インバウンドコラム
観光庁がこのほど発表した2026年度の予算は、2025年8月時点の要求額813億5900万円から大幅に拡充され、最終的に1383億4500万円となった。2025年度の579億2900万円に対し、約1.4倍の水準である。観光を日本の「戦略産業」として位置づけ、中長期的な課題解決を重視する構成で、施策は「1. インバウンドの受入れと住民生活の質の確保」「2. 地方誘客の推進による需要分散」「3. 観光産業の活性化」の3本柱で展開される。
ここでは、前年度との比較や新規事業の導入を中心に、予算の主要な内訳を解説する。
観光庁予算、過去最大の1383億円に インバウンド・地方・産業支援の3本柱に
2026年度の観光庁関係予算は、過去最大となる1383億4500万円が計上された。
財源別にみると、一般財源は83億4500万円。国際観光旅客税財源は1300億円となった。東日本大震災復興予算では、福島県への支援事業は前年とほぼ同額を維持した一方、ブルーツーリズム事業はわずかに減少し、総額は前年度比0.87倍の計6億6500万円だった。

また、2025年度の第2次補正予算として224億7900万円も別途計上されている。
旅客税3000円に引き上げ税収3倍、オーバーツーリズム対策を加速
予算の大幅増加の背景には、国際観光旅客税の引き上げ(1000円→3000円)による税収拡大がある。2025年度に441億300万円だった税収は、2026年度は約3倍の1300億円に拡大する見込みだ。
この引き上げは、観光庁が掲げる「真の観光立国」の実現に向けた観光施策の抜本的強化に必要な安定的な財源確保を目的としている。増収分は、オーバーツーリズム対策や地方誘客、安全・安心な海外旅行環境の整備など、多岐にわたる施策に活用される。
引き上げに際しては、旅行者の負担や事業者への影響に配慮し、準備期間を設けて導入される予定だ。国際的な取り決めにより、特定国の出国者については現行の1000円が引き続き適用される見込みだ。
ここからは「1.インバウンドの受入れと住民生活の質の確保との両立」「2. 地方誘客の推進による需要分散」「3. 観光産業の活性化」の3本の柱の内訳をみていく。
オーバーツーリズム対策に100億円 観光と住民生活の調和図る
1.インバウンドの受入れと住民生活の質の確保との両立:317億700万円(2.57倍)
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施策名
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予算額
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対前年度
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具体的な取組内容
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オーバーツーリズム対策・受入環境整備
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100億円
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8.34倍
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観光客集中による混雑やマナーや違反に対し、混雑状況の可視化、予約システム、パーク&ライド、ICTゴミ箱、マナー啓発など、中長期的かつ面的な対策を支援する。
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持続可能な観光地域づくりの推進
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18億7900万円
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2.21倍
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地域の観光資源の保全と活用を両立するため、国際基準に準拠した持続可能な観光地経営(ビジョン策定や混雑対策など)を支援する。
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円滑な出入国・通関等の環境整備
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198億2800万円
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-
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※出入国(127.7億円/1.62倍)と通関(70.5億円/2.9倍)の合算。「共同キオスク」の導入、誘導員の配置、生体認証システムの機能強化などにより、待ち時間を短縮しストレスフリーな環境を実現する。
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2026年度は、オーバーツーリズム対策や出入国環境の高度化に重点が置かれている。
特に、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の受入環境整備」には100億円(前年度比8.34倍)が計上された。インバウンド増加による地域課題の顕在化に対応し、面的・中長期的な支援を強化する。特に、地方公共団体やDMOが主導し、混雑緩和、マナー啓発、ICT導入などの取り組みを推進する。

「地域一体となった持続可能な観光地域づくりの推進」には18億7900万円(前年度比2.21倍)が充てられた。地域のDMOや自治体が主導し、観光地の課題と魅力を可視化したうえで、ビジョン策定やロードマップの構築、受入環境の整備を支援する。主な対象は、二次交通の改善、無電柱化、サイクリング環境の整備など。中長期的な視点で、地域全体での観光地経営を進めるための体制づくりと実行力強化が狙いとなっている。
また、「円滑な出入国の環境整備」には127億7700万円(前年度比1.62倍)が充てられ、共同キオスク(入管・税関の手続情報を同時に取得する端末)を用いた次世代個人識別情報システムの導入が進められる。訪日外国人6000万人時代を見据え、出入国手続きの迅速化により、待ち時間短縮と利便性向上を図る。
さらに、「円滑な通関等の環境整備」には70億5100万円(前年度比2.9倍)が確保された。2026年に外国人旅行者向け免税制度がリファンド方式へ移行することを踏まえ、出国時にスムーズな免税手続きが行えるよう、混雑防止のための環境整備や周知・広報を進める。

