インバウンドコラム

withコロナ時代の観光戦略vol.8 ~海外DMOのコロナ禍対応と未来戦略~

2020.09.14

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コロナ禍で大打撃を受けた観光業界。この危機を乗り切るため政府によるさまざまな支援策が講じられているが、DMO先進国の欧米ではDMOが中心となって地域の観光事業者をサポートしている。

今回はゲストに、DMO専門家として欧米のDMO事情に精通する株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフコンサルタントの丸山芳子氏をお招きして、海外DMOのコロナ禍対策から学べることや世界標準の観光地づくりについて話を伺った。

 

旅行市場の回復、米国では需要よりも供給側に注目

まず初めに丸山氏は「いつ、観光が元通りになるのか」の問いについて、需要=旅行者と供給=観光地域に分けて考えたいと話す。米国では、2001年同時多発テロでの「もう飛行機に乗りたくない」、2008年世界同時不況での旅行者の懐が痛むという過去の事例と比較すれば、今回は旅行者の嗜好の変化はあるものの、旅行に行きたいという需要そのものは減っていないと見ている。むしろ受け入れ側である観光地域における倒産や失業など、観光が復興したときに体験や消費してもらう地域事業者のダメージが大きく、供給側の回復こそが観光復活の鍵とされている。

 

米国ではDMOがいち早くコロナ対応に動いた

コロナ禍において米国の観光業界は、まだ感染者があまり多くない3月5日に危機管理モードを発動。観光関連7団体が共同でこれから迎える危機と支援要請の声明を出したほか、DMO業界団体であるDestination Internationalがコロナウィルス感染症拡大に当たっての第1回目のウェビナーを開催した。そこでは過去のアンケート結果を元に「今後は安全、安心に対するニーズが高い」等の情報や、弁護士によるキャンセル料の払い戻しに対する対応策を説明したり、宿泊税が減少することに伴うDMO職員の解雇、一時帰休に関連した法的義務やストレスケアといったことまで語られたという。

4月1日のウェビナーではイリノイ州ロックフォードDMOのコロナ対策事例が紹介された。ロックフォードは人口約35万人、米国では中規模のDMOだ。3月15日にロックダウン後、DMOとして業務を継続しながら約2週間の間にさまざまな対応策を実行した。まず、DMOが「信頼される情報提供源」となるため、常に最新の情報をホームページにアップデートし続けた。特筆すべきは、行政から発表された助成金などの申請方法を誰にでもわかりやすい言葉に直して掲載したことだ。また、地元の事業者を対象にFacebook グループを作成し、他社の取組事例を共有したり、Zoomを活用して毎週、双方向による相談窓口を設けた。SNSで展開したStay homeキャンペーンでは地域の商店を登場させて、おすすめの本や音楽を紹介したり、地元住民が投稿できる写真や歌のコンテストを開催するなどした。デジタルツールを上手く活用しながらコミュニケーションを図ることで、DMOが観光を起点にした地域連携の中核的な役割を果たしたのだ。

 

初動の早さはDMO自ら策定した観光危機管理計画があったから

なぜ、こんなに早く海外のDMOはコロナ禍で対応できたのか。丸山氏は事前に観光危機管理計画を策定しておいたことが大きいと指摘する。米国では自然災害だけではなく、9.11やリーマンショックなどから地域の観光産業が影響を受けた経験から、危機管理の必要性を認識している。危機管理計画策定は、Destination Internationalによる観光地域の認証制度であるDMAPの認定において必須なため、小さなDMOでも取り組んでいるところは多い。

ヨーロッパのDMOでも、同様の背景から危機管理計画を策定しているところが複数ある。計画を作って終わりではなく、実際に機能するか検証したり、訓練を重ねていた。ロンドンのDMOでは危機管理計画を策定するだけなく、実際に機能するか検証した上で修正も加えていた。アムステルダムのDMOでは毎年、DMOと事業者が危機管理計画に沿って訓練を行い、顔が見える関係性ができていた。それぞれ、感染症は当初の危機としての想定に含まれていなかったが、既存の危機管理計画があったことで応用が可能になりスピーディーに対応できたのだ。

