インバウンドコラム
トリップアドバイザーは、2025年から数年間の旅行トレンドを予測する「トリップアドバイザー・トレンドキャスト2025」を発表した。同レポートは一般的な年次トレンドレポートではなく、旅行の未来と、今後数年で観光業界のあり方を形作るであろう消費者の行動に焦点を当てたものだという。
レポートでは、レビューや予約状況といった消費者の行動データに基づき分析された、旅行の最新トレンドや今後の方向性を示す14の項目が紹介されている。水やスピリチュアルといったキーワード、美容旅、時間に縛られない旅など、各トレンドを詳しく見ていこう。
水が生み出す新たな体験
癒しや自然との深い繋がりを求めるだけでなく、水を介した社交的シーンや冒険を求める傾向が顕著になっている。韓国や中国のミレニアルやZ世代に、従来の銭湯に代わる新しいスタイルの施設が「究極の溜まり場」として人気を集める。上海の「上引生活水世界(Shangyin Shenghuo Shui World)」ではウォーターセラピーからカラオケ、ゲーム、夜には映画も楽しめる設計になっている。2022年以降の予約では「温泉」関連が157%上昇。ウォータースポーツでも、水中の冒険を環境保護活動として再構築する動きがあり、珊瑚植え付けを行うダイビングなどが注目されている。
非日常を味わう大人向け体験アクティビティ
自分を解放し、非現実的な状況で遊びたい大人が増えている。忍者スタイルで挑むスリルたっぷりのゲームや、幻想的なボールプールで思いっきり楽しめるブリスベンの「ドーパミンランド」は五感に訴える創造性が人気。宙に浮く椅子に座って味覚の旅ができるドイツの高級レストラン「イートレナリン」では、水中旨み体験やスパイス満載の宇宙への打ち上げなどのユニークなテーマで、視覚と味覚に訴える食体験を提供している。
スピリチュアルへの関心
魔術関連のハッシュタグで数億回再生を記録する「Witchtok」などに見られるように、多くの人がスピリチュアルに関心を寄せている。昨年、レビューやフォーラムにおける「星座」への言及は300%上昇しており、旅行先をタロットカードや星占いを参考に決める人もいる。近年では、スピリチュアルがウェルネスと融合し、人々の目に見える世界と見えない世界への好奇心を刺激しているようだ。
ホテル側もこうしたニーズに応える動きを見せており、ロンドンの「スタンダードホテル」では、毎月星座ごとのリトリートを実施し、占星術師との個別セッションを設けている。ストーンヘンジやピラミッドでは、占星術師がガイドするツアーが増加しており、フィンランドやオーストラリアでは夏至祭といった季節のイベントも盛り上がりを見せている。
人生の節目としての旅行
現在の自分の在り方や他人との関係を見つめ、旅行に「人生の節目」の意味を見出す人が増えている。南アフリカ、ケープタウンの「ミ・カーサ」が企画する「フレンドシップ・クルーズ」は、共働きで子供のいないカップルをターゲットにしている。「ハネムーン」から着想を得た「リタイアムーン」では、退職者が壮大なサンティアゴ巡礼ルートを歩く。離婚者は島で一人の時間を楽しんだり、親友とエステ三昧で美を追求したりと、新たに得た自由を満喫するためのさまざまなアイデアが生まれている。
「多感覚」な旅がトレンドに
五感に訴えかけ、感性を解き放つ体験を求める傾向は、2022年以来「多感覚(Multi-sensory)」というキーワードの検索数が267%増加していることからも明らかだ。本能的な体験を重視する人は、コンピューターなど電子機器に囲まれた生活から離れる時間を求めている。旅行業界もこうした変化に敏感に反応しており、例えばアマゾンでの森林浴では、古代樹の幹の紋様や、珍しい蝶が羽ばたく瞬間の煌めきなど、地元ガイドが五感を刺激する微細な自然の美しさに人々の意識を向けさせる。ニューヨークの「オルファクトリー・アート・ケラー」では、アート鑑賞体験を向上させる香りを創造し、嗅覚と視覚がシンクロする時間を提供している。
