インバウンドコラム

体を動かす旅や子ども主導など、目的特化型へ向かう2026年世界の旅行トレンド10 ーTripAdvisor

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旅行は今、「どこへ行くか」から「何を体験するか」、さらに「なぜそれを選ぶのか」へと軸が移っている。

身体を動かすために旅に出る人、知られざるローカルの飲み物を求めて地方へ向かう人、さらには“限界”に挑戦するために極地を目指す人——旅行の動機は、これまで以上に個人的で、多様で、そして意味を帯びたものへと変化している。

トリップアドバイザーが発表した最新トレンドレポート「Tripadvisor Trendcast 2026」から見えてきたのは、「体験の量」ではなく「体験の意味」を重視する旅行者の姿だ。そこで提示された10のトラベルトレンドを読み解きながら、旅行がどのように変わりつつあるのかを探る。

 

1. 運動のために旅する人が増加、スポーツ目的旅行が主流に

旅行の目的そのものが、「移動」から「身体を動かすこと」へとシフトしている。

フランス・シャモニーの山岳コースを走り抜けたり、パタゴニアでウルトラマラソンに挑戦したりと、競技そのものを目的とした旅が広がっており、「マラケーション」「レースケーション」といった呼称も生まれている。トライアスロン運営団体「Challenge Family」も、リゾート滞在と本格的なトレーニングを組み合わせたプログラムを展開している。

この流れは参加者だけでなく観戦にも及ぶ。参加者はもちろん、沿道での応援も多いボストンやベルリンのマラソン、そしてFIFAワールドカップのような大規模イベントは、都市への訪問者数を大きく押し上げているし、スタジアムツアーなどの体験需要も前年比25%と拡大している。

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2. 酒だけではない、“飲む体験”が地域理解の入り口に

「飲み物」をきっかけに、地域文化を深く味わおうとする旅行者が増えている。

ワインやウイスキーのツアーは、従来の有名産地にとどまらず、中国・煙台や南アフリカのスワートランドといった新しい目的地へと広がっている。

また、よりローカル色の強い酒や発酵文化へと関心が向かう傾向にもある。たとえば、メキシコのアガベスピリッツ、インドの伝統酒、ペルーのピスコなど、その土地ならではの飲料を通じた体験が注目されている。

さらに特徴的なのは、アルコールに限定されない点である。ガーンジー島のコンブチャ(発酵茶飲料)醸造所や、ヨーロッパ各地のモクテルバーでは、地域の植物や食材を生かしたノンアルコール体験も広がっている。

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3. 食は“背景から味わう”へ、サステナブル志向が加速

単に食べるだけでなく、食の背景にある仕組みに目が向けられ始めている。

どこで生産され、どのように食卓まで届けられるのか、食のエコシステムそのものを体験する旅が増えている。アンデス地域では、カカオやトウモロコシといった主食を祝う食文化体験が行われ、ポルトガルでは漁業と食文化をたどる「フィッシャーマンズ・トレイル」が人気を集めている。ストリートフードは2023年比で36%増、グルメツアーも同25%増となっている。

また、スカンジナビアやオランダでは、海藻や在来穀物を用いたサステナブルなレストランが注目されている。さらに、コーヒーの代替として、乾燥させたナツメヤシの種やチコリから作られる飲料も登場している。環境負荷の低い食材や代替食品を取り入れるレストランが注目されるなど、食は価値観を体現する場ともなりつつある。

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4. “限界体験”が新たな価値に、極地・高地志向が拡大

「どこまで自分を試せるか」という挑戦に価値を見出す動きが加速している。

こうした動きは、とりわけ高所の目的地で目立つ。日本の上高地では、雪を冠した景色と新鮮な空気を求めるトレッキングが人気になっているほか、インドのラダックでは、希少な高地をトレッキングし、絶滅の危機にあるユキヒョウを追跡する旅が注目されている。歩行を補助するAIアシストスーツのような商品によって、ハイカーが中国の泰山に登頂できるようになるなどこれまで専門家の領域だった挑戦も一般の旅行者に開かれつつある。

さらにこうした志向は、地下や水中にも広がっている。湖や川、海に飛び込むワイルド・スイミングや、ロンドンに残る未使用の地下鉄トンネルの探索など、環境そのものが非日常となる体験が求められている。

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5. 家族旅行は子ども主導へ、意思決定の主役が逆転

家族旅行の主導権は、親から子どもへと移りつつある。

近年広がっているのが、親は手配役に回り、子ども自身が行き先や体験を決める「子ども主役」の旅行である。例えば、アメリカ・サウスカロライナ州グリーンビルでは「Yes Day」と呼ばれるプログラムが提供されており、食事からアクティビティまでを子どもが決定する。また、年齢別に設計されたガイドツアーも増えている。

