インバウンドコラム

アドベンチャートラベルとは? 定義や市場、地域で実践するためのポイントなど解説

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新しい旅行の形として注目を集めているアドベンチャートラベル(AT)。インバウンドの中でも大きな市場規模を持ち、なおかつ地方創生にも効果があるといわれていることから、近年では多くの自治体がその推進に向けて動き出しています。

本記事では、アドベンチャートラベルの特徴や魅力、そして導入のポイントについて詳しく解説します。

 

アドベンチャートラベルとは何か? 定義と特徴を解説

アドベンチャートラベルは、「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅行形態と定義されています。

自然の中でアクティビティや異文化体験を楽しみ、そのエリアの自然や文化を知ることによって、新たな気づきや学びを得ることに重きを置いた旅行スタイルです。アドベンチャーツーリズムと呼ばれることもありますが、意味や目的は同じで、どちらも略してATと表記されることもあります。

自然をテーマにした旅行スタイルである「エコツーリズム」「グリーンツーリズム」も有名ですが、アドベンチャートラベルには「アクティビティ」「異文化体験」が組み込まれており、単なる「見る」観光に留まらず、実際に体験することで深い学びと自己変革を促す点が大きな特徴です。

 

世界と日本の市場動向、ATが注目される理由とは?

現在、アドベンチャートラベルの市場規模は欧米を中心に約62兆円の巨大なマーケットを形成しており、非常に大きな経済的影響力を持つ取り組みとして世界中で注目されています。

日本の観光市場においても大きな可能性を秘めているのは間違いなく、観光庁が実施した欧米9カ国のアドベンチャートラベル旅行者へのアンケート調査でも、フランス・イギリス・カナダ・オーストラリアなど7カ国の旅行者が「行きたい国」として日本をトップに選んでいます。

 

旅行者がアドベンチャートラベルに求める5つの価値とは?

なお、世界最大のアドベンチャートラベル団体 ATTA(Adventure Travel Trade Association)は、ATの体験価値として以下の5つを掲げています。

1. ユニークな体験要素

その土地でしかできない唯一無二の体験を提供。自然・文化・アクティビティを掛け合わせることで、旅行者に強い印象と学びを残します。

2. 挑戦要素

旅行者の「心」や「体」への挑戦を促す体験が中心。一例として、初めての文化・食・言語への挑戦や、トレッキング・カヤックなどのアクティビティが該当します。

3. 自己変革要素

旅を通して得られる気づきや学びによって、自分自身の変化・成長を感じられる仕掛けが重要。ガイドの丁寧な案内や、考える余白のあるプログラムが求められます。

4. 健康要素

自然の中で体を動かす、デジタルから離れて心を整えるといった、心身両面のウェルビーイングへの貢献も大きな価値の一つ。

5. ローインパクト要素

環境や地域文化への負荷を最小限に抑えながら体験を提供することが前提。ガイドがマナーを促すなど、サステナブルな運営が重視されます。

 

ハード&ソフトで異なるAT体験と旅行者の傾向

アドベンチャートラベルには、大きく分けて「ハードアドベンチャー」と「ソフトアドベンチャー」の2種類があります。前者はロッククライミングやスカイダイビングなど、高度な技術を要するアクティビティで、一定のリスクを伴います。一方、ソフトアドベンチャーはカヤックやハイキング、乗馬など、初心者でも比較的気軽に挑戦できる体験が中心です。

このようなアクティビティを求める背景には、体験重視の旅行スタイルの広がりが挙げられます。SNSの普及により、スマホ1つで世界各地の情報や絶景にアクセスできるようになった今、旅に「物語性」や「個人的な挑戦」など身体的な体験を求める層が増えているからです。

また、コロナ禍を経て都市部を避け、自然の中で心身をリセットしたいというニーズが顕在化していることも要因の一つです。

 

地域事業者がATに取り組む4つのメリット

アドベンチャートラベル(AT)に取り組むことは、旅行者に新たな価値を提供するだけでなく、観光事業者や地域社会にも大きなメリットをもたらします。

ここでは、取り組むメリットを大きく4つ紹介します。

1. 新たな旅行者層の獲得

ATを好む旅行者は、自然や文化とのふれあい、挑戦的な体験を求める傾向が強いため、こうしたニーズに応える商品を提供することで、欧米豪の富裕層やリピーター層など、これまで取り込めていなかった層を呼び込むことができます。

2. 高単価・長期滞在による経済効果

AT旅行者は平均2~3週間の滞在が一般的で、時間的・経済的に余裕のある層が多く、魅力を感じた商品には積極的に消費する傾向があります。そのため、宿泊費や体験、食事などへの支出も大きく、地域にもたらす経済効果も期待できます。

3. 地域資源の有効活用

森や山、川、伝統文化など、これまで活かしきれていなかった地域資源が、そのまま観光コンテンツとなるのがATの特徴。大規模な整備を必要とせず、地域固有の魅力を体験として提供できる点が強みです。

4. オーバーツーリズムの緩和
都市部や特定観光地への集中を避け、地方部への旅行需要を分散できるため、ATは観光の偏在による弊害を抑える手段となります。地域社会との共生や観光の持続可能性の観点でも有効。

 

