データインバウンド
訪日客の満足度が低い、改善すべき日本の観光コンテンツとは? アジアと欧米豪でニーズに違い
2022.05.13
日本政府観光局(JNTO)が、ビジットジャパン重点22市場を対象に行った、訪日旅行に関するアンケート調査*。分析結果を2回にわたってお届けしているが、今回はその後編。前編の調査結果では、海外旅行市場全般から俯瞰してみる訪日マーケットのポテンシャルや、地方誘客への可能性、他地域への旅行と比較した訪日マーケットの現状を見た。今回は、世界の旅行者が海外旅行と訪日旅行で求めているものを明らかにし、そこから訪日旅行の強みや弱みを分析する。
(図・表出典:日本政府観光局 22市場基礎調査〈2022年4月〉)
訪日旅行の目的「ビーチリゾート」より「周遊」「都市滞在」
まず、各市場に対し、海外旅行と訪日旅行でどのようなタイプの旅行をしたかをたずねた。主要は、「周遊旅行」「都市滞在」「ビーチリゾート滞在」の3タイプである。日本以外の海外旅行について、市場を「東アジア・東南アジア」と「欧米豪・インド・中東」に大別すると、「アジア」では「周遊旅行(特に「各宿泊地に1泊」する周遊)と「テーマパークなどの訪問」が多いのが特徴だ。一方、「欧米豪・インド・中東」では「ビーチリゾート滞在」が多い。
それに対し、訪日旅行で特徴的なのは「ビーチリゾート滞在」の少なさだ。「周遊旅行」と「都市滞在」については、おおむね日本以外の海外旅行より上回っている。
体験率と満足度が高い、魅力的な日本の観光コンテンツは?
次に、海外旅行と訪日旅行でどのような観光コンテンツを体験し(体験の有無=体験率)、それについてどの程度満足したか(満足度)をたずねた。その結果について、「東アジア」「東南アジア」「欧米豪・インド・中東」の市場別に、訪日旅行と海外旅行との間にどのようなギャップが見られたかを分析している。
A.海外旅行と比較して日本旅行での「体験率・満足度が高い」
ここにカテゴリーされた観光コンテンツは、ほかの国・地域と比べて日本のほうが競争優位だと捉えることができる。「東アジア」「東南アジア」「欧米豪・インド・中東」の3市場すべてで、「伝統行事・祭り体験」が挙げられている。
「東アジア」と「東南アジア」では、「温泉・湯治」と「アニメ聖地」、「東南アジア」と「欧米豪・インド・中東」では「高速列車・ローカル線」もここに挙げられたほか、「テーマパーク」(東アジア)、「庭園・花」(欧米豪・インド・中東)も挙げられている。
B.海外旅行と比較して日本旅行での「体験率・満足度が低い」
Aとは逆に、日本での競争力が弱い観光コンテンツとして捉えられるものは3市場すべてに共通で、「お茶・お花など室内体験」「ビーチリゾート」「観光船・クルーズ」である。
C.海外旅行と比較して日本旅行での「体験率は低いが、満足度は高い」
ここに分類されたものは、体験率を上げることで競争優位となりうるコンテンツと言える。「東アジア」と「欧米豪・インド・中東」では「ローカルフード」、「東南アジア」と「欧米豪・インド・中東」では「伝統工芸品」が挙げられた。ほかには、「野鳥」「乗馬」(東アジア)、「エコツアー」(東南アジア)、「健康・治療」(欧米豪・インド・中東市場)というコンテンツも挙がっている。
D.海外より日本での「体験率は高いが、満足度は低い」
多くが体験しているにもかかわらず、現状での満足度は今ひとつ。より満足度を高めることで競争優位なコンテンツになりうるものとして3市場すべてから挙げられたのが、「伝統芸能」である。
「東南アジア」「欧米豪・インド・中東」の2市場からは「修行・宿坊体験」も挙げられた。ほかには、「高速列車・ローカル線」「伝統工芸品」「歴史的な宿」(東アジア)、「電化製品」「ウィンターリゾート」(東南アジア)、「酒造訪問」「農村漁村」(欧米豪・インド・中東)が挙げられている。
海外旅行最大の目的は「ガストロノミー・美食」、市場別でニーズに違いも
海外旅行を行う主要な目的は何かを旅行者にたずねたところ、最も多くの回答を集めたのが「ガストロノミー・美食」である。今回の調査では、訪日旅行の潜在的な市場規模を、22市場合計で約3.3億人(2017年〜2019年の海外旅行実施者ベースの推計〈一部の市場を除く〉)としているが、そのうちの半数近くの約1.5億人が、ガストロノミーのために海外旅行に行きたいと答えていることになる。
2位以降続いた「テーマパーク」「アートの鑑賞(美術館巡りなど)」「庭園、花鑑賞」「建築」は、1億人以上が旅の目的にしていると推計される。なお、グラフに記載があるように、JNTOのインバウンド戦略の一つでもある「アドベンチャーツーリズム」だが、関連するアウトドアアクティビティやスポーツは選択肢が細分化されているため、上位に上がってきていないことに留意されたい。
目的を市場別で見ると、やや違いが見られる。以下のグラフが示すように、「東アジア・東南アジア市場」に特徴的なのは、「テーマパーク」「ラグジュアリーなファッションブランド等のショッピング」の選択率が高い点だ。一方、「欧米豪・インド・中東市場」では、テーマパークやショッピングよりも「建築」「ラグジュアリーホテル」が上位にランクされる結果となった。
JNTOは本調査を踏まえ、国内のインバウンド旅行関係者や有識者とも連携しながら、引き続き訪日旅行の再開に向けた準備を進めていくという。
*22市場のうち2017年~2019年に飛行機を利用したレジャー目的の海外旅行経験者(欧米豪・インド・中東市場では中長距離海外旅行経験者)を対象に、2021年3月~6月にかけてオンライン形式にて行われた。
最新のデータインバウンド
アジア太平洋の航空旅行、日本発着路線が旺盛。2025年は韓国ーベトナム、インドーUAEが急成長 (2024.12.23)
【訪日外国人数】2024年11月訪日客数318万7000人、累計数3337万人で年間過去最高を更新 (2024.12.19)
2024年アジア太平洋地域の消費トレンド、クレカ支出の3割超が旅行費用に。ミレニアル世代の支出旺盛 (2024.12.17)
世界のトップ100都市デスティネーション・インデックス2024発表、1位はパリ。3位にランクインした東京の評価ポイントは? (2024.12.12)
2024年1-9月の国際観光客数11億人突破、観光収入も大幅増。欧州などで2ケタ成長ーUN Tourism (2024.12.09)
観光立国タイの新たな一歩、同性婚法制化が年3000億円の観光収入増と予測。雇用増への影響は? (2024.12.05)
【宿泊統計】2024年9月外国人延べ宿泊者数2019年比49.8%増の1238万人泊。金沢への注目高まる石川県が伸長 (2024.12.02)
障がいを持つ人の訪日旅行に対する期待と現実の差が明らかに、正確な情報発信も課題に ーアクセシブルツーリズム調査 (2024.11.29)
航空機利用の旅行者が求める空港体験の効率化、生体認証も5割が経験ー2024年 IATA旅行者調査 (2024.11.25)