インバウンドコラム
6月19日より都道府県をまたぐ観光が再開され、観光業界は新しいフェーズを迎えた。政府が国内旅行喚起策として「Go To キャンペーン」を掲げるなど明るい兆しが見える一方で、新型コロナウイルスウイルス第2波への懸念は払拭されず、withコロナ時代の新しい観光のカタチが模索されている。
そこで、4月から毎週1回開催してきたやまとごころオンラインセミナーは、今回から新たなシリーズとして「withコロナ時代の観光戦略」をテーマにお届けする。
初回は外国人人材サービスのパイオニア、株式会社グローバルパワーの竹内幸一氏と、新型コロナウイルス禍で困窮する外国人に無料宿泊を提供した金沢のホテル「カナメ イン タテマチ」の細川博史氏をゲストに迎え、お話を伺った。
失業した外国人材救済のため無料で紹介サービスを提供
グローバルパワー社が運営する外国人向け求人サイト「NINJA」では、新型コロナウイルス発生前は1カ月で平均800件あった求人数が、新型コロナウイルス後には約300件に減った一方で、外国人求職者の新規登録は毎月約500人と新型コロナウイルス前の約1.5倍に増加。失業で困っている外国人材を助けたいと、同社では無料で就職先を紹介する救済・支援策を4月27日から実施。企業側および利用する外国人側の手数料を無料とし、5月と6月の2カ月間で失業した就労の在留資格者207名の無料人材紹介を行った。
インバウンド求人激減でもマッチングあり、採用のポイントは?
無料支援サービスではIT企業とIT技術を持つ外国人材のマッチングのほか、地方でインバウンド向けの宿泊施設を展開する企業へのマッチングも成立した。今後はIT分野でも翻訳業務を含むローカライズの求人なら、インバウンド人材もマッチングできる可能性があると竹内氏は見ている。
また、採用基準でN1、N2を条件に挙げる企業が多いが、日本語能力試験は読む・聞く能力のみで、話すは含まれない。採用の際には、来日年数と日本語会話力を鑑みて、学習能力が高い人、伸びしろがある人を重視したほうが良いと竹内氏はアドバイスした。
困窮する外国人の存在に気付き、3カ月で延べ1100泊を無料提供
次に登壇した石川県金沢市のホテル「カナメ イン タテマチ」の細川氏は、新型コロナウイルスの影響で日本から母国へ帰国できなくなった外国人に向けて無料の宿泊サービスを3月末に開始。各国大使館のホームページやメディアが取り上げたことで、6月末までに運営する4施設で延べ1100泊以上を提供した。
2月、外出自粛でキャンセルが相次ぐ金沢市内の飲食店を盛り上げる目的で、無料で宿泊を提供するので、金沢まで食べ歩きに来てほしいとfacebookで友人に呼び掛けた際、訪日旅行中に母国に帰れず困っている外国人がいるので泊めてあげてほしいと頼まれたのがきっかけだった。その後、留学生や失業など様々な事情から居場所を失った外国人を無料で受け入れた。
善意で広がるネットワークと企業価値
多くのメディアが取り上げたことで知名度が上がり、クラウドファンディングで運営費260万円を集めることにも成功。食事は金沢市内の飲食店延べ25社が無償で提供してくれた。
現場では、感染リスクを回避しながら、どうやって外国人客を迎え入れるか、日々模索が続いた。スマートフォンやメールを活用した完全非対面でのチェックイン、チェックアウトや独自の感染防止マニュアル作成などを通して、スタッフの戦闘能力が格段に上がったことは、外国人客の無料宿泊を続けたからこそ得られたギフトだったと話す。
優秀な外国人材を雇用できるビックチャンス到来
最後に竹内氏は人手不足に悩む企業に対して、外国人雇用システムをしっかり理解した上で雇用促進を訴えた。また、在日外国人を人材ではなく顧客として捉えた場合、日本の人口の約2%に過ぎないが、その2%のうち85%が生産年齢人口で旅行や消費に積極的な層なので、きっちり掴んでおくことが大切だと指摘した。
いま日本にいる外国人を支援することで未来のマーケットが広がる
新型コロナウイルス禍を共に過ごした外国人がチェックアウトする際、細川氏は「君はもう家族同然だから、未来永劫無料で宿泊していいよ」と送り出した。金沢を第二の故郷と思って、将来家族を連れて戻ってきてくれればと願っている。今後も1カ月無料宿泊枠を3室だけ設け、金沢に移住やワーケーションを考えている人向けに活用してもらいたいと呼び掛けた。
【登壇者プロフィール】
株式会社グローバルパワー 代表取締役 竹内 幸一氏
1974年東京生まれ。群馬県育ち。高校卒業後、米国に留学。外資ワイン商社を経て2003年、大手人材会社フルキャストへ転職。2005年、社内ベンチャーとして外国人の留学生採用支援事業部の設立に参画。2009年、事業部のMBOを経てグローバルパワー設立に参画。2010年12月、代表取締役に就任。2016年4月一般社団法人外国人雇用協議会の発起人の1人として参画、設立、理事就任。現在に至る。 著書「知識ゼロからの外国人雇用」(幻冬舎)。
株式会社SLACKTIDE 代表取締役 細川 博史氏
1978年4月15日金沢生まれ。高校卒業後、学生時代を大阪、社会人を東京で過ごす。外資系金融機関での営業等を経験した後、15年の県外生活から2012年1月に金沢へ戻り、8年経過。現在は金沢市を拠点に宿泊業、飲食業、内装業を営む。 国内外の人向けに独自の視点で紹介する金沢の情報が評判となり、様々な国内外メディアの金沢紹介コーディネート実績がある。
【開催概要】
withコロナ時代の観光戦略 vol.1〜コロナ禍における外国人の実態と観光業が今やるべきこと〜
日時:2020年7月3日(金) 15:00〜16:00
会場:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ
【今後開催予定のセミナー】
◆withコロナ時代の観光戦略 vol.2 〜観光ニューノーマルを乗り切る衛生基準とその実践〜
2020年7月10日(金) 15:00~16:00
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