 

稼ぐのは地域事業者、稼げるように地域環境を整えるのがDMO

欧米では、観光産業、観光地域がどの程度毀損しているのか数値で把握し、支援の必要性をアピールしている。例えば、US Travelのホームページでは、直近半年の米国内失業者のグラフを掲載している。これによれば、コロナによる失業者の約4割を観光業が占めており、重点的な対策が必要なことが一目瞭然である。アーカンソー州ベントンビルは人口5万人の小さな街であるが、DMOは統計をまたず地域内にある約250の観光関連事業者すべてに電話をして、事業動向を確認した。そして、事業者の倒産状況、雇用や資金繰りなど困っている声を吸い上げ、最新情報として地元議員に届けたのである。

 

これからのDMOはレスポンシブルツーリズム、持続可能性、インクルージョンなど新しい課題にも対応

新型コロナの見通しが不透明な中、安心・安全を確保しながら、旅行者と観光地の双方が良い関係性を保つにはどうしたらよいだろうか。レスポンシブルツーリズムの観点からは旅行者にも協力を求めていく必要があるだろう。例えば、コロラド州のDMOでは「旅行にくるなら、こうしてね」と訪れる旅行者に対して、守ってもらいたい感染予防策をわかりやすくビデオで伝え、旅行者にも共感を持って理解してもらえるよう工夫している。

オーバーツーリズムが問題になっていたアムステルダムやスペインの観光地では、旅行者が少なくなった今を再出発する良い機会として捉え、以前と同じオーバーツーリズムに戻らないように戦略を立て直しているという。観光客を受け入れたくないと地元住民から反対にあっている場合には、どういう条件なら受け入れられるかを話し合うことが必要だ。来る人も受け入れる側も双方が快適に、持続可能な観光を実現する動きが欧米DMOでも活発化している。

さらに欧米では人種、LGBT、性別などに関わらず、平等に活躍できるインクルージョンの考えが重視されている。米国DMOでは、職員全員が告知物の表現方法を配慮するための教育を行っているところもある。コロナ禍中にも「ブラック・ライブズ・マター」などの社会的な動きが高まっており、日本でもインバウンド旅行者を受け入れる地域全体で、HPや告知物の英語表記などを見直す対応が必要である。

 

観光へのダメージを最小限にする観光危機管理計画

これから観光危機管理計画を策定しようとしている観光事業者に向けて、丸山氏は特に危機コミュニケーション戦略を組み込んでおくことを勧める。費用対効果が高いからだ。その事例として、米国ラスベガスにおける2017年に銃乱射事件の事例を挙げた。DMOでは緊急時に一貫した窓口で正しい情報を伝え、旅行者だけではなく、被害者、住民など、ステークホルダーすべての共感を生むコミュニケーション対応が観光地復活の近道となる。

最後に丸山氏は、「withコロナ時代には、これまでの延長線上にない新しい計画策定が必要になってくる。その支援をぜひやっていきたい。新しい時代に対応できる強いDMOの組織作り、観光地域づくりを目指しましょう」とメッセージを送った。

 

【登壇者プロフィール】

株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント 丸山 芳子氏

UNWTO(国連世界観光機関)や海外のDMOの調査、国内での地域支援など、観光に関して豊富な実績を有する。海外DMOに関する専門家であり、特に米国のDMOの活動等に関して、我が国でトップトップレベルの情報を有し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークがある。DMO業界団体であるDestination Internationalが主催するDMO幹部向け資格CDME(Certified Destination Management Executive)の日本人で唯一の取得者。

 

【開催概要】
日時:2020年9月4日(金)16:30~17:30
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後開催予定のセミナー】

◆withコロナ時代の観光戦略 vol.10 ~海外富裕層の実態調査結果を解説。今後日本が富裕層を呼び込むには?~

2020年9月18日(金) 15:00~16:00

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