インバウンドコラム
新型コロナウィルス感染症のワクチン接種が各国で徐々に始まった。今後、ワクチンの普及が順調に進めば、旅行業界にとっても回復への大きな足掛かりとなるとみて、トリップアドバイザーでは世界の旅行者動向を先取りすべく調査を実施し、2021年に注目すべき5つの旅行トレンドを発表した。
調査は2020年12月28日~2021年1月10日に、日本をはじめ米国、英国、オーストラリア、イタリア、シンガポールの6カ国、各2330人を対象に行なわれた消費者心理調査と、2021年1月の第1週目にトリップアドバイザーのサイト上で収集された検索データを基に分析したもの。ここではその結果から見えた5つのトレンドを紹介する。
(グラフ・図はTripadvisor The year of the Travel Rebound? 5 Traveler Trends To Watch Out For In 2021より引用)
1.旅行予約の動き加速、旅行者は2021年後半に海外旅行を計画。地域差も明確に
今回の調査では旅行者のほぼ半数に当たる47%が、2021年に海外旅行を計画していると回答。今年は海外旅行をしないと回答したのは30%だった。
海外旅行を計画するだけでなく、実際に予約する段階まで進んでいることも明らかになった。海外旅行を予定していると答えた回答者の11%が、2021年の海外旅行を既に予約済みで、米国に限ってみるとさらに多く13%にのぼった。
海外旅行の時期について、宿泊日ごとのホテル閲覧数を国内と海外のどちらが多いか分析したところ、1~4月は海外のホテルが少なかったが、5月以降は半数以上が海外となり、年の後半に向けてどんどん増加している。これは、旅行者の将来的な利用を表わすもので、少なくとも2021年の後半には海外旅行ができるようになると旅行者が確信を持って行動を起こし始めていることがわかった。夏休み以降、業界全体で大幅な回復が見込まれる。
海外旅行への動きが特に活発なのがドイツとイギリスだ。ユーザーの国別に国内と海外のどちらのホテルを検索しているか、1月第1週の状況を見てみると、ドイツとイギリスのユーザーの85%が海外のホテルを検索していた。米国やイタリアでも約半数が海外のホテルをみているが、オーストラリアでは14%、日本は10%と低かった。オーストラリアや日本では国内ホテルへの検索が大部分を占めており、海外へ目を向けているのは1割程度とみられる。
2.ワクチンの普及が旅行者の安心感に大きく影響
各国で新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が徐々に開始されているが、もしワクチンを接種できれば、海外旅行に出かけたいと回答した旅行者は77%、国内旅行に出かけたいと回答したのは86%にのぼった。ワクチンの普及は、旅行者の安心感につながるだけでなく、旅行先選びにも大きな影響を及ぼしそうだ。渡航前の旅行者に対してワクチン接種を求める国・地域にのみ旅行すると回答したのが26%に達した。特にオーストラリアでは32%、米国では30%にのぼり、しっかりした安全対策を講じているかが旅行先選びの重要な要素になってくる。
3.国内旅行が引き続き人気
2021年は海外旅行の人気が高まると予想されているが、引き続き国内旅行も人気だ。1月の第1週におけるトリップアドバイザーの検索データを分析してみると、ユーザーの70%近くが将来の国内旅行を予約していた。時期としては5~8月が人気が高かった。
2021年に少なくとも1泊の国内旅行を計画していると回答した旅行者は全体の74%にのぼり、イタリア人では88%と調査対象の6市場の中で最も高かった。国内旅行の回数については、回答者の45%が2021年に少なくとも2回の国内旅行を計画していると回答した。2020年に国内休暇を2回とったと答えた人が40%だった昨年の結果と比較すると、今年はさらに5%増加したことになる。加えて、今年少なくとも3回の国内旅行を計画している回答した人が34%もいた。海外旅行とは違い、国内休暇を計画している回答者の72%がまだ実際の予約をしていないこともわかった。今からでも観光事業者側から積極的に動けば、需要の取り込みにまだ間に合いそうだ。
4.旅行の計画を立てることに熱心
2020年は自由な海外旅行ができなかった分、パンデミック収束後の次の旅行は特別なものにしたいと、多くの旅行者がこれまで以上に綿密な旅行計画を立てている実態も明らかになった。今年の旅行で何により多くの時間を費やすか聞いたところ、旅行者の74%が目的地の選択、72%が宿泊施設の選択、70%はやるべきこと、66%はレビューを読むことにより多くの時間を費やすと回答した。特にシンガポールでは、目的地の選択と回答した人が80%にのぼり、パンデミック後の初めての海外旅行でどこへ行くかが最大の関心事になっている。
5.外食もしたいが、テイクアウト人気も継続
2020年の外食産業ではテイクアウトや配達サービスがブームとなったが、感染状況が落ち着き、規制が許可されれば2021年はレストランで直接食事をしたいと答えた人が全体の47%にのぼった。その一方で、今年もテイクアウトを増やしたいと答えた人が27%いた。実際にトリップアドバイザーの検索データをみてみると、今年1月第1週におけるレストランテイクアウトサービスの検索数は、パンデミック前の前年同期とほぼ一致しており、テイクアウト人気が続いていることを示している。
テイクアウトで地元のお店を支えようとする動きはレストランだけにとどまらない。コロナ禍における地元企業への支援について聞いたところ、調査対象6カ国において72%が地元のレストランを応援したい、68%が地元で買い物したいと答え、飲食・小売ともにコロナ禍において地元重視の傾向が明らかとなった。
今回の調査から、旅行者は2021年の後半に向け綿密な旅行計画を立てており、既に海外旅行の予約も始まっている実態が見えてきた。ただ、海外へ早く出かけたいという気持ちはドイツやイギリスでは8割と高いものの、日本やオーストラリアでは1割程度と低く、国別にまだ温度差があることもわかった。2020年にトレンドとなった国内旅行やテイクアウトのニーズは2021年も継続しており、インバウンドが再開したとしても、ホテルやレストランなどの事業者にとっては国内客、地元客を意識した施策は引き続き必要になってくる。
ワクチンの普及は旅行者本人の安全だけでなく、目的地選択に大きく影響することも明らかとなった。その地域でどのような安全と衛生対策が取られているかが、パンデミック後の初の海外旅行先として選ばれるためには重要な鍵となりそうだ。消費者行動の変化にアンテナを貼りつつ、観光地・観光事業者は今できることから安心・安全につながる対策を備えたい。
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