データインバウンド
訪日客の不安は言葉の壁や地震などの災害発生、3割がオーバーツーリズムを実感
2019.12.11
刈部 けい子日本政策投資銀行及び日本交通公社が毎年行っている「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」。2019年版によると、訪日の際の不安材料として、言葉、旅行費用に加え、地震などの災害の可能性についてあげる人が多いことがわかった。
調査は12地域(韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス)の20歳~59歳の海外旅行経験者の男女6276人に、今年6月〜7月にインターネットで行ったもの。そのなかで、訪日経験者は2571人と全体の41%を占めた。訪日で行ってみたい地域、旅行形態などさまざまな質問項目があるが、今回は訪日に関する不安材料に注目した。
地震などの災害に対する不安、アジアと欧米豪で認識に差
すると表のように12地域全体では言葉が通じるかどうかを不安に思っている人が最も多いことがわかった。ついで滞在費や渡航費用の高さをあげた地域も多く、特にタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアは言葉よりも日本滞在中の費用が高いことを不安視する方が多かった。また、地震が起こるかどうかや放射能による健康被害が心配と答えた人がアジア地域で多く、欧米豪ではそれほどでもないのが特徴的だ。

今回の調査が行われた前年の2018年は、6月に大阪府北部地震、9月に北海道胆振東部地震が起きたこともあり、アジアではニュース報道から地震を身近に感じた人が多かったのかもしれない。特に国内旅行の感覚で訪日するといわれる韓国の回答で、言葉や旅行費用よりも地震、放射能への不安がはるかに大きいのは興味深い。ただし、地震に関する不安は2018年の調査よりはアジアでは8ポイント、欧米豪では3.7ポイント割合が低下しており、2017年の水準に戻っているという。災害等に関して大事なのは早く正確な情報発信であり、訪日のブレーキとならないように心がけたいものだ。
また、キャッシュレス決済の普及状況を気にかけているのが中国と、この表にはないがインドネシア(17%)というのは、さすがにスマホ決済の利用率の高い両国ならではの不安といえるだろう。
こうした不安材料があげられるのは、個人旅行が圧倒的に多いからともいえる。団体旅行では、すべて旅行会社にお任せできるが、個人では自分で対応しなければならない場面が多いからだ。今回の調査で、訪日経験者に直近の旅行形態を尋ねたところ、アジア全体では66%、欧米豪では74%が個人旅行だった。
オーバーツーリズムを実感する訪日客
また、最近はあちこちでオーバーツーリズムの問題が顕在化しているが、地域に済む住民だけでなく、旅行者のなかにも同じように感じる人たちがいるようだ。
訪日経験者に尋ねると、全体の半数以上がなんらかのオーバーツーリズムを見聞きしていることがわかった。とくに、12地域全体の30%が観光地・観光施設の混雑を認識している。また、中国は宿泊施設でのトラブル(騒音、備品・施設の破損や大浴場におけるマナー違反など)、観光資源や施設を劣化させる行為(ゴミの放置や、資源の無断採取、立ち入り禁止地域への進入など)、ショッピング施設や飲食店でのトラブル(支払いや商品の破損など)を見聞きしている人が多いのが特徴的だ。

なお、環境維持のための入場料の値上げや税の賦課に関する質問をしたところ、賛成がアジアで42%、欧米豪で45%あり、ともに反対(各25%と16%)を大きく上回った。これはサステナブルな観光のための施策に一定の理解が示されたといっていいだろう。
紅葉の季節の京都では嵐山の渡月橋を渡るのに30分もかかるなど、人気の紅葉スポットは身動きもとれない混雑で、風情を楽しむどころではないのが現実だ。これがネガティブな口コミとして流れると、訪日人気にも影を差すことになりかねない。京都市の門川大作市長は11月に、「市民の安心安全と地域文化の継承を重要視しない宿泊施設の参入をお断りしたいと宣言する」と発表、「京都は観光のための都市ではなく、市民の暮らしを大事にしなければいけない」と話したばかりだ。
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