インバウンドコラム
中国の建国記念日である国慶節は、春節(旧正月)に並ぶ大型連休です。2023年は9月29日〜10月6日の8日間が連休となります。ここ数年はコロナ禍で旅行を自粛したり、出かけるにしても国内旅行が中心となっていましたが、海外旅行が本格的に解禁になった2023年はどうなるでしょうか。
国慶節について改めて解説するとともに、福島県での処理水の海洋放出による影響など最近の動向も踏まえながら、2023年の旅行傾向をご紹介します。
秋の大型連休、国慶節とは?
国慶節とは、中国の建国記念日のことです。1949年10月1日に天安門広場で中国の建国式典が行われ、毛沢東によって中華人民共和国の成立が宣言されて以来、この日が国慶節と定められました。中国では「十一(シィーイー)」と呼ばれ、毎年10月1日を含む1週間が大型連休となります。以前は家族揃ってゆっくり過ごすものでしたが、近年はこの連休を使って、中国人が国内外を「大移動」する旅行シーズンとして定着しました。コロナ禍の前は、日本でも毎年多くの中国人観光客を迎えていました。
なお、2023年の国慶節は9月29日の中秋節(旧暦の8月15日)と重なり、例年より連休が長くなって、9月29日~10月6日の8連休となります。
2022年は4億人が国内旅行、近場でキャンプが人気
中国文化観光省によると、2022年の国慶節では延べ4億2200万人が国内旅行に出かけました。1週間で4億人が旅行すると聞くと、とても多く感じますが、コロナ前の2019年の国慶節では7億8200万人だったことと比べると、約6割にとどまっています。2022年は中国政府によるゼロコロナ政策がまだ続いており、陽性者が出た一部の地域ではロックダウンが敷かれたため、2021年比でも18%減と前年割れの結果となりました。コロナ禍では自由な海外旅行ができず、近場の国内旅行やアウトドア、キャンプなどが人気となりました。
2023年の旅行傾向は?避暑地旅行や親子旅行に注目
中国では、8月10日に政府が旅行会社に対し、日本を含む78カ国を対象とした団体旅行やパッケージツアーの販売を解禁をしたことで、3年半ぶりの海外旅行への意欲が高まっています。この秋の国慶節はどこが人気の観光地となるのでしょうか。2023年夏の旅行需要を基に考察していきます。
中国旅遊研究院によると、6~8月の国内観光者数は18億5400万人となり、国内観光収入は1兆2000億元にのぼりました。一方、中国本土から海外旅行に出かけた人は2023年1~6月の上半期で4037万人でした。
中国の大手旅行予約サイト、携程集団(トリップドットコムグループ)が発表した夏の国内線航空券予約状況では、ビーチや草原、高原などの避暑地が人気だったといいます。7月の航空券予約は5月に比べ23%増となり、うちビーチの伸びは34%で最も高くなりました。7月26日時点のホテル宿泊料は山東省青島が5月比26%、遼寧省大連が26%、黒竜江省ハルビンが17%それぞれ上昇しました。
中国の旅行サイト大手Qunar.comによると、夏期(7月1日~8月31日)の国内線航空券予約では、18歳以下と34~43歳の年齢層の割合が最も多く、合わせて5割を超えました。そのうち、子どもが10%を占め、子連れ旅行の傾向が出ているようです。コロナ禍を経験し、混雑している観光地よりは、自然豊かな場所で家族とゆっくり長期滞在するような旅を志向する人が増えています。
また、2023年夏までは海外への団体旅行をはじめ、自由な海外渡航に対する制限があったため、海外旅行の行き先はマカオと香港が圧倒的なシェアを占めましたが、それを除く実質的な海外渡航先としてはタイが3.3%、次いで日本が2.4%でした。
なお、中国の航空券アプリ航旅縦横の9月上旬の航空券の予約状況によると、国慶節連休中の人気の海外渡航先は、ソウル、香港、東京、大阪、バンコク、シンガポール、マカオ、台北、ロンドン、シドニーの順となっています。
海外旅行解禁で日本人気が高まる一方、処理水海洋放出による影響も
中国政府の海外旅行解禁を機に日本旅行を予約する人が一気に増え、10月の国慶節が大きなビジネスチャンスになると期待が高まっていました。
8月21日に会見した観光庁の髙橋一郎長官も、国慶節がある10月以降に中国からのインバウンド客が本格化するとの見通しを示し、「長引いたコロナ禍で、中国の旅行会社の旅行商品造成に関する情報が不足しており、日本側のランドオペレーターとのつながりが切れている」と指摘。対策として、日本政府観光局(JNTO)が北京や上海、広州などで旅行会社向けのセミナーを開催し、情報提供や事業者の紹介を推進するとしました。
そんななか、8月24日に福島県で処理水の海洋放出が始まると、中国メディア「時代週報」は、日本への旅行をためらう旅行者が出てきたと報じました。北京にある旅行会社の担当者は「日本ツアーの約半数がキャンセルになった」と語っています。
9月7日に開催されたJNTOインバウンド振興フォーラムでは、中国市場担当者から「一部団体旅行のキャンセルは出たものの、多くの旅行者は様子見の状況で、個人旅行の需要は引き続き堅調」との話がありました。旅行需要が全滅する可能性は低いですが、状況を見守る必要はありそうです。
日本については、地理的な近さや日本の食、街の清潔度など旅行先として好材料が揃っているので、人気は根強いとの見方も強いです。コロナ禍を経て、3年ぶりに海外への団体旅行が解禁となった今年の国慶節休暇で、日本に来る中国人旅行者は増えるのか、今後注目です。
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