インバウンドコラム
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)は9月3日、GINZA SIX内の観世能楽堂にて、設立5周年記念イベントを開催した。JSTOはショッピングを軸に、日本の魅力を世界に伝える訪日観光プロモーションや、小売など外国人を迎え入れる事業者支援などを行っている。
イベントでは、協会設立の2012年から現在までの歩みを振り返るとともに、2030年に向けたビジョンを発表。日本ならではの楽しさの提供と消費額9兆円の実現に向けて「ショッピングエクスペリエンス」「訪日ゲスト6000万人との接点強化」「地域活性化に向け、これまでのノウハウを活用したパッケージ提供」の3つの重点施策を発表した。また、イベントには、菅義偉内閣官房長官や、インバウンド業界を牽引するキーパーソンが登壇し「世界一のショッピングデスティネーションを目指して」と題したシンポジウムを行った。その様子をリポートする。
地方創生・経済活性化に必要なことは政府へ要望を
来賓挨拶:菅義偉内閣官房長官
菅氏は、インバウンドに関して、これまで政府が戦略的に実施した2つの施策「戦略的ビザ発給要件の緩和」「地方特産品の免税化」に言及。このことにより、訪日客数の大幅増や、当初4100店だった免税店が4万4000店まで増加したことで、消費額の大幅増が実現できたことを強調した。また2019年1月から徴収が始まる国際観光旅客税については、今年度だけで480億円の税収が見込めることにも触れた。
また、政府の役割は環境を整備することであり、そのあとは民間企業や各関係者が日本経済の活性化や地方創生を進めてくれる、そのために必要なことについては、政府へ要望を出してほしいと強調した。
シンポジウム:世界一のショッピングデスティネーションを目指して
【登壇者】
協会顧問・前日本政府観光局(JNTO)理事長 松山良一氏
協会副会長・日本航空株式会社常務執行役員 二宮秀生氏
協会副会長・日本百貨店協会会長 赤松憲氏
協会正会員・日本ショッピングセンター協会 国際委員会委員長 高野稔彦氏
全国商店街振興組合連合会 青年部部長・松山銀天街商店街振興組合 理事長 加戸慎太郎氏
協会会長 日本旅行業界(JATA)会長 田川博己
協会事務局長 新津研一氏
政府が掲げた、訪日客数2020年4000万人、2030年に6000万人という目標も現実味を帯びてきているが、一方で、2020年8兆円、2030年15兆円という経済効果に関する目標達成への道のりはまだまだという状況だ。
そのような中で、2年後に控えた東京オリンピック・パラリンピック以降を見据え、ショッピングツーリズムのあるべき姿について、「ツーリズム」「小売」の2つの視点から、業界トップの方を招き、「1、ショッピングツーリズムの価値とは何か」「2、世界一のショッピングデスティネーションになるために」の2つのテーマでトークセッションが行われた。
1)ショッピングツーリズムの価値について
訪日客の消費額全体は、2013年の1兆4000億円から2017年には3.11倍の4兆4000億円にまで成長、このうち、買物消費額は4500億円から1兆4000億円と伸び率は3.55倍にまで伸長している。2015年に話題になった爆買消費がひと段落したと言われているものの、現在もなお買物消費額は増えている。
最近のトレンドは欲望充足から豊かな暮らしの実現
赤松氏は、百貨店での免税額は、免税額の約4割が化粧品などの消耗品を占め、化粧品人気は変わらないが、最近のトレンドとして、子供用品やリビング用品などの売上が増えていると話した。これは、消費者の興味が「自分自身」の欲望を満たすことから、日本の商品で家族や子供、更には自らの豊かな暮らしを実現することに移っている表れ、これらにどう対応していくかが大切と強調した。
松山氏は、外国人観光客の訪日目的として「ショッピング」が「日本食」に続く2番目に入るなど、ショッピングの重要性が増す一方で、実態は、訪日客がたまたま日本で買い物している現状に触れ、今後、ショッピングデスティネーションとしての日本の魅力をいかにPRしていくかが重要と話した。
高野氏は、最近の訪日客の動向として、日本への入り方が多様化し、LCCの就航やクルーズを通じ、地方へも消費が拡散していることに触れた。その中で、リンゴを積極的に売り出す青森のショッピングセンターや、広島の郊外に位置するショッピングセンターによる積極的な訪日客誘致の事例を紹介、人口減少に伴い苦戦する地方の施設が、訪日客に訪れてもらえるようにする仕掛けを考えていく必要性を述べた。
訪日客が地方の商店街に足を運ぶ理由を作る
