インバウンドコラム
旅行者の意思決定に影響を与える旅行コンテンツの条件が、感情解析及びアイ・トラッキング解析と、グローバル調査から明らかになった。
Expedia Group Advertisingが発表した大規模調査「Science of Wanderlust」は、視線や感情の反応を測定するラボ実験と、過去1年以内にレジャー旅行をした約7000人へのアンケートを組み合わせたもの。アメリカ、カナダ、メキシコ、イギリス、フランス、オーストラリア、日本の7市場を対象に実施され、映像・信頼性・多様性など、旅行者の「旅心(wanderlust)」を動かす6つの共通要素が特定された。あわせて、旅行スタイルや世代によるコンテンツへの反応の違いも分析されている。
旅行者の感情を動かす6つの要素、映像は写真の3倍効果
旅行コンテンツが旅行者の意思決定にどう影響を与えているのか、調査では6つの主要要素が明らかになった。
1.映像コンテンツが旅の意思決定に強く影響
調査によれば、旅行者の71%が動画によって旅行の意思決定に影響を受けたと回答しており、静止画像(写真)と答えたのは24%にとどまった。動画は静止画の約3倍の影響力を持ち、特に感情への訴求力が高い。
なかでも長尺の動画は、視聴者の感情的な反応を強く引き出し、旅への意欲を高める傾向がある。また、59%の旅行者が「YouTubeで見たコンテンツが旅行の意思決定に良い影響を与えた」と回答しており、動画プラットフォームの影響力の大きさも明らかになった。
2.誠実さと本物らしさが「信頼」を生む
どのようなメッセージが信頼につながるかを尋ねたところ、回答者の過半数が「透明性」(52%)を挙げ、次いで「明瞭さと自信」(46%)、「本物らしさ・真正性」(45%)が重要と答えた。企業や観光地の「飾りすぎない」「実体験に基づく」内容が、ファンづくりや予約促進に有効であることが示される。また、「本物らしさ」を高める要素として、実際の旅行者によるレビューや体験談、写真・動画といったユーザー生成コンテンツ(UGC)も高く評価されている。
3.起承転結あるストーリー構成が理解と行動を促す
メッセージが不明瞭なコンテンツは、美しい映像でも十分な効果を発揮しないことがわかった。一方で、効果的だったのは「起承転結」のあるストーリー構成。冒頭で視聴者の注意を引きつけ、説得力のある中盤、最後に明確な行動喚起(コールトゥアクション)を設けることで、理解度と行動意欲が高まるとされた。
4.映像のテンポ設計が理解と記憶のカギを握る
動画において、1シーンあたりの表示時間は「2〜9秒」が、視聴者の理解と記憶のバランスにおいて最適とされた。カットが短すぎたり、急激なシーン切り替えが続くと、視聴者が物語や目的地の魅力を十分に理解できず、内容の把握を妨げる可能性がある。テンポの設計は、情報伝達と没入感を両立させるうえで極めて重要であることが示された。
5.AIは“補助”として。人の関与が信頼を左右
旅行者の64%がAI生成コンテンツに気づいたことがあると回答している。また、全体の41%は「AIは有用だが、人間による入力と組み合わせる必要がある」と答えた。さらに、完全にAIが生成したインフルエンサーやビジュアル、旅行記事に抵抗がないとする層は半数未満にとどまっている。「コンテンツが有用であれば、制作方法は気にしない」と答えた旅行者は16%に過ぎず、多くの人が“人の関与”や“人の視点”を依然として重視していることが示された。
6.自分を重ねられる多様な表現が共感と記憶につながる
人々は、自分自身が表現されていると感じられるコンテンツに対して、より強く共感し、記憶にも残りやすい傾向がある。実際、34%の回答者が「包括的で多様なメッセージによって、旅行ブランドを信頼するようになった」と答えている。多様な背景やライフスタイルを意識した表現は、幅広い層の共感を呼び、ブランドへの信頼構築にもつながることが示された。
旅行の志向で異なる反応 AIやSNSの受け止めにも差
調査では、旅行者に「好みの旅行スタイル」を尋ね、それぞれのタイプがどのようなコンテンツに惹かれるかを分析。その結果、旅行スタイルによって、好まれるコンテンツのフォーマットやビジュアル、トーンに明確な違いがあることが分かった。
▶︎6タイプの旅行者像とコンテンツの好み

ビーチ志向の旅行者(Beach Travelers)
プールやスパなど、リラックスを感じさせるコンテンツに惹かれやすく、「見て癒やされる」ような視覚的訴求が効果的とされた。
テーマパーク志向の旅行者(Amusement Park Travelers)
家族連れでテーマパークや子ども向けスポットを訪れる層で、短尺動画やSNSを通じた発信の影響を受けやすい傾向がある。
冒険志向の旅行者(Adventure Travelers)
山や森、国立公園など自然を目的とする旅行を好み、YouTubeなどの長尺動画から影響を受けやすい。AI生成コンテンツに対しては、慎重な姿勢を示す傾向がある。
都市型エスケープ志向の旅行者(City Escapists)
都市のグルメやナイトライフ、エンターテインメントを目的とする層で、料理や食体験をテーマにした映像や長尺動画に関心を示す傾向がある。
文化体験志向の旅行者(Cultural Connectors)
歴史的建造物や地域文化、ローカルな体験を重視し、「驚き」や「発見」を与えるコンテンツを好む。情報収集にはオンライン旅行サイトをよく活用している。
ラグジュアリー志向の旅行者(Luxury Travelers)
高級リゾートや特別感のある体験を求める層で、インフルエンサーの発信に影響を受けやすい。AI生成コンテンツにも比較的好意的。
こうした「旅行者タイプ」に応じて、誰に・何を届けるかを明確にすることで、コンテンツ設計の精度を高め、より効果的な訴求が可能になる。
世代で異なるメディア反応 自然の絶景は全年代に響く
調査では、旅行コンテンツに対する反応の違いを、世代ごとに分析している。
その結果、Z世代(66%)とミレニアル世代(65%)は、旅行のアイデアや情報を得る際に、SNSやインフルエンサーの発信を積極的に活用していることが分かった。一方で、X世代やベビーブーマー世代は、オンライン旅行予約サイトなどの従来型の情報源を重視する傾向がある。
また、若年層ほど旅行コンテンツに対する感情の振れ幅が大きく、ポジティブ・ネガティブ両面で反応しやすいのに対し、X世代やベビーブーマーは比較的落ち着いた受け止め方をする傾向が見られた。
こうした違いがある中で、すべての世代に共通して高い反応を示したのが「自然の絶景」に関するコンテンツだった。壮大な風景や自然を映したものは、他のどのイメージよりも強く人々の心を動かし、旅に出たいという気持ちを喚起していた。
【編集部コメント】
旅を届ける“設計力”が成果を左右する時代へ
Expediaの調査から、動画の圧倒的な影響力、透明性・本物らしさへの信頼、ストーリー性、多様性の重要性が浮かび上がった。
特に「誰に、どんな旅を届けたいのか」という設計意図が、今後ますます問われる時代に。旅行スタイルや世代の違いを踏まえたメディア選定と表現の最適化が、プロモーションの成果を左右するといえる。
(出典:Expedia, Crack the code on travel content: The Science of Wanderlust)
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