インバウンドコラム

持続可能な観光地域づくりの第一歩、サステナビリティ・コーディネーターとは?

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近年、時代の要請に応じて、観光の分野でもサステナビリティが求められ、「持続可能な観光」や「サステナブル・ツーリズム」という言葉が一般的に語られるようになってきました。

2020年には観光庁が、GSTC(世界持続可能観光協議会:Global Sustainable Tourism Council)が管理する国際基準GSTC Destination Criteria(GSTC-D)に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン(Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations:JSTS-D)を開発、公表しました。そして、地域がJSTS-Dを活用した持続可能な観光地マネジメントを実施するためのモデル実証事業が2020年より進められています。

この連載コラムでは日本での持続可能な観光地域づくりにフォーカスし、国際基準を活用した持続可能な観光の実態、その意義や課題などを検証しながら、取り組みに対する理解を深めていきたいと考えています。

第1回は、持続可能な観光地の定義や観光地マネジメントという基本的な考え方を分かりやすく解説し、国際基準を活用した持続可能な観光地づくりを進める上で必要不可欠となる「サステナビリティ・コーディネーター」について紹介したいと思います。

私は、2017年に国内で初めて観光政策に国際基準を取り入れた岩手県釜石市での実務経験を経て、現在は一般社団法人サステナビリティ・コーディネーター協会(Japan Sustainability Coordinator Association:略称JaSCA)の業務執行理事として、国内での国際基準を活用した持続可能な観光の推進、その実務に関する専門的な知見の普及、その核となる人材の養成やネットワーク化などに取り組んでいます。

 

持続可能な観光地域づくりでのマネジメントの重要性

2023年3月に政府が閣議決定した新たな『観光立国推進基本計画』では、「持続可能な観光地域づくりに取り組む地域」数を2025年までに100地域、そのうち50地域を「国際認証・表彰地域」にするという目標値が掲げられています。

参照:観光立国推進基本計画(P.12)

この「持続可能な観光地域づくりに取り組む地域」とは、JSTS-Dのガイドラインに準拠した観光計画を持ち、観光庁の承諾を受けてJSTS-Dのロゴマークを取得、持続可能な観光地域づくりを実践している地方公共団体や観光地域づくり法人(DMO)等のことを指します。

また「国際認証・表彰50地域」とは、GSTCの認定等を受けている第三者認証機関による認証、表彰が対象に含まれています。

▲JSTS-Dのロゴマーク

では、「持続可能な観光地域づくりを実践している」とは地域がどういう状態にあることなのか。国際認証や表彰を獲得している地域に共通する要件とはなにか、その本質について考えてみましょう。

JSTS-Dに記載されている開発の背景と目的から要約すると、次のように整理することができます。
1.自治体や観光地域づくり法人(DMO)等が、地域の現状に即してサステナビリティの観点を取り入れた中長期の観光振興計画を立て、総合的なマネジメントを行っている
2.観光指標を用いつつ定量的な分析・検証および改善のサイクルを実施している
3.それにより地域の状態が改善され、観光客と住民いずれもが満足している状態がもたらされている

参照:冊子『日本版持続可能な観光ガイドライン』(P.5&6)

▲日本版 持続可能な観光ガイドライン

ここで明らかなのは、持続可能な観光の実現には「観光地マネジメント」が不可欠だということです。

この「観光地マネジメント」という概念は、日本でも2018年頃から先行研究や海外の実例調査などを通じて整理と分析が行われ、その重要性が強調されると共に取り組みや具体的な手法についての方向性が示されています。

たとえば、DMOのMがManagement/Marketingの両方を意味することからも、その重要性が読み取れるのではないでしょうか。観光地経営にはマーケティングばかりが重視されがちですが、本来は観光地のマーケティングとマネジメントを両立させることであり、この両者を統合的に考えることこそが、持続可能な観光地を実現する考え方であるとも言えます。

さらに「GSTC-D」の基準項目は「社会経済のサステナビリティ」「文化的サステナビリティ」「環境のサステナビリティ」に「持続可能なマネジメント」という4種類の分野から構成されていますが、ここでも最上位に位置づけられているのはマネジメント分野です。GSTC-Dに準拠して策定されたJSTS-Dも基本的には同様で、「サステナビリティ」の観点を踏まえたマネジメントが適切に行われているかどうかが重要ということになります。

JSTS-DやGSTC-Dに基づいて持続可能な観光地づくりに取り組むことの本質は、自治体や観光地域づくり法人(DMO)における観光地マネジメントの体制や仕組みをしっかりと整え、機能させることにあるのではないでしょうか。

 

観光地マネジメントに必要不可欠な「サステナビリティ・コーディネーター」

持続可能な観光地マネジメントの機能を強化するための有用なツールとして、国際基準GSTC-D及び、それに準拠した基準が挙げられます。JSTS-Dもそのひとつですし、GSTCの認定を受けた観光地認証団体のひとつ「Green Destinations」(GD)が設けている基準「Green Destinations Standard」(GDS)も挙げられます。

GDSには6つの分野別カテゴリが設定されていますが、その最初のカテゴリ「1:観光地管理(Destination Management)」において、項目のトップに挙げられているのが「サステナビリティ・コーディネーター」の存在です。

サステナビリティ・コーディネーターとは、「持続可能な観光地運営を、適正に実施し報告する責任と権限が与えられた担当者」のこと。つまり、観光地マネジメントには、第一にサステナビリティ・コーディネーターと定義される人材を置くことが原則となっていることが分かります。

またJSTS-Dにおいても、「デスティネーション・マネジメント(観光地経営)の責任」の項目の中で「持続可能な観光を推進する責任を担う管理組織があること」と定められていますが、ここでも「管理組織には、持続可能な観光の推進に専念できる担当者(サステナビリティ・コーディネーター)がおり役割が定められていること」とあります。

いずれにしても、観光地マネジメントの実践には、サステナビリティ・コーディネーターという担当者の存在が大前提とされていることが読み取れます。

参照:冊子『日本版持続可能な観光ガイドライン』(P.25)

 

サステナビリティ・コーディネーターの役割と必要性

このサステナビリティ・コーディネーターとはどんな枠割を担う人物なのでしょう。JSTS-Dに定められているサステナビリティ・コーディネーターの考え方には「部局横断的に持続可能な観光の推進を総括する役割を持つ」とあります。

国際基準に基づいた地域のサステナビリティの診断や持続可能な観光推進計画の立案をはじめ、実行に必要なリソースの調達、取組の進捗管理など、その地域のサステナビリティ向上に向けた各事業を把握し、地方公共団体・DMO等の組織内で旗振り役を担う人材。持続可能な観光地域づくりの取り組みの中で主要なリーダーシップを発揮し、サステナビリティをつかさどる存在と言えるでしょう。

持続可能な観光の実現には観光地マネジメントの強化が求められ、観光地マネジメントの実践には、国際基準ではサステナビリティ・コーディネーターという担当者の存在が不可欠となっています。つまり、「観光立国推進基本計画」に掲げられた持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数を2025年までに100地域にするという目標値を実現するためには、第一ステップとしてその地域数に比例した人数のサステナビリティ・コーディネーターが適切に配置される必要があるのです。

次回のコラムでは、実際に地域で活躍するサステナビリティ・コーディネーターへのインタビューを通じて、その具体的な業務や活動事例を紹介します。

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