地方誘客に750億円超 文化・自然資源活用で訪日客を分散
2.地方誘客の推進による需要分散:749億900万円(2.33倍)
予算の中で最も多くを占めるのが、地方誘客の推進による需要分散(749億900万円)であり、予算全体(1383億円)の半数以上を占めている。これは、訪日客の都市部への集中を是正し、地方への観光需要を分散させる狙いがある。
施策は大きく「a.地方の観光地の魅力向上・地方誘客」と「b.地方への交通ネットワークの機能強化」の二つに分かれているため、以下でそれぞれの内容を見ていく。
(a)地方の観光地の魅力向上・地方誘客 :600億2,600万円(1.98倍)
2026年度は、地方誘客の推進に600億2600万円(前年比1.98倍)を計上。中でも、文化資源と自然資源を活用した取り組みが大幅に拡充された。
| 施策名 |
予算額
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対前年度
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具体的な取組内容
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戦略的な訪日プロモーション
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136億2700万円
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1.05倍
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2025年大阪・関西万博や2027年国際園芸博覧会を契機とした地方誘客、高付加価値旅行者層をターゲットとしたキャンペーンなどをJNTOが実施する
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広域連携、DMO総合支援
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20億円
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1.83倍
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インバウンドの大都市集中を是正し、地方への誘客と周遊を促進するために、広域連携DMOを「司令塔」として機能させるべく支援する
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地域の観光資源・環境
整備
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40億円
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2.11倍
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歴史的資源や古民家等を活用した宿泊・体験施設の整備、無電柱化、街並みの修景などを支援する
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文化資源を活用したインバウンド創出
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223億8800万円
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2.66倍
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国宝・重要文化財の公開、城郭や寺社での特別な体験、マンガ・アニメ活用、拠点整備(高松塚古墳施設や国立博物館の機能強化等)を行う
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国立公園等の環境整備
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178億1100万円
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3.04倍
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ラグジュアリーな宿泊施設の誘致、廃屋撤去による景観改善、野生生物(クマ等)対策、ビジターセンターの多言語対応などを行いブランド化を推進する
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その他
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2億円
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デジタルノマド誘客促進(1億円/1.00倍)、アイヌ文化発信(1億円/新規)
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文化資源によるインバウンド創出・拡大には223億8800万円(前年度比2.66倍)を充て、文化施設の魅力向上や全国的なプロモーションを実施する。国立公園などの環境整備には178億1100万円(前年度比3.04倍)を投じ、受入体制の強化と高付加価値な自然体験の創出を図る。

このほか、地域の観光資源充実のための環境整備推進事業(40億円)、DMO支援(20億円)、デジタルノマド誘客(1億円)、ウポポイを活用したアイヌ文化の発信(1億円)など、多様な観光資源を活かした地方誘客策を展開。訪日客数の増加にとどまらず、地域の価値向上と持続可能な観光への転換を目指す内容となっている。
(b)地方への交通ネットワークの機能強化:148億8,300万円(8.12倍)
地方への誘客を支える交通ネットワーク強化には、148億8300万円(前年度比8.12倍)が計上された。特に空港周辺の機能強化やアクセス改善に重点が置かれ、地方空港の利便性を高める施策が拡充された。
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施策名
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予算額
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対前年度
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具体的な取組内容
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空港におけるFAST TRAVEL
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40億円
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2.45倍
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顔認証(One ID)による搭乗手続き円滑化、自動手荷物預入機の導入、保安検査の高度化などを支援し、空港での待ち時間を短縮する。
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空港・鉄道の機能強化
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52.83億円
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新規
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空港のボトルネック解消(28.83億円)、天候トラブル時の滞留対策(10億円)、空港アクセス鉄道の整備支援(5.25億円)、パーク&レールライドによる観光地混雑緩和(8.75億円)を行い、地方送客基盤を強化する。
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クルーズ受入促進
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10億円
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5.00倍
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地方港湾へのクルーズ船寄港促進のため、岸壁の受入環境整備やツアー造成、富裕層向けコンテンツ開発などを支援する。
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ローカル鉄道観光資源
活用
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46億円
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新規
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ローカル鉄道を「観光資源」として活用するため、観光列車の導入、駅舎の改修、企画乗車券の造成などを支援する。
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ボトルネック解消に向けた空港機能の強化事業(28億8300万円)や、天候トラブル時の滞留・混雑防止対策(10億円)も新規で措置された。後者では、プラウ除雪車やワンマンデアイシングカーなどの導入により、処理能力の向上を図る。
さらに、空港アクセス鉄道の整備支援(5億2500万円)、観光地での混雑緩和を図るパーク&レールライド促進事業(8億7500万円)、クルーズ船旅客の受入環境整備(10億円)なども新規・増額された。特に、クルーズ船旅客の受入環境整備には前年度比の5倍の予算が充てられ、寄港地での観光体験ツアー造成や消費スキームの構築、安全性確保に向けた施設整備、二次交通対策、さらにはクルーズ船社とのネットワーク構築や地域経済波及効果の調査事業など、多面的な取り組みが展開される。
2026年度新たに計上されたローカル鉄道の活用を支援する観光資源活用促進事業(46億円)では、沿線地域との連携による旅行商品の造成や、駅の魅力向上を図る整備を支援対象とする。
観光産業支援に68億円 民泊監視強化やMICE・交流事業に重点
3.観光産業の活性化:68億5600万円(2.21倍)
「観光産業の活性化」には、総額68億5600万円(前年度比2.21倍)が計上された。観光を持続可能な成長産業と位置づけ、地域経済の牽引役とする方針が示された。
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予算額
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対前年度
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具体的な取組内容
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双方向交流の拡大
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5億円
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25.0倍
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地方空港を活用したアウトバウンド・インバウンド双方の送客支援や、教育旅行・ワーキングホリデーを通じた国際交流を促進する
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MICE誘致
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12.97億円
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1.48倍
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国際会議や展示会の開催支援、海外でのプロモーション強化を進める
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スノーリゾート形成促進
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13億円
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0.97倍
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ゴンドラ・リフトの更新・新設、高機能降雪機の導入、ICゲート化などを支援し、国際競争力のあるスノーリゾートを形成する
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その他
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14.52億円
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-
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通訳ガイド強化(1.09億円/1.5倍)、地域資源の多言語化(5億円/0.83倍)、食の多様性対応(1億円/1.25倍)、民泊の健全な普及(7.43億円/6.92倍)
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| 新規事業 | 23.08億円 | 新規 |
「双方向交流の拡大に向けた環境整備」では、地方空港を活用した相互交流の促進や、ワーキングホリデー、海外教育旅行を通じた若者の国際交流を推進する。特に、コロナ禍以降に落ち込んだアウトバウンドの回復にも資する取り組みとして位置づけられ、訪日・出国の双方向で交流を活性化させることを目的とする。予算は5億円と、前年度比25倍に大幅増額された。

