インバウンドコラム
毎週金曜日に開催しているオンラインセミナー「withコロナ時代の観光戦略」。今回は番外編として、やまとごころ代表の村山慶輔が国内外の事例を交えながら、観光・インバウンドに携わる人が回復に向けて今やるべきことは何かを話した。入国規制緩和やGo Toトラベル本格化など色々と動きが出始めている観光分野の傾向と対策、withコロナ時代の観光を救うキーワードなどわかりやすくお伝えする。
Go Toをきっかけとし、持続的なニーズに繋げる
Go Toトラベルには賛否両論あるものの、基本的に観光業にお金が流れ、人が動き始める意味ではプラスの側面が大きいと捉えている。その上で3つのポイントを挙げる。まず「瞬間風速で終わらせない」。今まで接点がなかった人が施設、観光地に足を運んでくると思われるので、しっかりと顧客を囲い込み、リピートを促すようなフォローの仕組みを作るきっかけとしてGo to トラベルを利用すると、より価値が高まる。次に「割り切ってプラスに捉える」。単価が高い施設の方が儲かる傾向にあるが、そこは割り切って、自分のところにどう人を呼び込むか、何ができるかを前向きに考えることが重要だ。3つ目は「地域と深く繋がる」。Go Toを通じて地元の名店・飲食店などとの接点を深めることが、結果として今後のマイクロツーリズムやインバウンドの発展に繋がる。
今後大切になってくるのはサステナブルツーリズム
インバウンド回復への動きは段階的緩和、正常化の2段階に分かれている。今の流れから、東京五輪は開催される方向にあるが、インバウンドは五輪終了後に正常化するのでは、という見通しがある。
7月の在留者の再入国から動き始め、9月からはビジネス客が、10月からは留学、家族滞在等の在留資格者に対しても緩和が進んでいる。2021年の春頃からはオリンピックを見据え、さらに緩和の動きが出てくるのではないかと考えている。
政府による2030年に訪日客6000万人の目標数値はおそらく変わらない。客数も大切だが、消費額、それから訪日客の満足度、地域・地元の満足度が非常に大事で、サステナブルツーリズムを軸にした取り組みが今後さらに大切になってくるだろう。2019年度水準に戻るまでには、2、3年かかると思われる。仮に3、4年で3200万人弱まで戻ると考えた時に、2021年、2022年にはどのくらいになるのか、具体的に試算しながら来年度以降の予算を検討したい。
インバウンドは必ず戻る
様々なアンケートで日本は人気のデスティネーション上位を獲得している。アジアにおいても欧米においても日本にインバウンドが戻る確率が高いとの予測が出ている。現在インバウンドは肩身が狭い状況だが、改めてインバウンドの価値について考えてみよう。
もともとインバウンドに舵を切ったのは、人口減少の中で、国内観光がジリ貧だったことによる。マイクロツーリズムも大切だが、人口減少によって市場規模が縮小していくことを考えると、それだけでは成り立たなくなってくる。ワーケーション、リモートワーク等で国内旅行の需要も増加していくと思われるものの、それで国内市場が2倍にできるかと考えるとそれは厳しいだろう。
それに比べ、インバウンドには伸びしろがある。UNWTOは、2030年18億人が世界を旅するという数字を出していた。コロナ禍での景気後退はあると思われるが、それでも長期で考えると戻ってくる可能性は十分に高い。また、インバウンドは自動車の12.1兆円に次ぐ4.5兆円の国内第2の輸出産業で、非常に大きな市場でありポテンシャルは高い。さらに海外需要が産業を支えているという点も見逃せない。日本の伝統工芸品の下支えとなっているのが海外の需要だ。
今こそインバウンドを推進すべき
今こそ取り組むべき理由のひとつは、多くの地域がインバウンド省力化の方針打ち出していることだ。インバウンド入札naviによると、2020年インバウンドの公示案件は、今年度前半の中止、見送りが目立つ。他の地域に先んじてブランディングや顧客の囲い込みをするためにも今が良いチャンスとなる。
戦略立案見直しから、商品造成・インフラ整備、ブランディング、そしてプロモーションの4つの流れの中で今やるべき事は最初の3つだ。現状をしっかりおさえ、ゴールを適切に配置し、そこに至るまでの道筋をどのように埋めていくのか。今を「量から質への転換」を含めた戦略の見直しにふさわしい期間と考えるのだ。来春ごろからインバウンドが戻ってくるとすれば、残りは半年。それまでにどれくらいやっていけるか、ここが勝負となる。今こそ情報発信やオンライン商談会を積極的にしていき需要喚起をしていきたい。需要喚起なしに刈り取りはできないからだ。
お伝えしたい4つのキーワード
まずバーチャルツーリズムでは、目的に応じてどこを狙うのかをよく考える事が大切になる。魅力的なコンテンツを作り、人件費等のコストを押さえつつ、ビジネスとして採算に乗せている企業もある。成功の定義をどこに置くか、オンラインならではの価値は何か、スピード感、話題性などをいち早く取り入れることがカギとなる。
2つ目のキーワードは「観光CRM」。顧客をしっかり管理し、囲い込む仕組みがあるからこそできる取り組みとしての観光CRMは、大手だけでなく、自社でも取り組めると良い。
3つ目として、分散は安定につながる。国、地域を分散する。近隣からだけでなく、遠方からも来てもらう。集客に関しても複数のラインを持つ。祝日や週末だけに集中するのではなく、平日にも分散させる。事業に関しても旅行だけではなく、物販、越境EC、不動産などをやってみる。接触を伴う事業だけでなく、非接触型の事業が何かできないか。新たな発想が必要だ。
4つ目、観光貢献度の可視化は観光振興のカギとなる。アメリカの事例では、地域における経済価値を単純な消費額だけではなく、雇用、税金面、観光客がもたらす税収により、地元住民の減税に繋がると示したものもある。土地の物や人材確保など域内での調達率も含め経済効果として算出し、動画などで市民あるいは議会に分かりやすく伝えている。今の日本ではまだあまり出来ていない部分だ。
原点にかえることも大切
最後に、「観光ニューノーマルで大切なことは、当たり前の事を愚直にやり切る」ことを伝えたい。量から質へ・富裕層・戦略立案・高付加価値など、前から話題になり重要だと言われていたこと、あと数年かかると思われていたものが少し早まり、まさに今求められる段階に来ている。原点にかえることが重要であると、話を結んだ。
【登壇者プロフィール】
株式会社やまとごころ 代表取締役 村山 慶輔
神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。経営コンサルティングファーム「アクセンチュア」を経て、2007年に日本初インバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げる。インバウンドの専門家として、2019年内閣府 観光戦略実行推進有識者会議メンバーを始め、各省庁の委員・プロデューサーを歴任。2020年3月には自身7冊目となる「インバウンド対応実践講座(翔泳社)」を上梓。
【開催概要】
日時:2020年10月16日(金)15:00~16:00
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ
【今後開催予定のセミナー】
◆サステナブルツーリズムの潮流と今後求められる対応/withコロナ時代の観光戦略 vol.15
2020年10月30日(金) 10:30~11:30
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