インバウンドコラム

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.4世界の観光業の取り組みから学ぶ、自治体・DMOが今まさにすべきこと

2020.05.19

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新型コロナウイルス感染拡大による渡航禁止は旅行予約のキャンセルを招き、観光業は大打撃を受けている。感染症拡大のピークは過ぎ徐々に規制緩和が進んでいるが、第二波・第三波発生の懸念もあり、観光需要回復の先行きは依然として不透明だ。

今回は「LINEトラベルjp」や「Trip101」といったオンライン旅行サイトを運営し、世界のトラベルテック分野で事業家、投資家、メンターとして活躍する株式会社ベンチャーリパブリック代表取締役社長・柴田啓氏をゲストに招き、海外OTAの動きも含めた世界の観光業の現状について話を伺った。グローバルな視点に立った柴田氏(以下、柴田)からは、旅行会社をはじめ自治体やDMOが今の段階から着手すべきことや、今後の旅行マーケットの展望などを語ってもらった。モデレーターは株式会社やまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)が務めた。

 

1)海外OTAを含むトラベルテック分野におけるコロナの影響 

コロナショックがもたらした副産物は「オンライン化」

村山:柴田さんは、世界のOTAも数多く参加するトラベルテック分野の国際カンファレンスWeb in Travelの日本版、WiT Japan & North Asiaの実行委員責任者としても、国内外の旅行、観光に関するテクノロジーにも精通されています。やはり世界のOTAにとってもコロナショックは大きいですか。

柴田:海外OTAはどこも苦しい状況です。まずは当面の資金繰りが一番の課題です。体力・信用力がある世界最大手OTAは既に1000億円規模での資金調達をしています。各政府は、国策としてエアラインが倒産しないよう救済措置を取る動きはあるものの、民間の一企業であるOTAへの支援は期待できません。どのようにして持ちこたえるか、休業や給与減額のみならず、社員のリストラに踏み切る企業も出てきています。

 

事業の多角化をやめて、生き残りをかけた本業回帰

柴田:宿泊、航空券、アクティビティと事業の多角化を進めてきた各OTAも、生き残りをかけて、本業に特化するなど事業の見直しを余儀なくされています。自社の強みを再確認し、人やお金などの各種リソースを集約する動きも見られます。

今後、間違いなく世界の旅行業界での事業再編は起こるでしょう。しかも、それはOTAから始まると思います。なぜなら、コロナショックがもたらした副産物はオンライン化だからです。オンライン化はOTAにとって追い風となり、今後の旅行業の核となるでしょう。

 

2)海外の政府観光局・DMOの取り組み

時間がかかるコンテンツ・マーケティングは今こそやるべき

村山:海外の観光局・DMOの今の状況はいかがでしょうか。

柴田:賢い観光局は既に動いています。彼らを見ていると、主に2つのことに取り組んでいます。1つ目はコンテンツ・マーケティングの仕込みです。旅行記事を作成して、サーチエンジンのSEO効果を発揮させるまでには、非常に時間がかかります。それはつまり、時間があるいま着手するのに適しています。回復期にいち早く観光客を迎えるためには、今できることを仕込んでおけるかどうかで差が出ます。

2つ目は一定規模の継続的な情報発信です。SNSやインフルエンサーなどを通じて、共感、信頼、安全につながるような形で発信を続けています。もし発信をやめてしまったら、消費者から忘れ去られてしまい、回復期に旅行先として選んでもらいづらくなります。消費者も日々のコロナウイルスに関する情報に疲弊しているので、SNSではほっこりする旅行ネタにすごく反応します。ある調査によると、旅行Webサイトのエンゲージメント率が2倍以上になったという結果も出ています。

村山:自粛ムードの中での情報発信は炎上リスクもありますが、気をつけるべきことはありますか。

柴田:表現の仕方次第です。例えば、いつか旅行に行くときのためにバケットリストに加えようといった表現をするとか、テイクアウトしているお店だけ紹介するとか、工夫すれば良いと思います。

村山:情報発信の際には安全、安心、清潔がキーワードですね。

 

3)アフターコロナの観光はどう変わるか

宿泊の需要予測 国内客、近場客をしっかり取り込む

村山:本日のセミナー参加者に対し、インバウンド復活期の予測を聞いたところ、来年春以降と予測する人が多かったのですが、柴田さんはどう見ていますか。

柴田:私も同感です。ある米国のアナリストによると、アジア太平洋地域における宿泊需要は、今年4~6月は前年比70%減、7~9月は55%減、10~12月は45%減と出ています。ここから言えることは、国境を越える海外旅行はまだ先かもしれませんが、近場や国内の宿泊需要は徐々に戻ってくるのではないかということです。おそらく、日本も同様の推移となるとみています。

 

4)旅行者の変化

平均宿泊日数は3倍以上に、プライベート感がある長期滞在が増える

村山:消費者の行動変化についてはどう見ていますか。

柴田:近場の国内旅行が復活の第一歩です。新しい生活様式に沿ったウィズコロナの旅行スタイルが出てくるでしょう。例えば車、キャンピングカーを使った旅行、プライベート感が高い旅などです。宿泊施設は一棟丸ごと貸し切りの小規模施設やAirbnbのような民泊が台風の目になるかもしれません。

