データインバウンド
日本人旅行者のSDGsへの意識と行動、重要性を認識するも旅行中は下がる傾向に —JTB総研調査
2022.02.10
SDGsの達成に向けて、現在、国をはじめ自治体や企業では積極的な取り組みが続いている。株式会社JTB総合研究所は、観光の持続可能性について、地域と旅行者がどのような関係性を築いていくべきかを検討しようと、「SDGs に対する生活者の意識と旅行についての調査」を実施した。2021年12月に全国の18歳以上の男女1万1人を対象とした事前調査、さらに、過去3年間(2018年12月~2021年11月まで)に1泊以上の国内旅行をした3000人の「旅行者」を対象とした本調査がインターネットアンケートにて行われた。
(図・表出典:株式会社JTB総合研究所「SDGs に対する生活者の意識と旅行についての調査」より)
旅行商品・サービス購入に対してのSDGsへの意識は低い
約1万人の「生活者全体」を対象とした事前調査の結果から明らかになったことは、SDGsの認知度が高いほど重要度の認識も高いことである。一方で、認知度が高いからといって日常的な行動や消費に結びついているかと言えば、そうでもない。
自動車、電化製品、食品、日用雑貨、衣料品、家・マンション、旅行について、SDGsを重視した商品やサービスであれば通常より高い価格でも購入するかという問いに対し、全品目で約4割が「価格差があるなら選ばない」という結果となった。中でも、下の図表からは、「旅行」に関する商品やサービス(ツアー商品、交通手段、宿泊、レジャー施設)でのSDGsへの留意は他の品目と比べて低いことが伺える。日常生活に直結する品目に比べ、非日常感の強い「旅行」という特性と関係するのであろうか。
ここからは、「旅行者」に焦点をあてた本調査の結果を見ていこう。
生活者全体と比べて、旅行者のSDGsへの意識は高い
過去3年間に旅行経験のある3000人への調査結果、SDGsに対する「認知度」「重要性の認識」「日常生活での実践」「SDGsの取り組みを重視した商品・サービスへの購買意欲」のいずれにおいても、旅行者は、旅行しない人を含む生活者より高い結果を示した。
「認知度」に関しては、男性、また若い年代ほど認知度が高い。「重要性の認識」では、男女とも60代、70代が重要と考える割合が高く、また、男女とも40代の旅行者が低い結果となった。日常生活でSDGsを「常に意識して実践している」のは若い年代の男性である。「それなりに意識を持って実践している」が平均以上だったのは男性が60代以上、女性が50代以上。男性の中で最も低いのは40代、50代で、この年代は「たまにしか意識を持って実践していない」が高い。
日常生活と比べて、旅行・観光の場面では「SDGsへの意識」が低下
次に、SDGsの17のゴールから、「日常生活」と、自らの旅行経験から考える「旅行・観光分野」で重要だと考えるゴールをたずねたところ、「日常生活」「旅行・観光分野」のいずれでも「気候変動に具体的な対策を」が最も重要だと答えた。一方で、「どれも重要と思わない」との回答が、「日常生活」での6.5%に対し、「旅行・観光」では13.5%と倍以上となり、日常生活から旅行・観光という場面になるとSDGsに対する意識が低下している。
旅行中はSDGsへの「行動の実践」も低下
SDGsに対する意識の低下に伴い、SDGsのゴールにつながる行動の実践も、旅行中には大幅にダウンする。たとえば、日常生活で7割以上実践している「レジ袋・包装紙等の辞退(71.3%)」「食品ロス削減(70.5%)」といった行動が、旅行中は36.7%、40.5%へと大きく下がる。その他の項目も図表が示す通り、中には実践率が半分以下に下がる行動もある。
その理由をたずねたところ、すべての行動において「特に理由はない」との回答が最も高い。その他には、「旅行中くらいは考えたくない/面倒くさい」「あらかじめ用意されているので準備が不要だから」「あらかじめ料金を支払っているので、支払額に変化がない」といった回答が上位を占め、旅行は非日常という別物の意識で捉えるためか、SDGsにつながる具体的行動は希薄になると言えそうだ。
旅行者が旅行中に取り組みたいSDGsは?
次に「旅行中のSDGsに関わる行動で、意識的に実践していること、今後実践したいこと」をたずねた。現在実践していることは上位から、「混雑する場所・時間帯の訪問を避ける(33.4%)」「歯ブラシ・ブラシ・化粧品を持参(32.5%)」「旅行先の地域の農産品や工芸品の購入(27.5%)」。「特に実践していない」も31.7%あり、特に男性40代、50代、29歳以下では「特に実践していない」が40%を超えている。
性年代別で見ると、ほとんどの項目で、女性、上の年代での実践率が高い。一方、男性30代、29歳以下が平均よりも高い実践率を示した項目は、「レンタカーはEVやハイブリッドを指定する(ともに14.1%)」「旅行先の地域住民との積極的な交流や体験プログラムの参加(男性30代が10.3%、男性29歳以下が10.1%)」となった。
「今後実践したいこと」は、「レンタカーはEVやハイブリッドを指定する(16.3%)」「被災地など応援したい地域を旅行先として選択(16.1%)」「SDGsや環境保全(カーボンオフセットを含む)に取り組む宿泊施設や観光施設等を利用する旅行ツアーの選択(14.1%)」が比較的高い結果となったものの、もっとも多い回答は「特に実践したいと思わない(39.4%)」。男性40代、50代、29歳以下の「特に実践したいと思わない」との回答率は、実施率と同様、高い結果を示している。全体的に、今後への関心は高くないと言えそうだ。
旅行者はSDGsの実践のため、地域や事業者に何を期待しているか
最後に、旅行者として旅行中にSDGsを意識するために、地域や商品サービスの提供側に期待することをたずねた。最も多い回答は「特にない(34.9%)」。他の設問同様、旅行・観光のSDGsへの関心のなさを浮き彫りにする結果を示している。中でも、男性40代、50代、女性29歳以下の回答率が4割近くと高い。
それ以外では、「個人が意識しなくとも、その地域の行動が自動的にSDGs推進になるしくみができている(例:センサー利用で自動的に電気が消える、ペットボトルの自販機撤去とタンブラーの貸出など)(26.9%)」「宿泊施設の予約サイトを通じて、施設のサステナビリティ(持続可能)についての取り組みが分かる(26.5%)」「SDGsに関わる消費によりポイントがたまる(24.1%)」。
若い年代で平均よりも高い傾向を表したのは、「SDGsに関わる消費によりポイントがたまる」で、男女30代、女性29歳以下では30%前後にのぼる。また、男性29歳以下では、「利用する交通機関のCO2排出量が検索できる(鉄道、航空機、高速道路、船舶など)」が平均値を上回る結果を示した。
本調査についてはこのあと、スウェーデン、ドイツと日本の旅行者を比べた結果が発表される予定だ。その比較にも注目したい。
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