インバウンドコラム
コロナ禍で観光・旅行業界は苦しい状況にあることには変わりませんが、そんななかでも着々と機能強化を行い、旅行市場へ参入している「Google」、それを象徴する出来事が2021年3月9日に起こりました。
この日Googleは、世界中のホテルおよび旅行会社向けに、「Googleトラベル(google.com/travel)」上で、施設公式予約サイトのリンクを無料で掲載すると発表したのです(それまでは、予約リンクが掲載されるのは、Googleと連携した一部のOTAだけでした)。これまで有料で提供されていたこのサービスが無償化されたことで、Google上での宿泊予約機能が充実することは明らかで、観光客の宿泊予約行動はコロナ禍の前後で変わっていくことが予想されます。
こうしたGoogleの旅行分野での活発化を受けて、京都市観光協会では6月8日にGoogleトラベルの担当者を講師に迎え、宿泊事業者に向けた「Googleトラベルプロダクト対応セミナー」を開催しました。以下では、当日の参加者へのアンケート結果(宿泊業に携わる方97名を対象に集計)をもとに、Googleのサービスをはじめとしたデジタル技術の活用状況を分析していきます。
Googleトラベル利用の宿は一部にとどまるも、前向きに検討
まず、セミナーでGoogleの担当者から紹介された「Googleトラベルの無償化サービス」の利用意向について、宿泊施設に勤めている方(97名)に聞いたところ、7割が「社内で情報共有したうえで検討したい」と慎重な回答となりました。一方で「既に利用している」「今すぐにでも利用したい」と回答した方が3割弱、「利用は考えていない」はわずか3%に留まったことから、前向きに導入を検討している施設が多いことが予想されます。
宿泊施設のOTAやSNS活用は進むも、Google活用に遅れ
次に、客室の販売における各種デジタルサービスの利用状況の調査結果を見てみます。OTAの利用状況については、ほとんどの施設が積極的に活用していると回答しました。SNSでの情報発信は、OTAと比べると積極性は落ちるものの、こちらもほとんどの施設が利用していました。
Googleトラベルを活用するうえで前提となる、検索画面上で施設の営業情報などを発信するための無償サービス「Googleマイビジネス」 を、まだ利用していないと回答した方が2割で、SNSと比べても活用が遅れていることが分かりました。
Googleトラベルの利用開始の際には、Googleマイビジネスに登録し、自施設の基本情報の掲載が必要不可欠です。また、GoogleマイビジネスではSNSと同様にイベント情報の告知や写真を投稿する機能もあります。そのため、SNSで投稿した情報をGoogleマイビジネスに転載するだけで、より多くの方に効率的に情報を伝えることもできます。今後、Googleトラベルの利用を検討する施設では、まずはGoogleマイビジネスの活用を徹底するところから始めていただければと思います。
Googleの広告サービスの利用に関しては、他の項目と比べると最も利用が進んでおらず、回答者の約半数は「利用していない」という結果となりました。コロナ禍の影響で業績が悪化し、広告予算が削られていることが主な原因だと考えられます。コロナ禍で積極的に広告費をかけられない状況だからこそ、無料でも利用できるGoogleトラベルやGoogleマイビジネス等のサービスを活用することの重要性は増しているといっていいでしょう。
デジタル技術の活用、人材育成やノウハウ共有もカギに
最後に、これらのデジタル技術を活用するうえでの課題を尋ねたところ、「人材やノウハウ不足」「情報更新などの手間が多い」と回答した方がいずれも過半数を超え、主要な課題となっていることが分かりました。まずはこれらのサービスの最低限の利用方法を習得する機会を増やしていくことが必要な段階であると考えられます。
これまでの主流ともいえる「OTAによる宿泊サービスの流通」の仕組みを変える可能性もあるGoogleトラベル。これに対し、宿泊業界の関心が高まっていることも分かりました。
一方で、Googleトラベル利用には登録が必須となる「Googleマイビジネス」の登録や活用が課題で、活用できている施設は一部に留まっていることも分かりました。
OTAの活用もさることながら、コロナ禍で広告宣伝に使える予算に限りがあるなか、GoogleトラベルやGoogleマイビジネスなど影響力があり、かつ無料で利用できるサービスを理解し、活用することも大切です。それが、アフターコロナの世界にもたらされうる宿泊予約行動の変化への柔軟な対応にも繋がるでしょう。
宿のデジタル活用に必要な知識を学べるオンライン教材
当協会では、デジタル技術の活用をはじめとした観光ビジネスに必要な知識を動画で学べる「オンラインアカデミー」を運営しています。どなたでも見ることができるので、これからデジタル技術の活用を検討している方はご活用ください。
京都市観光協会オンラインアカデミー
・学ぼう!OTA活用 宿泊施設の販売戦略基礎とOTAの活用ポイントについて
・学ぼう!ゼロからのデジタル活用 観光業に必要な視点を30分に凝縮!
・学ぼう!Google マイビジネス 無料で使えて検索数も大幅UP!?
Googleも観光庁の後援を受けて、「いますぐはじめる観光のデジタル化」というオンライントレーニングを無料で公開しています。この機会に、デジタル技術の活用についての理解を深め、来るべき観光需要復活への時に備えましょう。
筆者プロフィール:
公益社団法人京都市観光協会 マーケティング課 DMO企画・マーケティング専門官 堀江 卓矢氏
京都市出身。京都大学大学院農学研究科修了後、株式会社三菱総合研究所に入社。リサーチャーとして、官公庁事業の公共政策評価や、航空業界における経済効果分析、東京都を始めとした観光マーケティング業務に従事。2016年、京都市におけるDMO立ち上げを機に、マーケティング責任者として京都市観光協会へ転職。経営戦略の策定、法人サイトの刷新などのコーポレートブランディング、統計データ分析、メディア運営設計などを手がける。