ゲームを通じた、ファンタジー旅行へ
オンラインゲーム人口は世界で30億人を超え、デジタルと現実が交差する旅の楽しみ方も定着してきた。ロールプレイングやアクションゲームに登場する風景を訪れることで、自分の好きなゲーム世界に入り込んだような気分を味わえる。例えば、中国山西省の古代寺院付近でのトレッキング、アイスランドの氷河の洞窟の探索では、まるでファンタジーの世界にいるような感覚を呼び起こす。国際的なゲーム大会も旅の目的の一つとなりつつあり、例えば、ソウルで開催された大会で有名選手のプレーを一目見ようと、世界中からゲーマーが集結した。また、東京のビデオゲーム・カフェも検索数が上がっているようだ。
「食」を学ぶ旅
私たちの食べている物がどこから来るのかを知ることへの関心が高まり、旅程に組み込まれるようになっている。持続可能性を重視したレストランでの食事や、農場への滞在に関心が高まる近年、さらにその先を見越した行動が見られる。「Farm to Table(農場から食卓へ)」という考え方をさらに発展させ、ステーキを食べるまでの過程をじっくりと辿る「ステーキケーション」といった旅も登場した。持続可能な方法で育てられた牛のステーキを食べるだけではなく、実際に牧場を訪れる。その他にも、夕食の魚を捕獲するため日本の漁師と漁にでたり、韓国の家庭でキムチの作り方を学んだりと、アプローチも多様化している。また、オーストラリアのアボリジニや、アメリカ・ミネソタ州の先住民と共に食物を収穫し、その土地に深く根付く食文化を学ぶコースも設けられている。
家族全員で楽しむ「ファミリーバケーション 2.0」
子供連れの旅行で、子供は子供、大人は大人で楽しむスタイルはもはや過去のものだ。今では、家族全員が一緒に、心から楽しめる新しい形のキッズクラブや体験アクティビティが人気を集めている。タイの高級ホテル「ザ・ペニンシュラ」ではタイ料理教室、パリのホテルではチョコレート作りの短期集中教室が開催されるなど、食に関するプログラムがある。また、マウイ島では伝統と歴史、漕艇技術も習得するカヌー体験などがある。大人が遊び疲れた時に、子供たちが夢中になって学べるデジタルゲームや、専門スタッフ帯同で自然の生態を学習したり実験したりできるプログラムが用意されている。
一つのエリアをじっくり味わう
旅先に数多くの名所を詰め込むのではなく、一つの地域に腰を据えてじっくりと観光するスタイルが主流になっている。オーバーツーリズムという概念も浸透し、それに対峙するリアルな旅をしたいという欲求が高まっている。ガイドブックに載っている観光名所を制覇するのではなく、具体的なエリアを目的地に定め、その中の通りや街角に注目して深く探求するのだ。「ブルックリンの5番街」と呼ばれるパークスロープでもそんな旅行者が増えており、LGBTQ+コミュニティやスポーツ・バーなどが活気を帯びている。また、東京の「地元バー」巡りも注目されている。
つながりを重視する進化した一人旅
一人で旅を楽しむ一方で、ソーシャルメディアを活用して他者と繋がり、自分の時間と相手の時間を上手に組み合わせる旅のスタイルが生まれている。例えば「フィレンツェにいるアート好きの人、3時にウフィツィ美術館で会いましょう」といった、その場での呼びかけもなされている。一人旅中でもアプリを使って共通の趣味を持つ人と出会うことも容易だ。観光業界もこのようなニーズに応え、一人では入りにくい話題のレストランで「お一人様用メニュー」を用意するなど、一人旅に寄り添ったサービスを提供する事例が増えている。
高い美容意識は、どこまでも
