データインバウンド

デジタルノマドビザで旅先に変化 検索動向が示す渡航トレンド

印刷用ページを表示する



リモートワークを行いながら長期滞在する旅行者「デジタルノマド」が、観光の新たなセグメントとして世界的に注目を集めている。旅行データの分析を行うForwardKeysが発表したレポートによると、複数の主要市場で、デジタルノマド受入に積極的な国、地域への旅行意欲が大幅に上昇しているという。

 

「暮らすように旅する」ノマドが、地域経済の担い手に

平均的な観光客よりもはるかに長く滞在し、日常生活に近い形で地域に溶け込む点が特徴的なデジタルノマド。彼らは、長期滞在用の宿泊施設を利用したり、地元のカフェやコワーキングスペース、ウェルネス施設を日常的に活用することで、地域の経済に安定的かつ継続的な消費をもたらしている。

特に日照時間が長く、ライフスタイルを重視する都市がデジタルノマドに人気だという。観光目的にとどまらず、「暮らすように旅する」ことを重視する動機が高まっているとForwardkeysは分析している。

 

世界68カ国が導入するデジタルノマドビザが、渡航意欲に影響

近年、デジタルノマドの取り込みを目指し、各国でビザ制度の導入が進んでいる。2025年5月時点で、既に68カ国がデジタルノマドビザを導入しており、その有無が旅行者の目的地選択に大きな影響を与えている。

ForwardKeysによれば、デジタルノマドビザ制度のあるドイツでは、長期滞在希望者が多く、2025年4月の国際線到着データでは片道予約が41%、長期滞在が7%を占めた。一方、ビザ制度のないオーストリアでは、短期(1〜3泊)27%、中期(4〜13泊)40%、長期(14泊以上)5%、片道28%と分散しており、制度の有無が旅行行動に影響している可能性があるのだ。

▶︎デジタルノマドビザ制度のあるドイツはその制度がないオーストリアと比べ、長期滞在希望者の割合が高い
(左ドイツ、右オーストリア。水色=短期1-3泊、赤=中期4-13泊、薄水色=長期14泊以上、紺=片道)

デジタルノマド1

 

ビザ制度発表後に航空券検索が急増した日本

日本は2024年4月にデジタルノマドビザ制度を正式導入した。対象は年収1000万円以上など一定の条件を満たす外国人リモートワーカーで、最大6カ月間の滞在が認められる。制度発表直後の2024年2月以降、日本への片道航空券の検索数が増加し、特に3月は急増した。これは、制度発表が需要を刺激し、デジタル施策による効果的なプロモーションが行動変容を促した可能性を示している。

▶︎日本への国際線検索数の推移
(2024年1月〜4月。赤=休暇滞在1-13泊、水色=長期滞在14泊以上、紺=片道)

デジタルノマド2

 

18〜35歳の若年層が主要に、体験重視で観光消費を牽引

デジタルノマドには、年齢構成にも特徴がある。ForwardKeysの航空データによると、ドイツとオーストリアを訪れる旅行者の平均年齢はほぼ同等(ドイツ40歳、オーストリア42.2歳)だが、若年層比率には差があった。

ドイツでは、18~25歳が11.4%、26~35歳が10.9%と、オーストリアの18~25歳(8.4%)、26~35歳(8.1%)を上回っている。

このことから、ドイツは移動の多い若年プロフェッショナル層により魅力的な滞在先とみなされていることが読み取れる。

さらに、若年層を中心としたデジタルノマドは、テクノロジーに精通し、地域文化や体験価値を重視する傾向があることにも注目だ。彼らはコワーキングスペースやウェルネス施設、地域の飲食店を日常的に活用し、観光地の枠を超えて地域経済に貢献している。また、単価の高い体験型消費を好むことから、観光収入の質的向上にも寄与している。

 

ノマドとの共生が地域の持続可能性を後押し

「暮らすように旅する」デジタルノマドは、観光消費にとどまらず、地域の多様性や持続可能性の促進にも貢献する存在となり得る。

長期滞在により、地域文化への理解が深まり、住民との交流も自然と生まれやすくなるし、彼らの自然やライフスタイルを重視する傾向は、自然環境や生活文化を重視した観光地域づくりを後押しする可能性もある。

2024年に導入されたデジタルノマドビザは、こうした高所得外国人層の誘致ははもちろん、日本の地域資源の再発見や発信の契機となるだろう。

ノマドとの共生が、観光と地域の持続的発展に寄与する第一歩になることが期待される。

<編集部コメント>

ノマド需要が、旅先選びの基準を変える?

コロナ禍を経て、旅の動機や目的は大きく変化した。中でもデジタルノマドのような長期滞在型旅行者の増加は、「観光地」の選ばれ方にも変化をもたらしている。単なる観光資源の充実ではなく、「暮らすように旅する」ことができるか、ライフスタイルを重視できる環境かといった要素が、旅先選びの新たな基準になりつつある。今回の記事では、その兆候が長期滞在者の検索行動に表れていることが示されており、受け入れ側の態勢整備や情報発信の方向性を再考する契機となるかもしれない。

(出典:ForwardKeys, Remote work, real opportunity: How digital nomads are reshaping global tourism

 

▼関連記事はこちら
地域観光の新潮流「デジタルノマド」誘致 受け入れの工夫と国内外の実践例

福岡市、デジタルノマド誘致で1.1億円の経済効果。2024年イベントに430人参加

最新のデータインバウンド