インバウンドコラム
仕事が終わってから、多くの人は何をしているのだろう。中国では最近、「副業実需」というニューワードが話題となっている。ネット上の説明によると、それは、「30歳を過ぎた大人は『副業』をしなければならないという自覚を持つべき」という意味であるようだ。
自分は何をしたいかを重視するように変化
以前なら、副業にできる仕事の種類は少なかったものの、インターネット時代となり、空いている時間を使って副業をしやすくなった。中には、いくつもの副業を掛け持ちしている人もいる。普段は微商(微信を利用して販売や宣伝する電子商取引)を営み、仕事が終わるとオンライン配車アプリを利用してタクシー運転手をし、帰宅後はライブ配信で小遣いを稼ぐといった具合だ。
副業をする理由は、楽しめることを増やすためか、収入を増やすためだ。電力会社勤務だった劉慈欣さんは文章を書くことが好きで、その副業を極めてSF作家になってしまったいい例と言えよう。また、ライブ配信で一晩に得られるチップが、月給より多いという人もいる。
通常、本業というものは社会保険や安定した収入を得ることができる仕事という意味合いがある。今の若者の親の世代は、「会社のために一生懸命働く」というのを美徳とし、職業、肩書、仕事を生活の中で最重要事項としてきた。そして、仕事以外のことに、時間や体力をたくさん使うことは、ナンセンスとみなされていた。そのような考え方を、今の若者たちは「古臭い」と見ている。今の若者は市場経済化された社会で成長し、生産要素の自由分配を信奉し、「自分は何をしなければならないか」ではなく、「自分は何をしたいか」を重視する。
とはいえ、市場経済、ひいては文明社会全体の重要な基礎の一つが「契約の精神」であることを忘れてはならない。「安定」と「保障」を提供してくれる「本業」は当然ながらそれに対するコスト、つまり決まった勤務時間に仕事をし、あまり好きでない業務もこなさなければならないし、もしかしたら同窓会などではちょっと恥ずかしくて言えないような給与レベルという場合もある。
本業が終わってからなら、読書をするもよし、街中で露天商をして小遣い稼ぎをするのもよしで、何をしても自由だ。しかし、勤務時間中は、単に自分のすべきことをするだけでなく、職業モラルや規範を守り、副業のことは一旦頭から消さなければならない。それが本業と副業の違いだ。
本当に必要なものは? 変わるライフスタイル
「本業」を選ぶにも、それを辞めるにも、理性的に考えてから決める人がほとんどだ。もし、従業員が「副業」を「実需」と見なしているなら、雇用者側も、従業員の管理制度や給与制度について、真剣に見直す必要があるだろう。
今の若者、特に給料だけでは足りないと感じている90後(1990年代生まれ)の若者は、「実需」という言葉に対する理解も異なる。
筆者自身は、「給料の半分が食費に消え、もう半分は家賃」という生活を経験したことはない。貯金と呼べるような資産はほとんどないが、都市で何とか生きていくことができているし、時には好きな物を買う余裕もある。「副業」もしたことはあるが、「実需」だと感じたことはない。
副業が「実需」であるかは、個人の消費状況にかかっているだろう。ぜいたく品が「実需」と感じる人もいれば、出かける場合は必ず「タクシーに乗る」ことが「実需」と考えている人もいるだろう。一方、バスのカードの残高が2桁以上であること、清潔で温かい服を着ることが「実需」だと感じている人もいる。
今は商業社会で、「消費」は単なる行為ではなく、ライフスタイルの一部になっていることは認めなければならない。より良い生活を追求するということは、向上心のある証拠であるものの、消費主義という落とし穴には警戒しなければならない。
現在、インターネットが社会の隅々にまで浸透しており、人々の考え方や行動の仕方にまで影響を与えるようになっている。ある種の生活を、自分で選んでいるのか、それとも、選ばされているのか、または巻き込まれているのか、分からなくなることもある。経験を積み、物事を深く考える習慣を身につけて、何でも自分で判断できる能力を養わなければならない。
そして、依然として輝きを放っている価値あるものが、必ずどの時代にもあることを覚えておかなければならない。それは、作業着を着ている人のうちにある価値かもしれず、電動立ち乗り二輪車に乗っている人のうちにある価値かもしれない。
また、その価値は、分厚いスケジュール帳の中に隠されているかもしれず、毎日覗く微信(WeChat)のモーメンツに隠されているかもしれない。大きな理想を抱き、民族や人類のために何かをしたいと考える人もいれば、自分の家族を養うことを一番に考える人もいる。1日十数時間ライブ配信しているネット上の人気者であっても、常に真理を求めて研究に打ち込む科学者であっても、誰でも、誠実に働くということは、永遠に尊敬に値することだ。
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