弊社が運営する英語トラベルメディア「Trip101」でも世界中のユニークな民泊を紹介していますが、1予約当たりの平均宿泊日数が平均2~3泊だったのが、3月中旬から6~8泊に急激に増えています。つまり、長期滞在が増えているということです。

▲柴田氏登壇資料より

 

消費者の変化に対する2つの切り口「ネット情報」と「物流の活用」

村山:3密リスクが低いアウトドアの人気も高まるでしょうか。

柴田:グランピングなどの新しいスタイルを含め、キャンプ、色々な意味でアウトドア関連は間違いなく伸びると思います。例えば飲食店では今後、テイクアウトだけでなく、オープンカフェのニーズも高まってくると予想されます。各事業者がどれだけアウトドア性が高い体験を提供できるかが勝負でしょう。

なお、消費者の変化という観点では、インターネットによる情報と物流は活発になるでしょう。ユーザーはインターネット経由で情報収集し旅行先を決めるトレンドが加速しそうです。また、観光地の特産物をお取り寄せして自宅で食べるスタイルが増えています。物流を活用して、商品を届けられることで消費者に価値を提供できるでしょう。

 

5)自治体・DMOへのアドバイス

安全、清潔の実現に向けた受け入れ環境の整備と強みの明確化

村山:自治体・DMOが今後取り組むべきことについて教えてください。

柴田:まずは公的団体として、安全で清潔な場所であると表明できるように、感染防止策を講じ、衛生管理ガイドラインにも取り組んでほしいです。

もう一つは、発信できるコンテンツの準備しておくこと。地域でテイクアウトできる店や3密ではないアクティブティなどの情報をまとめてコンテンツとして用意できるといいですね。

最後に、インフルエンサー・マーケティングです。我々は世界中のトラベルライターと自治体のマッチングを行なう事業も手掛けていますが、地域のファンを増やすことはインバウンド誘致に有効です。ぜひ今のうちにネットワーク広げ、多くのインフルエンサーにその地域のファンになってもらえるような取り組みをしてみてください。

村山:前向きに行動を起こせば、世界中のインフルエンサーともつながれるチャンスですね。

柴田:リカバリーは来る時には一気に来ると思います。今からコンテンツ作りもファン作りも準備しておかないと間に合いません。旅行できる時期が来たら、いち早くインフルエンサーに現地に来てもらい、3密回避できる体験記を発信してもらうとインバウンド向けにも国内客向けにも効果的だと思います。

 

価格競争の前に、まずは自社の強みを再確認する

村山:旅行需要回復期には、顧客を獲得するために宿泊施設の室料は下げたほうがいいのでしょうか。

柴田:衛生面からビュッフェや温泉も提供不可、また間隔を空けて200室のうち100室しか稼働させないという状況も出てくるかもしれません。需給バランスを考えると値段は上がる可能性もあります。無理に値段を下げる必要はないと思います。

村山:回復期に向けディスカウント・キャンペーンが増えそうですが、観光地のブランドを守るため、避けるべきでしょうか。

柴田:観光地も事業者も自分たちの強みがどこなのか改めて見直し、強みを広く消費者に訴求するためであれば、最初の一歩としてのディスカウントはあってもいいと思います。本当に価値ある魅力であれば、リピートに繋がるでしょう。ただし、強みではないところで価格競争しても、リピートにつながりません。

 

規模が大きくなり復活する旅行市場の波に乗り遅れないように準備

村山:最後に観光事業者に向けてメッセージをお願いします。

柴田:AirbnbのCEO、Brian Cheskyは先日のインタビューで「Travel will be back bigger but in a different way:(旅行市場はより大きくなって戻る ただしこれまでとは違った形になるでしょう)」というメッセージを発信しています。少し時間がかかるかと思いますが、旅行市場は必ず、更に大きな規模になって、復活します。その時は旅行の形が今と変わると思います。我が社でも今後どんな旅行マーケットの波がくるかを予測する「プロジェクト・サーフ」を立ち上げました。来るべき回復の時、いい波に一番乗りできるように今からしっかりイメージトレーニングをして備えましょう!

村山:本日はありがとうございました。

【登壇者プロフィール】

株式会社ベンチャーリパブリック代表取締役社長 柴田 啓氏

ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得後、2001年にベンチャーリパブリックを設立。2015年にシンガポールFlocations社(現「Trip101」)を買収、旅行事業への注力とともに海外進出を本格化させる。2018年、LINE株式会社との資本業務提携により、「LINEトラベルjp」にブランド名を刷新。旅行・観光分野を中心にグローバルスケールでのスタートアップ企業へのエンジェル投資も手掛け、デジタルx旅行・観光の領域で、世界で最も知られた日本人の1人。

 

【開催概要】
アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.4「世界の観光業の現状、そして、今後〜コロナ禍において、今できることは何か?〜」
日時:2020年5月8日(金)16:00~17:00
場所:ZOOMオンラインセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 


【今後開催予定のセミナー】

◆データから読み取るインバウンド入札案件動向

2020年5月21日(水)13:00~13:30

◆アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.6「アメリカのDMOは今何を考え、何に取り組んでいるのか。〜日本の観光業が学べることとは〜」

2020年5月22日(金) 11:00~12:00

 

 

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