美容に関心のある旅行者は、最新の施術を受けるためなら、遠隔地へも足を運ぶ意欲があるようだ。セルフケア意識の進化に伴い、その土地でしか受けられない美容トリートメントを旅の目的の中心に据え、世界各地のスキンケア方法を自身のルーチンに取り入れたいと考える人が増えている。モロッコの黒石鹸やアルガンオイル、韓国の高麗人参やカタツムリなどがその一例だ。また、他の美容マニアと一緒に世界各地を巡るツアーも人気を集めている。
進化するスポーツの楽しみ方
スポーツは、人を夢中にさせる力強いアクティビティだ。静かにパドルボードを漕ぐ時も、応援するチームをサポートするために大陸を横断する時も、人々は全力を注ぐことを惜しまない。オリンピックや2026年に開催されるFIFAワールドカップといったメガスポーツイベントは、単なるスポーツイベントではなく、開催都市や文化を知る良いきっかけとなっている。また、観戦だけではなく、人里離れた高山へのヘリコプタートレッキングや、シーウォーキングによる海底探検など、自己の限界に挑戦し、新たな冒険スタイルを求める人も増えている。
時間や季節にとらわれない自由な旅へ
柔軟な働き方が浸透し、旅行者は早朝の音楽レイヴ(一晩中開催されるダンス音楽パーティー)に参加したり、深夜に人混みのないエッフェル塔でセルフィーを撮ったりするなど、自由な時間の使い方を楽しんでいるようだ。業界でもこうした自由なライフスタイルに合わせた取り組みを進めている。例えばモルディブのリゾートホテルでは、マッサージやレストランなどのサービスが24時間営業で、いつでも利用できる。また、オフシーズンという概念もなくなりつつあり、スキー用具をハイキングシューズに履き替えてアルプスを歩くなど、一年中オンシーズンとして対応する姿勢が世界各地で広がっている。
移動そのものを楽しむスロートラベルが人気
スロートラベルは単に飛行機の代替となる環境に優しい移動手段ではなく、メインイベントになりつつある。従業員の福利厚生として、数日間を余分に付与し「フライトを使わない休暇」を支援する「クライメイト・パークス」では、風光明媚なルートの再発見もスロートラベルの利点としている。日本の山あいを走る寝台列車から、思わぬ絶景の桜に感動したり、ポルトガルの漁村から漁村へハイキングしたりする気ままな時間もまた、移動そのものが思い出深い旅の体験となり得る。2022年以降、鉄道旅行関連の予約が143%増加していることからも、この考え方が一般化しつつあることがわかる。
最新記事
-
2025年度観光庁予算決定530億円、前年度比5.4%増。デジタル技術活用に重点、デジタルノマド誘致や旅ナカコンテンツの継続販売支援新たに計上 (2025.01.10)
-
ユーロモニターが2025年消費者トレンドを発表。健康的寿命の追求、プレミアム嗜好など5つのトレンド解説 (2024.11.22)
-
2025年度観光庁予算要求627億円、前年比1.2倍。ユニバーサルで持続可能な観光に重点、宿泊業への支援も強化 (2024.08.30)
-
2024年中国春節動向、累計90億人が移動見込み。今年は氷雪旅行がトレンド、東南アジアも人気 (2024.01.29)
-
【徹底解説】2024年度観光庁予算決定、前年比64%増の503億円。前年比大幅増の施策は? ガストロノミーなど3テーマ新規計上 (2023.12.26)
-
2024年 世界の消費者トレンド6つの注目トピックス、生成AIやサステナブル懐疑、広がる分断など (2023.12.13)
-
11月11日、世界最大級のECショッピングイベント「独身の日」、2023年中国EC大手の動きは? (2023.10.31)
-
中国市場のマーケティング戦略、競合市場との差別化カギに。20~40代のボリューム層に照準あて施策展開 (2023.09.15)