インバウンドコラム
英国を拠点とする国際的な市場調査会社のユーロモニターインターナショナルが2025年版の「世界の消費者トレンド」を発表した。世界16拠点に所属する同社のアナリストチームが、市場調査によって得られる幅広い知見をもとに、世界情勢の変化や技術面の発展などから来る消費者の生活スタイルの変化・動向を分析し、翌年のトレンドを予測をしたものとなっている。
2025年の消費者嗜好については、5つのトレンドが挙げられている。AIの進歩がもたらす変化、節約する消費行動、エコロジカルなど近年のトレンドも変化しつつあり、健康と寿命の関係や購買体験も新しいアプローチが求められている。それでは、それらの消費トレンドを見ていこう。
(図版出典:ユーロモニターインターナショナル)
健康寿命へのこだわり
健康的に歳を重ねながら長く生きたいという消費者の意識が、現在の行動を変化させている。年々成長するビタミン・サプリメント業界の世界小売売上高は、2025年には1399億米ドルに達するとされる。2024年第1四半期〜第2四半期の世界32カ国のオンライン市場では、細胞の健康増進機能に関連した新商品の数が135%増加している。全体的に老いゆく人口、パンデミックの名残や革新的技術の創生などが、このトレンドを後押ししているとした。「向こう5年で自分がより健康になる」と信じている消費者は52%に上った。
消費者には人生のステージによって具体的な健康課題があり、対処が求められている。2024年には54%の人が摂取すべきビタミン・サプリメントを把握していると回答。スナック菓子市場でも、今年から2026年にかけて急成長が見込まれるのが、「脳」「関節」「視力」への健康効果を訴えるものだという。企業が事業拡大を考えるとき、これらの消費者意識を汲み取り、最適なウェルネスサポートを創出することが大切だ。
また、下の図のように、フィットネスや健康を追跡するためのスマートデバイスやアプリの利用は、世代を超えて一貫して増加している。ミレニアル世代とZ世代が最も高い普及率を示しているが、これは、これらの若い消費者が早い段階から健康のための強固な基盤を確立したいと考えていることを示している。
▶健康度とフィットネス指数をアプリや機器でデジタル追跡する人の年齢層とその推移
2020〜2024年、身につけられるフィットネス機器(黄色)と「フィットネスや運動のアプリ(青色)」を使用している人の世代とその推移。左から順に、Z世代、ミレニアル、ジェネレーションX、ベビーブーマー世代
戦略的な比較検討に基づく「賢い消費」
消費者が購買する上での決定要素は、ずばり「品質」「利便性」「価格」の3つだ。景気の不透明感が長く続き、節約志向は標準となり、衝動買いも全体の18%と減っている。比較検討を戦略的に行い、今と将来のニーズを考えつつ優先順位をつけて購入に至っているようだ。もっとも、72%の消費者は日用品の価格上昇を心配しているが、50%は時間節約のためならお金を使うとも答えている。
費用対効果が必ずしも消費者のマインドにあるわけではない。2020年〜2025年の美容・パーソナルケアの小売売上の成長比較を見ると、世界的にプレミアム商品の売上高がマス商品を大きく上回っている。この訴求に応え、明確な付加価値を提供するブランドとして第一想起ブランドになることが、成功企業の姿勢だろう。企業の27%がターゲットを絞った消費者キャンペーンを打ち出すとし、また26%はプレミアム商品に焦点を当てると答えている。
エコ・ロジカル(自然環境との調和)
サステナブルを掲げることは商品の購買要因の一つだが、それだけではない。責任ある消費には「健康への配慮」も含まれている。そして経済的な負担が大きくなった昨今、「手頃な価格」であることは最も重要だ。消費者の40%が価格の高さが購入の妨げになっているとしている。企業は従来の製品と同価格を提示できない場合は、サステナブルへの訴求以外にもアピールポイントを備えるべきだとした。