旅行は「連れていくもの」から「一緒に作るもの」へと変化し、親子や世代間の関係を見直す機会にもなっている。

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6. お土産は“作るもの”へ、ローカル体験が価値を持つ

「どこでも買えるもの」ではなく、「ここでしか手に入らないもの」を求める傾向が強まっている。

ベルリンやパリ、東京などでは、有名ブランドではなくローカルのショップやマーケット、アーティストの工房へと関心が移っている。日本の手作り包丁やフランスのバター、ポルトガルの陶器など、その土地ならではの商品や品物を探す動きが広がっている。

さらに、体験は「購入」から「創作」へと変化を遂げつつある。キャンドルや陶芸などのワークショップを通じて、自ら手を動かして記念品を生み出す。モノは単なる土産ではなく、体験の記憶へと変わりつつある。
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7. ラグジュアリーは”切り取る”時代に、部分消費が拡大

ラグジュアリーは「丸ごと所有するもの」ではなくなっている。

従来は高額な宿泊や貸切が前提だったが、現在は一部だけを楽しむ「アラカルト型ラグジュアリー」が広がっている。高級ホテルのプールをデイパス(前年比予約80%増)で利用したり、プライベートジェットの座席を1席単位で購入したりと、体験は細かく分解されている。

また、完全貸切ではなく、セミプライベートな空間も増加している。贅沢は「所有」ではなく「アクセスするもの」へと変わりつつある。
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8. AI時代に求められる“人との接点”、交流価値が上昇

デジタル化が進むほど、場所そのものよりも「人」とのつながりが求められるようになっている。

アルゴリズムが並べる似たような情報ではなく、地元の人だけが知るおススメや、その理由を語れる個人の存在が価値を持つ。どのカフェに行くべきかだけでなく、「なぜそこが良いのか」を語れる人が求められている。

ホテルのコンシェルジュも変化している。AIを活用しながら、ゲスト一人ひとりの好みに合わせた提案を行い、よりパーソナルな滞在を実現している。ジャマイカのリゾートでは天体観測体験を、サンタフェではアーティストとの交流を手配するなど、体験はより個別化している。興味深いのは、こうした体験をAIが裏側で支えている点だ。翻訳デバイスによって、言語の壁を越えた交流が可能になっている。

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9. ナイトライフは“整える時間”へ、回復型体験が台頭

かつては「消耗」する場だったナイトライフだが、今や心身を「回復」させる時間へと再定義されている。

ヨガやダンスを組み合わせたソバー・パーティーや、カフェでのコーヒーレイヴ、さらにはサウナと音楽を融合した体験など、アルコールに依存しない音楽体験が広がっている。

一方で、静かに音楽を楽しむスタイルも人気を集めている。東京のリスニングバー「Bar Martha」では、高音質の音響設備が用意されており、音楽に没入することができる。夜が「騒ぐ時間」ではなく「整える時間」へと再定義されている。
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10. ペットも旅行者に、“家族の拡張”が市場を変える

旅行における「家族」の定義が広がり、ペットを連れた旅が一般的になりつつある。

キンプトンやロウズ・ホテルでは、犬用ベッドやルームサービスなど、ペット向けの設備が充実している。シドニーのQTホテルでは、犬向けに体圧分散ベッドやベーコン味のアイスクリームのおやつなどが用意されている。

また、ペットを連れて行けない場合でも、動物と触れ合う体験が選ばれている。インドネシアでは馬と泳ぐ体験、アメリカでは農場での動物との交流などが人気だ。さらに東京では猫カフェが観光目的で訪れられるなど、動物との時間そのものが旅の目的になっている。
2026旅行トレンド

なお、本記事で紹介したトレンドは、トリップアドバイザーが世界中の旅行者の行動データやレビュー、予約動向をもとに、消費者トレンド予測会社Stylusとの共同分析によりまとめたもので、今後の旅行の方向性を示している。

 

【編集部コメント】

体験は「意味」で選ばれる時代へ

今回の注目は、旅行者が「何をするか」ではなく「なぜそれを選ぶか」を重視し始めている点である。運動や食、交流といった多様な動機が、自己表現としての旅へとつながっている。観光事業者にとっては、コンテンツの量ではなく、その体験が持つ意味や背景をどう伝えるかが重要になりそうだ。自社の提供価値が、どのような動機に応えているのかを見直す視点が求められる。

(出典:Tripadvisor Trendcast 2026

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