このほか、「通訳ガイド制度の充実・強化」では、案内士の育成やマッチング支援を通じて訪日客の満足度向上を図るほか、「多様な食習慣に対応した受入環境整備」では、ヴィーガンやベジタリアンなどへの対応体制を地域ぐるみで整備する。
他にも大幅に増額されたのが「健全な民泊サービスの普及」で、違法民泊の対策強化や監視体制の構築に7億4300万円が投じられ、前年度比6.92倍となった。
加えて、5つの新規事業も新たに盛り込まれた。
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施策名
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予算額
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対前年度
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具体的な取組内容
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日米交流の強化
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3億円
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新規
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米国市場に向けた観光コンテンツの発信や青少年交流を通じて、相互理解と関係強化を図る
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廃屋撤去・再生による
まちづくり
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10億円
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新規
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温泉街等の中心部に残る巨大な廃旅館等の撤去・減築を支援し、跡地での新たな宿泊施設や広場の備を促進して景観と賑わいを取り戻す
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万博レガシー活用
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2.5億円
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新規
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大阪・関西万博の成果を活用し、関西一円への周遊・長期滞在を促進する
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Green Expoによる誘客促進
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2.57億円
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新規
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自然・環境をテーマにしたコンテンツ造成や旅ナカでの情報発信を強化する
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能登半島地震からの復興
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5億円
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新規
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被災した観光地・事業者の経営高度化計画の策定、営業再開に向けた人材確保、復興後の誘客に向けたコンテンツ造成などを支援する
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海外旅行の安全確保に174億円を新規計上
4.その他(安全・皇室関連など):248億7300万円(3.91倍)
2026年度観光庁予算における「その他」分野では、観光政策の質的向上と新たな課題への対応を目的とした新規事業が盛り込まれた。
| 施策名 |
予算額
|
対前年度
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具体的な取組内容
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観光統計の整備
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6億9300万円
|
1.03倍
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宿泊旅行統計やインバウンド消費動向調査などの精度向上や、ビッグデータを活用した分析を行い、エビデンスに基づく観光施策を推進する。
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地域の観光振興の効果測定
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1億1400万円
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新規
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これまでの観光施策の効果や宿泊施設・コンテンツなどの各要素が誘客に与える影響を定量的に測定・検証し、その有効な取組の全国への横展開を促進する。
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日本人旅行者の安全・
安心確保
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174億9000万円
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新規
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外務省と連携し、海外旅行者の安全確保に向けた情報収集・発信体制の強化や、有事に備えた邦人保護・退避支援体制(シェルター機能の強化など)を整備する。
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大手休憩所(仮称)の
整備
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57億7500万円
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1.18倍
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皇居東御苑(大手門付近)に、訪日外国人を含む来訪者向けの観光情報発信拠点および休憩施設を整備する(宮内庁計上予算)。
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その他
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8億円
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1.01倍
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計上事務費など
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1つ目は「地域の観光振興の効果測定」(1億1400万円)である。訪日外国人の地方分散を進める上で、これまでの観光振興策の実効性を検証し、地域誘客への影響を可視化する。旅行者の行動や消費傾向を分析し、課題を整理した上で今後の施策に活かすための基礎データを整備する。
2つ目は「日本人旅行者の安全・安心な海外旅行環境の整備」に174億9000万円を計上。世界各地での自然災害や情勢不安を背景に、アウトバウンド需要の回復に向けた安全対策が急務となっている。本事業では、安全情報の収集・発信に加え、在外公館の避難所機能の強化や邦人退避の体制整備など、官民連携による支援体制を構築する。

(出典:観光庁、 令和8年度観光庁関係予算決定概要)
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