インバウンドコラム
今年NATAS TRAVEL FAIRから分裂して生まれた新しいシンガポールの旅行博Travel Revolutionの第2回目が、去る7月24日〜27日、カジノや大型ショッピングモールに併設されたマリーナベイサンズ・エクスポ&コンベンションセンターを会場に開催された。弊社はジャパンパビリオン内に出展。今回はそのレポートと、シンガポールの訪日旅行市場の傾向について最新情報をお届けしたい。
目次:
シンガポールの旅行博事情 NATASとの確執はいつまで続くのか?
Travel Revolutionに見る世界を旅慣れたシンガポール人の訪日旅の傾向
ライバルは日本?シンガポール中心部の経済力が低下
シンガポールの旅行博事情 NATASとの確執はいつまで続くのか?
シンガポールで“旅行博”といえば、長年の間、毎年2回開催される「NATAS Holiday」のことだった。海外プロモーションに関わりを持ち、シンガポール市場をターゲットにしてきた事業者や地方自治体であれば、誰もが知っている旅行博である。
しかし、今年3月に、NATASに対抗する旅行博として「Travel Revolution」が立ち上げられた。その背景には、シンガポールのビッグ4と呼ばれる大手旅行会社4社の、NATASの入場料を無料にするようたびたび要請していたにもかかわらず、なかなか無料化をしないNATAS事務局への反発があった。ビッグ4はNATASを去り、自分たちで旅行博を開催する道を選んだのだ。
実をいうと多くの関係者は、Travel Revolution の誕生をきっかけにNATASが入場料を無料化したことで、両者がいずれ和解をすると踏んでいた。
しかし7月に今年2回目となるTravel Revolutionが開催。ちなみにその1週間後には、同じく今年2回目となるNATAS TRAVEL FAIRが開かれた。ほぼ同時期に、大規模旅行博が続けて行われたのである。
Travel Revolution事務局は、NATAS出展者は出展不可という厳しい規定を設け、NATASとの確執を露わにしている。NATAS事務局は、前回から、Travel Revolutionとの差別化を図るため、飲食コーナーを設けることで来場動機を高め、かつ入場者を飽きさせないようにと工夫したが、これが好評だったため、今回も継続して飲食コーナーを設ける戦略をとっている。
情報メディア系企業である弊社は両方に出展を許可されており、前回と同じく、NATASの日本食コーナーの運営を請け負う代わりに、弊社ブースは出展料無料という特典を受けているが、続けて2回も旅行博に出展するのは、マンパワー的にもきついものがあり、個人的には、出来るだけ早く和解して1つに戻ってほしいと願っている。
Travel Revolution vs NATAS、この戦いはいつまで続くのだろう?また、旅行博として勝者となるのはどちらなのか?
Travel Revolutionは、シンガポールの中心部に位置し、いま最も熱いスポットであるマリーナベイサンズのコンベンションセンターで行われる。一方、NATASは郊外のEXPO会場での開催。アクセスの良さなどを考えると集客という面ではTravel Revolutionが有利であるが、時間をかけてじっくり情報収集をして旅行商品を購入するという点ではNATASが魅力的であろう。しかも、長年の間に培われた“旅行博=NATAS”というブランド力は揺るぎないものがある。
だが、最近のシンガポール人の旅行商品購入の傾向として、旅行博などはあくまで情報収集の場であり、実際の購入はインターネットからという人が増えているため、私としては、実力は五分五分ではないかとみている。
Travel Revolutionに見る世界を旅慣れたシンガポール人の訪日旅の傾向
シンガポールには、スクールホリデーという、いわゆる日本の学校の春休みや夏休みに相当する長期休暇があり、6月が丸々1カ月休みになるため、この時期はファミリー層の大型旅行シーズンだ。というわけで、学校に通う子どもを持つ多くのファミリーが6月に大型連休を取得し、海外旅行を楽しんできたばかりの7月に、Travel Revolutionを開催してもあまり関心を持ってもらえないのでは?という懸念が当初あった。しかし、蓋を開けてみると、来場者数は3日間で8万人を超え、前回の5万人強を大きく上回った。
シンガポール人にとって、バカンス=海外旅行といっても過言ではないほど、海外旅行は最も一般的な休暇の過ごし方である。なかでも、円安の影響もあって、日本はもっとも注目が集まっている旅行先だ。そして、Travel Revolution会場で話を聞いてみると、日本以外の国も色々訪れた経験を持ち旅慣れたシンガポール人には、誰もが知っているメジャーな観光地よりも、よりディープなものを求める人が多い。
その一方で、自分たちが車で1時間も走れば端から端まで行ける小国のせいか、世界地図で日本を見ても、日本列島の距離感が理解できていないことが多いようだ。九州から北海道まであちこちに立ち寄りながらの旅が、2週間もあれば充分すぎると思っていることも少なくない。
中には、東京と北海道は新幹線で日帰りできると考えている人もいるくらいだ。
こうしたTravel Revolution等で得た知見をもとに、シンガポール市場に対して日本を紹介する際に、今後大切なのは、基点となる都市からの距離と所要時間が明確に分かる目的別のモデルコースの提案や、そこに行かなければ“食べられないもの”や“手に入らないもの”など、地域の個性と特長をより具体的に提示することではないかと考えている。
また、旅行会社がこうしたことを個別に提案したり、紹介するのは限界があるだろう。シンガポール市場に向けて、日本に“わざわざ行きたい”と思ってもらえるストーリーを発信すること、それが、シンガポール人の目線をわかっている、メディアとしての弊社のミッションかもしれないと感じている。
ライバルは日本? シンガポール中心部の経済力が低下
余談になるが、円安による訪日外国人観光客が増加し、日本国内はうれしい悲鳴を上げている一方で、シンガポール経済が打撃を受けている。どういうことかというと、関税ゼロのシンガポールには、ここ数年、“爆買”中国人や近隣諸国の富裕層が大量に押し寄せて、ブランド品などを買いあさっていたが、シンガポールドル高などもあり、今年はシンガポールを訪れる外国人観光客が急減。
オーチャードロードなど、中心部の悪くない立地にありながら、客が減ったことで閉店に追い込まれた店が並ぶシャッターモールも出てきている。
日本の訪日外国人の数は、ここ1年で大幅に増え、経済に大きく影響しているが、外国人観光客たちの一部(特に中国人)は、シンガポールから円安の日本へと訪れる先を変えていると予想される。
今は“爆買い”中国人観光客に沸く日本の小売業界も、明日は我が身とまではいわないが、シンガポールの現状を注意深く検討し、将来へのシュミレーションをすべきではないか?
好調に伸びている訪日外国人数には、円安が大きく影響しているのは言うまでもない。だからこそ、インバウンドの長期戦略としては、目先の“爆買客”に頼り過ぎたり、為替に左右されない対策を、いまのうちから考えておくことが大切ではないだろうか。
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