インバウンドコラム

旅行会社がサステナブル・ツーリズムに果たす役割とは? 事例に見る具体的な取り組み 

2025.10.10

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サステナブル・ツーリズムへの世界的な関心の高まりに伴い、観光地や宿泊施設等における持続可能な国際認証への注目も集まっている。東京都と東京観光財団(TCVB)は都内の地域や観光関連事業者を対象として、サステナブル・ツーリズムについての知識や国際基準を詳しく解説する講座を、全4回実施している。

第2回は「サステナブル・ツーリズムの実践と旅行事業者の役割」と題し、サステナブル・ツーリズムの基本的な考え方を踏まえた上で、旅行会社がどのように事業に取り入れ、観光を通じて社会・環境・経済に貢献するかをテーマに行われた。サステナブル・ツーリズムを実践する事業者として、Tricolage(トリコラージュ)株式会社で共同創業者兼取締役COOを務める吉田史子氏から自社や海外の取り組み事例について、日本航空株式会社、京王観光株式会社、株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルの3社からサステナブル・ツーリズムへの取り組み事例が共有された。本記事では、講演の概要を紹介する。

▲2回目となる今セミナーも多くの業界関係者が参加した

 

地域への利益還元と売上向上を両立させた海外事業者の事例

Tricolage株式会社は、2020年に設立されたインバウンド向けの旅行コンサルティング会社だ。主に訪日外国人旅行者を対象に、受注型オーダーメイド旅行の企画、手配を手掛ける。サステナブルな旅に重きを置いており、2022年には、第三者国際認証機関の一つコントロールユニオン社(Control Union、本社:オランダ)より、日本初となるGSTCツアーオペレーター認証を取得した。主に欧米からの顧客が多く、日本の平均滞在期間は2.5週間と長い。吉田氏はサステナブル・ツーリズムを実践する上で、「旅行商品と旅行者」「地域と事業者」「会社と個人」の3つの視点から考えることが重要と述べた。

それぞれのポイントは以下の通り。

1. 旅行商品と旅行者
旅行商品には経済、社会、環境といった3つの要素におけるサステナビリティを考慮に入れ、それらに対して旅行者が意識を向けられる仕組みが必要である。そこで海外の事例として、世界100カ国以上でグループツアーを催行するオーストラリアの旅行会社「Intrepid Travel(イントレピッドトラベル)」の取り組みが紹介された。

同社ではツアーの最大催行人数を一律16名に抑え、各ツアーの1日1人当たりのCO2排出量をホームページで公開している。全ツアーで地元のガイドを雇用しているほか、宿泊施設やアクティビティなど連携先の84%が地元事業者、27%が女性、マイノリティ、原住民グループなどが運営する事業者を選んでいる。例えばモロッコ行きのツアーでは同社が取引をする上位50のサプライヤーの9割が地元事業者で、旅行代金の約6割が現地に還元されている。さらに同社の顧客は25%がリピーターで、2024年度の売上は前年度比15%増と伸ばしており、「サステナブル・ツーリズムはコストがかかるイメージを払拭し、競争力の源泉になり得る」と訴えた。

また、吉田氏は自社の取り組みとして、地方分散を意識して旅程提案を行っており、顧客が訪れる地域の半分がゴールデンルート以外であることを紹介した。旅行者が、訪れる地域の自然や文化、社会に対して責任を持ち、配慮ある行動をとることを促す「レスポンシブルトラベラーガイド」を作成して参加者全員に配布するとともに、地域やコンテンツによって異なる個別の留意事項を行程表に記載し、事前に顧客への啓発を行っているなどの例を挙げた。

▲旅行者に配布するレスポンシブルトラベラーガイド

 

国際認証の取得は連携先を選ぶ時の指針であり重要な判断材料

2. 地域と事業者
次に、地域の連携先とどのように協力関係を築くかについて、吉田氏は自社での取り組みを踏まえて、重要と考える以下の3点を挙げた。

・その地を訪れ、地域のパートナーと共創
全国を対象とした旅行会社は、その地域で活動する人々以上の専門家にはなり得ないので、まず地域について学習することが必要。自ら地域に足を運び、体験をして地域の人の話を聞き、地域でエキスパートとして活動するパートナーと共創することが重要。

・自社の方針を打ち出す
サステナブル・ツーリズムを推進していることや自社の方針、想いをホームページ等に掲載し、国際認証を取ることで、共感するパートナーから見つけてもらいやすくなった。サステナビリティに関するイベントや集まりは、観光に留まらず、同じ価値観を共有できる異業種の仲間に会え、新たな情報の入手やつながりが生まれるので、積極的な参加を心がけている。

・認証を取得している事業者を優先
旅行会社として、送客先となるホテルや施設を選定する際には、認証を取得しているかどうかが選ぶ際の判断材料になることは間違いない。各地域や事業者の方針や取り組みを全て把握することはほぼ不可能であるため、認証取得が一つの指針になり得る。「持続可能な観光にかかる旅行商品の造成に向けたラベルインデックス」の最新版が観光庁のホームページに掲載されており、様々な認証を取得した企業がリストアップされているので参考になる。

参考)認証を取得している事業者がひとめでわかるラベルインデックス(観光庁発行)

 