【海外編】文化と自然を活かしたATの成功事例

市場が成熟している欧米豪では、数多くのアドベンチャートラベルの取り組みがあります。ここではその中から伝統的な文化体験と自然が融合した2つを紹介します。

ニュージーランド:マオリツーリズム

ニュージーランドで人気のマオリツーリズムは、先住民コミュニティが主導するストーリーテリングとガイディングで魅力的なAT体験を創出する代表的な事例です。伝統的な「ポフィリ(歓迎の儀式)」や「ハカ(ウォークライ)」体験、そしてマオリの歴史や伝説を学びながらのハイキングなどの取り組みは、マオリ文化の深遠な理解を促進すると同時に、文化継承と地域経済の双方に大きく貢献をしています。

ペルー:インカトレイル

ペルーのインカトレイルは、古代インカ帝国の足跡をたどる世界的に有名なトレッキングルート。壮大なアンデス山脈の景観を楽しみながら、マチュピチュへと続く道のりで、歴史的遺跡や多様な生態系に触れることができます。挑戦的ながらも深い感動を味わえるとして有名な旅です。

こうした海外の事例が示すように、アドベンチャーツーリズムは単なるアクティビティを超え、地域固有の文化や自然との深い交流を求める旅へと進化しています。豊かな自然と多様な文化を持つ日本でも近年、インバウンド市場におけるATへの関心が高まる中、各地でもその魅力が再発見され、世界に誇れる独自の体験が生まれつつあります。

 

【国内編】地域資源を活かしたATの実践事例

日本国内でもすでに取り組みを成功させている事業者が出てきています。ここでは、その中から3つの取り組みを紹介します。

北海道 阿寒湖:アイヌ文化との共生体験

広大な自然と先住民族アイヌの豊かな文化遺産を持つ北海道では、2016年からアドベンチャートラベル・ワールドサミットの誘致に取り組み、2021年のオンライン開催を経て、2023年に現地開催、64か国・地域から約800名の業界関係者が参加しました。開催に向けては、各地でアドベンチャートラベルの商品開発が進み、北海道のAT振興体制強化につながりました。

例えば、阿寒湖では、阿寒アドベンチャーツーリズム協議会と鶴雅リゾートが連携し、豊かな自然とアイヌ文化を融合した高付加価値な体験を提供しています。アイヌの精神文化と共生する物語を軸に、登山や伝統舞踊、地元食材を活かした料理などを提供。コロナ禍を経て国内旅行者にも質の高いガイドとストーリーテリングを展開し、高い満足度を獲得しています。

熊本県阿蘇地域:「千年続く草原」の守り人体験

熊本県阿蘇地域では、1000年続く広大な草原を核としたサステナブルツーリズムを展開しています。この草原は放牧や野焼きで維持されてきた「二次的自然」ですが、担い手不足で維持が危機に瀕していました。そこで、阿蘇カルデラツーリズム推進協議会などが中心となり、「人と自然の共存」をテーマに、観光客が草原保全の「守り人」となる体験を提供しています。認定「牧野ガイド」が、通常立ち入りが制限される草原の歴史や生態系、保全活動を解説します。

草原保護と観光利用の好循環を目指す再生型旅行は、国内外で高く評価され、「グリーン・デスティネーションズ Top 100」に連続選出されるなど、持続可能なアドベンチャーツーリズムの成功事例として注目されています。

・沖縄県:ビーチリゾートからの進化

長年「ビーチリゾート」としてのブランドイメージを確立してきた沖縄ですが、近年、その観光のあり方を大きく転換させようとしています。2024年11月にJNTOが主催した「Adventure Week Okinawa」では、「Discover Okinawa」をテーマに、自然・平和を尊重し、お互いを助け合う沖縄の精神に触れる旅を、海外からの参加者に提供しました。

また、地域DMCである「沖縄アドベンチャーズ」は、世界自然遺産の森の奥深くへカヤックで分け入る「やんばる、奇跡が生きる森へ」、参加者自らが伝統的な木造船を操り、地元の漁師と共に、世界有数のサンゴ礁が広がる海へと漕ぎ出す「サンゴの海、うみんちゅの祈り」、さらに健康で豊かな生活を送る長寿の人々が暮らす「ブルーゾーン」などをツアー化。いずれも、旅行者が物語の中を旅をするようなストーリーを仕立てることにこだわり、沖縄のデスティネーションとしての可能性を広げています。

 

アドベンチャートラベルが切り拓く地域の未来

自然の中でアクティビティや異文化体験を楽しみ、その過程で自分自身の変化や視野の拡大、学びを得られるのがアドベンチャートラベルです。地方創生やオーバーツーリズムの改善など、様々な効果に期待されていることから、近年では日本各地で注目を集めています。複数の要素を盛り込んだり、様々な工夫を凝らしたりする必要はありますが、得られるメリットを考えると取り組む価値は十分にあるといえます。

手つかずの自然や、活かしきれていない文化が存在しているのであれば、ぜひアドベンチャートラベルの創出に挑戦してみてはいかがでしょうか。

 

やまとごころ編集部

2007年、日本初のインバウンド専門メディアを立ち上げる。以来、インバウンド業界の最前線で取材・執筆活動を展開。数千本にも及ぶ記事の執筆と通算13冊の書籍の企画・編集を手がけ、日本のインバウンド観光の発展に貢献。「インバウンドの、いまと、これからを読み解く」をモットーに、独自の視点から、業界の最新動向と将来展望を鋭く分析し、日々価値ある情報を発信。
 

『アドベンチャートラベル大全』(やまとごころBOOKS)

世界中で注目され、高付加価値化、地域貢献、サステナビリティに大きな恩恵をもたらすアドベンチャートラベルを徹底解説!
著者:水口猛, 実重貴之, 田中大輔

 

 
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