加戸氏は、スマホを使ってボタン一つで簡単になんでも購入でき、翌日には配送という便利になった今の時代に、わざわざ店舗まで、それも地方の商店街にまで足を運ぶ理由を作るためには、接客・サービス面での工夫や、顧客の潜在ニーズを引き出す需要創出型を目指す必要があると強調。また、一口に商店街といっても観光型、地域型、広域集積型と、多様化が進んでいることに触れ、今後は、多様なお客様をどう迎え入れていくか、売上をどう増やしていくか、画一的・効率的ではない対応が求められていると話した。
二宮氏は、インバウンドに関しては、輸出産業としては1位の車産業、2位の化学産業に次ぐ3番目に大きい産業にまで成長したことで、すそ野が大きく広がっていることに触れ、具体例として、レンタカー事業と農業を結びつけ、レンタカーの待ち時間を利用して、桃の即売会を行った事例を紹介した。
ここまで、日本の産業界にとっての価値を紹介してきたが、では、訪日ゲストにとっての価値とは何なのか。田川氏は、2012年に開催されたロンドンオリンピックの取り組みを紹介、五輪開催時に文化的要素も発信することで、五輪開催後も継続的に訪れてもらうことが大切と話した。
2.世界一のショッピングデスティネーションにすべきことの決意表明・提言
観光目的で買い物をするジャーニーショッパーの誘致を
松山氏は、UNWTOが発表した買い物する消費者の3つのカテゴリ、旅行地に行ってお土産を買うスーベニアショッパー、欲しいものをリスト化して友人や自分のために買い物をするリストショッパー、観光目的で買い物をするジャーニーショッパーを紹介、日本は観光目的のジャーニーショッパーが弱いのではないかと問いかけ、JSTOが取り組むJapan Shopping Festivalをさらに大々的に展開し、バーゲン目的に訪れる人を増やすことがすべきことではないか、と話した。
高野氏は、SC協会がすべきこととして、まだ多く存在するインバウンド対応が進んでない地方において、事業者だけでなく、住民や行政を巻き込んで、景色や名産物・特産物といった観光資源を活かすために、積極的に仕掛けていきたいと話した。商業施設に対しては、売り場整備や接客対応、情報発信ができていない施設には、基礎的な整備のサポートを、すでに整備できているところには、春夏秋冬の4シーズンを楽しみに訪れてもらえるサポーターを増やせるサービスや演出が必要、そのためのサポートをしていきたいと表明した。
100年後にも訪れてもらえるようなインフラ整備を
加戸氏は、人材育成をすること、都市部との連携、トリップストーリーを描くなどして回遊性を高めるような取り組みをすること、そして、ご自身の地元、松山の道後温泉が100年ほど前に本館を立てて観光営業をスタートしたことが今観光の核になっていることに触れ、100年後にも訪れてもらえるようなインフラ整備を今の段階から取り組みたいと話した。また、組織としての取り組みとして、地域一体となって観光営業をすること、その際には。その地に根付く教養をしっかり前に出していくことが課題、と話した。
二宮氏は、ショッピングエクスペリエンスを中心に据え、何よりも住民・自治体・地場産業など、現場の方たちが主体的に取り組むこと、そして、その中で出てきたハードルについては、国がしっかりと環境整備を行い、知恵を出し合ってオールジャパンで取り組むことが良いのではないか、そのためにエアラインとして出来ることをサポートしていきたいと話した。
赤松氏は、国への提言として、ショッピングにフォーカスした施策を実施してほしいと話した。また、2017年に取得した59万人分の買物データから、日本に1回しか来ない人が買った免税金額が5.5万円に対して、1年に2回以上訪れるヘビーユーザーははその1.6倍も使う、つまり、日本に来れば来るほど買うことに触れ、ジャパンインバウンドツーリストポイントという制度を作り、パスポート見せると、ホテル、列車、買い物などでポイントが使えるような仕組みを将来的に作っていければと話した。
目まぐるしいスピードで変化するインバウンド市場。訪日客数の目標は実現の可能性が見えてきたが、一方で訪日外国人消費額の達成には課題が山積みだ。観光事業者と地方自治体や住民など、現場での主体的な取り組みや、国によるサポートまで、官民一体となってオールジャパンで取り組めるかどうかか、成否のカギを握ると言えそうだ。
【開催概要】
2018年9月3日 (月)13:30~15:45
JSTO設立5周年記念イベント
場所:観世能楽堂(東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX B3F)
主催:一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会
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