サステナブル・ツーリズムを支えるのは「自分ごと」とするミクロな視点

3.会社と個人

吉田氏がサステナブル・ツーリズムに取り組む個人的な動機は「文化衰退の危機感」等からくるものだった。その実体験も踏まえ、サステナブル・ツーリズムに向けて取り組むには、個人ごとのミクロなモチベーションが非常に重要だと指摘する。「会社で色々な施策を打ち出しても、最終的に動くのは個人。一人一人が自分ごととして捉えることが結果に大きな違いをもたらす」として、社員が自分の関心に基づいた課題を見つけられるよう、地域や事業者とつながり、現場で直接見聞きする機会を積極的に作っていると述べた。

最後に「サステナブル・ツーリズムという言葉がなくなり、業界の標準になるのが理想。全ての旅がサステナブルな形で作られるようになれば、輸出産業第1位になる可能性のある産業として、観光はよりポジティブなインパクトを与えられるのでは」と締めくくった。

 

観光産業に及ぼす影響力と責任を意識した3社の取り組み

続いて、航空会社1社と旅行会社2社による具体的な取り組み事例が紹介された。訪問先、滞在時間、体験内容、移動手段、宿泊施設などを決定する立場にある旅行会社は、観光産業において大きな影響力を持つ存在である。それゆえ、オーバーツーリズム、環境破壊、文化資源の損失、地元経済への還元不足といった観光による負荷に対し、責任ある行動が求められる。

▲旅行会社の影響力とそれによる観光負荷

観光から”学び”へ、JALが離島で育むサステナブル・ツーリズム

日本航空は旅客が激減したコロナ禍に移動の価値を改めて見直し、2024年に「移動を通じた関係・つながりの創造」をESG戦略として新たに掲げた。

その一環として、与論島や沖永良部島などで、観光ではなく「学び」を目的とした座学と現地体験を組み合わせた、地域体験プログラム「旅アカデミー」を開催している。その中で提供されているビーチクリーンやプラスチックのアップサイクルなどの体験が、再来島にもつながっている。日本離島クラス「これからの生き方を島から学ぶ ~島の未来への挑戦~」(※」の場所を要確認)という商品は、ツアーグランプリ2025の審査員特別賞およびJATA SDGsアワード環境部門奨励賞を受賞した。

関係・つながり創造部部長の関谷岳久氏は、「我々は旅行は消費ではなく体験投資と考えている。この視点から、地域文化を担い、環境を守り、経済を支える存在を目指している」と述べた。

▲日本航空が提供する地域体験プログラム旅アカデミーの様子

次世代に持続可能な視点を、京王観光の高校生向け海外研修旅行

京王グループの旅行会社である京王観光は、グループ全体が掲げるサステナビリティ基本方針「地域やパートナーと共に多世代が交流・躍動するまちづくり」に基づき、その理念を体現するツアーの造成に取り組んでいる。その一例として、同社が企画した環境をテーマとした高校生向けの海外研修旅行を紹介した。

この研修旅行では、世界各国、地域におけるサステナブルな取り組みを、参加する生徒たちが現地で直接見て、学び、体感できる内容となっている。各地で行われている環境保全活動や持続可能な社会づくりの実例に触れることで、学びの深さと現実性を兼ね備えたプログラムだ。

旅行事業部の特命担当マネージャーである長谷圭悟氏は、「生徒たち自身が旅行の行き先を選び、旅程の作成にも積極的に参加した。こうしたプロセスを通じて、旅行前から環境やサステナビリティに対する意識を持つようになった。帰国後には、環境問題への関心がより高まったという感想も多く寄せられている」と述べた。

▲主催するドバイの教育旅行

国際認証を通じて体制を強化、JTB GMTが築く持続可能な旅行事業モデル

インバウンド専門旅行会社のJTBグローバルマーケティング&トラベルは同社の「サンライズツアー」の商品を環境、文化、社会への貢献の3カテゴリーに分け、それぞれどのような点で貢献しているかをホームページ上で可視化している。また、ツアーバス車内では乗客に向けて、旅行先の自然、文化、住民の暮らしに配慮し、地域に与える影響に責任を持つ旅行者である「レスポンシブルトラベラー」としての啓発動画を上映している。

同社は2022年に旅行業界の国際的なサスティナビリティ認証制度であるトラベライフ(Travelife)の最上位の認証であるTravelife Certifiedを取得し、2024年に更新した。2025年3月にはビューローベリタス社(Bureau Veritas、本社:フランス)の審査により、GSTCツアーオペレーター認証も取得している。

ブランド推進チームマネージャーの重藤道子氏は、「グローバルにビジネス展開する中でサステナビリティ対応は早い段階から求められており、トラベライフ認証取得のきっかけは海外の取引先からの強い勧めだった」と述べ、国際認証取得は同社のサステナビリティの推進体制を強固にしたという。

認証取得について、「自社の現在地がわかり、何をすべきかが明確になる。不足要素は審査の時に指摘を受けるが、できていることは認めてもらえるので、モチベーションが上がり日頃の意識が変わった」といった社員からの声が寄せられているという。

▲JTBグローバルマーケティング&トラベルのサスティナビリティページ

 

 


<関連リンク>
■東京都・TCVBによる「持続可能な観光」の推進に関する事業について
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■TCVBサステナブル・ツーリズム・パートナーシップについて
・取組概要はこちら

 

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