーマンスの高い自分に合った海外旅行を求める中国人観光客の巨大なニーズを見越してのサービスだ。
「中国化」した商品が続々登場
中国人観光客のこうした変化が海外旅行先の国や地域で注目を集めている。日本のジャーナリスト中島恵さんは著書「爆買い後、彼らはどこに向かうのか」の中で、今や英語を流暢に話し、身なりはシックでTPOをわきまえた中国人観光客がますます多くなり、中国人観光客の消費動向にも変化が生じていると指摘し、日本人はこの新興クラスターにもっと注目すべきだと注意を促した。
フランスを旅する中国人観光客は、今ではエッフェル塔付近やシャンゼリゼ通りのぜいたく品の店に直行するようなことはなくなり、ゆったりと散策を楽しみ、自分の行きたい場所に行くようになった。現地の旅行会社も中国人観光客それぞれの好みに合わせた旅行ルートを打ち出すようになった。たとえばワイン好きの旅行者向けに、ワインの旅をプランニングし、ワイナリーを訪れてブドウ畑を見学したり、ブドウを摘んだり、試飲をしたり、自分の手でワイン樽のふたをするといったプログラムなどを提供する。
予想では今後5年以内に、海外旅行市場におけるオーダーメード旅行の普及率は20~30%に達し、海外旅行に続く増加ペースの速い分野に成長する可能性がある。ここからわかるのは、中国人観光客の好みを理解し、旅行先の観光資源や文化的特色を熟知した旅行プランナーの育成が、各国・地域の中国人観光客を誘致するために努力すべき新たな方向性になるということだ。
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