インバウンドコラム
9月19日に一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会と一般社団法人日本ゴルフツーリズム推進協会が主催するゴルフツーリズムセミナーが文部科学省内の講堂にて開催された。年々インバウンド客が増える一方で、日本国内のゴルフ場の数やゴルフ人口は減少が続いている。レジャーが多様化するなか市場規模が縮小しているゴルフ業界で、インバウンド客をどう取り込んでいくか?全国のゴルフ場経営者と地方自治体の海外誘客担当者などが集まり、ゴルフツーリズムを成功させるためのポイントを考える場となった。
開会の挨拶で日本ゴルフツーリズム推進協会副会長の小島伸浩氏はゴルフ人口におけるインバウンド客の利用率がタイでは約80%、アメリカでも20%あるが、日本ではまだ1〜2%と非常に低い。日本でも10年後は2割を目指したいと目標を掲げた。
次に挨拶に立ったスポーツ庁次長の今里譲氏は、日本はアメリカ・イギリスに次ぐ、世界第3位のゴルフ場数を誇るが、現在のゴルフ人口は、ピークを迎えたバブル期と比較すると3分の1まで減少している。これを盛り返すにはインバウンド客の取り込みは不可欠と指摘。近年は訪日はリピーターも増え、モノ消費からコト消費へ、東京から地方へと移行している。地方の自然や魅力を体験できるスポーツツーリズムはインバウンド誘客に効果的である。2020年東京オリンピックでも正式種目となるゴルフは今、追い風が吹いている時。お金持ちのスポーツではなく、老若男女が楽しめる生涯スポーツとしてゴルフを捉え、スポーツ庁としてはゴルフ場利用税の廃止を要望していくとの立場を表明した。
講演1「世界のゴルフツーリズムからみた日本の現状について」
北海道大学観光学高等研究センター 客員教授 遠藤 正氏
前半はインバウンドの経済効果をニセコにおけるスキーツーリズムと比較しながら解説した。
スキーとゴルフは共通点が非常に多い。スキー、ゴルフともにバブル期の1993年頃をピークに2016年には参加人口が3分の1まで減少している。またスキー場、ゴルフ場といった広い施設の維持管理にコストがかかること、若年層を開拓するのが困難といった問題が共通する。
こうした問題を解決する一つの手段として、ニセコではインバウンドのスキー客を積極的に受け入れ、ゲレンデに賑わいが戻った。人口1万5000人の町で冬季4カ月間の外国人延宿泊者数が2006年は約9万人泊、2015年は4倍の約40万人泊まで増えた。一見、ニセコのスキーツーリズムは成功したように見えるが、高級ホテルやコンドミニアム、レンタル店、レッスンガイド、飲食店などほとんどが外国人オーナーで地元の観光業に携わる人々が受ける恩恵が少ない現状があるという。外国人経営者が外国人観光客を呼び込む形で、地域振興の観点からは問題があると指摘。
今後、ゴルフツーリズムに取り組む場合には、地域の観光業全体できちんと役割分担をしないと、インバウンド誘客しても、地元の観光業者が入り込む余地がなくなると警鐘を鳴らした。
後半は世界のゴルフツーリズムの現状について解説。アジアではマレーシア、タイがゴルフツーリズムの先進国でIAGTO(国際ゴルフツアーオペレーター協会)が主催するAGTC(アジアゴルフツーリズムコンベンション)を数多く誘致している。また国を挙げてゴルフのインバウンドに取り組む成功例としてニュージーランドのPR動画を上映した。その一方、日本のゴルフツーリズムは、そもそも海外のバイヤーに知られていない。世界第3位のゴルフ場数を誇り、安全で綺麗な設備が整っていることも認知されていない状況だという。2019年ラグビーW杯、2020年東京五輪と、スポーツを通じて世界が日本へ注目する絶好のチャンスである。
9月28日から三重で開催されるJGTC(IAGTO第一回日本ゴルフツーリズムコンベンション)で、海外バイヤーにもぜひ積極的にアピールしてほしいと訴えた。これからインバウンドに取り組もうとするゴルフ場関係者の中には、マナーや言葉を理由に外国人の受け入れを懸念する動きもあるが、一旦コースに出ると、ゴルフは世界共通のマナーがあり、日本的なキャディは言葉よりもホスピタリティでカバーできる。HPや看板の多言語表記などスムーズにプレイできる環境整備は必要だが、食事や入浴などカードホルダーで全て決済できたり、親切なキャディの存在など「日本らしいゴルフ文化の魅力」を失わない受け入れ態勢づくりが大切だと強調した。
講演2「三重県のインバウンドの取組におけるゴルフツーリズム」
三重県雇用経済部観光局海外誘客課 課長 松本 将氏
三重県を訪れるインバウンド客は2016年から2017年で微減する中、ゴルフを目的としたインバウンド客だけが15%増と好調だった。特に韓国からのゴルフ客が増加している。
県ではここ3年間でアジア各国のトラベルマーケットに出展してきた。その中で海外ツアーオペレータからはゴルフ場そのものに関するスペック情報よりも、ゴルフの前後でどんな日本文化体験ができるかよく聞かれたという。実際に三重県のゴルフ場をPRすると、ゴルフ以外にも松坂牛、牡蠣といった食の魅力があり、世界遺産の伊勢神宮やリアス式海岸の眺めなど観光素材が揃う三重県は「ゴルフ場と観光のバランスが良い」という評価を得た。そうした手応えから、自治体としても欧米豪に対するインバウンド施策としてゴルフツーリズムを強化してきた。
県としても今年、日本初開催となる日本ゴルフツーリズムコンベンションを誘致できたのは非常に大きいチャンスと捉えている。9月28日〜10月6日までの詳細日程を発表。コンベンション後には静岡県、滋賀県、沖縄県へのポストファムツアーも組み込み、三重県だけでなく、より深く日本を知ってもらうために他県との連携を図る。
最後にゴルフツーリズムを成功させるためには、ゴルフ場+自治体+地元観光施設の3者の連携が不可欠だと強調した。
情報提供「ゴルフにかかる市場・人口等の推移について」
スポーツ庁参事官(地域振興担当)専門官 高下 栄次氏
スポーツ庁では2017年6月に「アウトドアスポーツ推進宣言」を発表し、スポーツによる地域活性化を強化している。その中にはゴルフも含まれており、全国にある2253のゴルフ場を活かせば、地方にもインバウンド誘客が狙えるとした。一方で国内のプレイヤー人口を増やすために今後狙う世代としては10代と20代を挙げた。「黒子のバスケ」で人気を博した漫画家藤巻忠俊氏による新連載「ROBOT x LASERBEAM」ではゴルフが主役となっており、若者世代では漫画と実際に自分がするスポーツとの相関関係が高いので、10代にもゴルフ人気が波及するのではと期待している。
全体のゴルフ場利用者は減少しているにも関わらず、ゴルフ場非課税者数(70歳以上と18歳未満)は2003年の410万人から2016年は1568万人と増えている。高齢者と18歳未満の若いプレイヤーの囲い込みも考えるべきとの見解を示した。最後にゴルフ場だけでなく、その周辺地域の食、温泉、景色など観光を組み合わせ地域全体で活性化を目指すべきだと締めくくった。
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開催概要:
2018年9月19日 (月)10:00~12:00
ゴルフツーリズムセミナー〜世界のゴルフツーリズムと日本の現状について〜
場所:文部科学省3階講堂
主催:一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会、一般社団法人日本ゴルフツーリズム推進協会
共催:スポーツ庁
後援:経済産業省、観光庁、一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構
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