サステナブル商品の普及は着々と伸びており、11の日用消費財(FMCG)のオンラインSKU(最小在庫管理単位)は2022年第2四半期の400万から2024年同期には500万まで上昇、小売売上高も大きく増加している。また、2023年の54の日曜消費財(FMCG)カテゴリーと32カ国のオンライン上の新商品は1400を超え、消費者趣向にますます浸透する商品カテゴリーとして注目される。
業界別サステナブル商品の世界小売売上高のカテゴリートップは、「美容・パーソナルケア」となった。次が「主食類」で、「ソフトドリンク」「乳製品・代替品類」「菓子類」が続く。明確なターゲット層に正しいメッセージを伝えるための自社製品を打ち出すことが、企業にとって重要だ。
選び抜かれた購買体験
時間をかけずに本当に必要な商品・サービスを手に入れたいという消費者は多い。膨大な情報や選択肢の量はそのままに、自分の嗜好向けに抽出されたメッセージを受け取り、直感的な選択をしたいと思っている。企業の取組としては、商品パッケージの改良やパーソナルなお薦め機能の充実、簡素化したショッピング体験が求められる。
ECサイトのナビゲーションではまだまだ改良すべき点が多く、分かりやすくすることが大切だ。ライブストリーミングも人気があり、42%がこれを通じた購入経験があると回答、商品やサービスの特徴を理解しやすいことが理由だった。信頼性は重要なファクターであり、消費者の54%は「完全に信頼しているブランドの商品のみが購入対象である」と答えている。ブランドや企業の戦略的な優先事項は、商品発見から購買まで、どのチャンネルであっても共感を呼ぶ明確なメッセージを発信し、個々のユーザーに最適化された買い物体験の提供に注意を払うことが必要だ。
下の図は2025年のライブストリーミングによるEコマース市場の予測を示している。トップは中国(5821億ドル)、ついでアメリカ(295億ドル)、韓国(89億ドル)、ブラジル(68億ドル)、インドネシア(67億ドル)、イギリス(51億ドル)、ドイツ(39億ドル)が7大市場となっている。
▶2025年におけるライブストリーミングのEコマース予測
Eコマース流通の高さを色で表している。オレンジ(低い)〜紫(中位)〜緑(高い)
AIへの期待と不安
ここ数年におけるAIの目覚ましい進化と普及は、人々の生活に多大なる影響と変化を与えているが、ビジネスも然り。チャットボットが提供するサービスは浸透しつつあり、顧客に適切なお薦めをする機能として、より高度に進化した生成AIが活用されている。消費者の43%が「生成AIは信頼できる情報源」と答え、25%が生成AIの利用には「より自分に適したお薦め」を知るメリットがある、と回答。「高度にパーソナライズされたアシスト機能」や「高度なチャットボットとのやり取り」を評価する声もそれぞれ20%を超えている。
しかし、生成AIのアウトプット(回答)にまだまだ欠陥があり、消費者に懐疑心を抱かせているのも確かだ。その可能性のみならず限界も受け止めながら、利便性を評価していると考えていい。業界大手企業で、今後5年間に生成AIへの投資予定があると答えたのは全体の65%に上り、2023年世界の家電製品売り上げでは「スマート家電」が23%を占めている。企業は信頼を第一に、透明性を保持し利用目的を明確にすることで、生成AIのさらなる進歩と足を揃え、有利になるよう努力すべきである。
▶世界におけるスマート家電シェアの推移
今回の調査結果を受け、同社の東京オフィスで調査統括部長を務めるショーン・クレイドラーは、「日本でも、女性特有の健康課題にアプローチするサプリや漢方薬の増加、またプロテインがシニアやキッズ向けにも広がりを見せるなど、『健康寿命へのこだわり』は老若男女を問わず見られる。また、小売大手各社が低価格のプライベートブランドのポートフォリオを拡大する一方で、自分にとって特別な香りで生活を豊かにしようとプレミアム価格帯の香水が大きく成長するなど、『賢い消費』を行っている状況も伺える。高騰した生活費が常態化する中でも、出費にメリハリをつけながら、心身に気を遣い、健康や豊かな生活を犠牲にしないライフスタイルを志している消費者が増えているのだろう」 と話した。
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