データインバウンド
2026年版世界最強パスポートランキング、日本は世界2位を維持も渡航自由度は後退
2026.01.20
ヘンリー&パートナーズが発表した「ヘンリー・パスポート・インデックス 2026年版」は、2006年の誕生から20周年という節目において、世界の移動性における二極化を浮き彫りにした。
なお、このランキングは、世界約300の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)が運営する世界最大のデータベース「Timatic」の情報を基盤としており、情報の正確性と網羅性から、国家の外交力を示す最も正確な指標とされている。
ビザなし渡航先が減少、上位国にも後退の兆し
最新のランキングではシンガポールが世界226の国・地域のうち、192へのビザなし渡航が可能で、世界最強のパスポートの座を堅持した。2位には日本と韓国が188で並び、アジア勢がトップ層を占めている。
続いて、デンマーク、ルクセンブルク、スペイン、スウェーデン、スイスが186で3位となり、4位には欧州の10カ国が並ぶ。

なお、日本のビザなし渡航可能国は以下の世界地図に詳しいが、ロシア、北朝鮮のほか、アフリカの多くの国への入国にビザが必要なのがわかる。
▼日本のパスポートがアクセス可能な国・地域
紺色=ビザ免除、あるいは到着ビザ、電子渡航認証/灰色=ビザ必要

ランキング上位国の顔ぶれに大きな変化はない一方で、見逃せない変化も起きている。最強とされる国々ですら、ビザなしで渡航できる目的地の数を減らしていることだ。この1年間で、首位のシンガポールは195から192へ、日本も193から188へと減少した。これは例外的な出来事ではなく、上位国を中心に共通して見られる傾向である。
この背景には、世界的な国境管理の「質的変化」がある。移動そのものが不可能になったわけではないが、「何の事前手続きもなく入国できる」という無条件のアクセスが着実に減っている。
電子認証の普及で『自由な移動』への制約強まる
その大きな要因の一つが、デジタル技術を活用した事前審査制度の急速な普及だ。アメリカや欧州、さらにはアフリカや中東の一部諸国でも、電子渡航認証(ETA)やオンライン事前申請が次々と導入されている。
これらの制度は、形式上は「ビザなし渡航」と位置づけられているものの、事前のオンライン申請や承認を必須とする点で、従来の無条件の渡航とは性質を異にする。ヘンリー・パスポート・インデックスでも多くの場合はビザ免除として扱われているが、レポートは、こうした電子認証の普及が「自由な移動」の実質的なハードルを引き上げている点に警鐘を鳴らしている。
つまり、実務上は入国可能であっても、統計上は「自由な移動」が後退したように見えるという逆説が生じているのだ。デジタル化は国境を「開く」どころか、結果として「条件付きの扉」を世界中に増やしているとも言える。
さらに、外交上の「相互主義(リプロシティ)」の徹底も、この流れを後押ししている。特にアフリカや中東の国々では、自国民が先進国へ渡航する際に厳しいビザ審査を課されている現状への対抗措置として、先進国側へのビザ免除を見直す動きが強まっている。
米英の自由度後退、先進国の優位性に陰り
こうした流れの中で象徴的なのが、アメリカとイギリスの地位低下である。今回のランキングではイギリスが5位から7位へ、アメリカは9位から10位に後退、ビザなし渡航可能数もこの1年間でイギリスは8つ、アメリカは7つ減らしている。
アメリカでは、日本、イギリス、フランス、ドイツを含む同盟国に対しても、SNSの利用履歴や広範な個人情報の提出を求める入国審査の厳格化が検討段階に入りつつある。こうした動きは、形式上はビザ免除が維持されていても、実質的には渡航の心理的・制度的ハードルを高めている。
パスポートの順位は単なる旅行の利便性ではなく、政治的安定性や外交的信頼の指標でもある。米英の順位低下は、地政学的なパワーバランスの変化と、自由な移動をめぐる価値観の転換を象徴していると言えるだろう。
渡航自由度の格差拡大、上位と下位で168の差
上位国が僅差で数字を減らす一方で、ランキング下位の国々はますます孤立を深めている。最下位は再びアフガニスタンとなり、ビザなしで渡航できるのはわずか24にとどまった。首位との差は168に及び、2026年における移動の不平等の規模を鮮明に示している。これは、2006年当時首位だったアメリカとアフガニスタンの差118から劇的に拡大した。この「グローバル・モビリティ・ギャップ」は、移動の自由が一部の経済大国に集中し、開発途上国との間に見えない壁が築かれていることを物語っている。
開放度で先を行く中国
アメリカのパスポート保持者は現在179の目的地にビザなしで渡航できるが、アメリカ自体がビザなし入国を許可しているのは46の国・地域のみだ。これは、世界の199の国・地域を対象とした「ヘンリー開放度インデックス(Henley Openness Index)」において78位に相当する。この「自国民の移動の自由」と「他国民への開放性」の格差は、オーストラリアに次いで世界で2番目に大きく、カナダ、ニュージーランド、日本(63位で74の国・地域)をわずかに上回る。
対照的に、中国は急速に開放を進めており、過去2年間だけで40カ国以上にビザなしアクセスを許可した。パスポートランキングでは現在59位(国・地域81)の中国は開放度インデックスでは62位で、77の国・地域に入国を許可しており、外交と経済的関与の手段として開放度を戦略的に活用していることを示唆している。
▼ヘンリー開放度インデックス(自国の開放度)とビザなし渡航可能なパスポートランキングの各順位
上から中国、オーストラリア、アメリカ、日本




富裕層の間で「第2の国籍」ニーズが拡大
レポートでは、投資家など富裕層を筆頭に、自国以外での居住権や市民権を追加で取得したいという需要が2024年比で28%増加したことも報告されている。これは「投資による居住権・市民権取得(投資移民)」と呼ばれる仕組みで、富裕層が他国に投資を行う見返りとして、第2の国籍や永住権を確保する動きだ。
この背景には、かつてないほどの地政学的な不透明感がある。自国の政治不安や紛争、急激な増税といったリスクに対し、いつでも他国へ移住できる「出口戦略(プランB)」を確保することは、現代の富裕層にとって不可欠なリスク管理となっている。特に近年では、国内政治の二極化が進むアメリカ人による申請が急増しており、自国のパスポートに全幅の信頼を置けなくなった層が、バックアップとしての「移動の確実性」を求めて投資移民市場へとなだれ込んでいる。
国境のデジタル化が移動の自由を再定義
デジタル技術による国境警備の高度化は、かつて私たちが享受していた「摩擦のない自由な移動」を過去のものにしようとしている。日本やシンガポールのような上位国がアクセス数を減らしている現状は、セキュリティ強化の裏側で、世界中の扉が少しずつ「重く」なっていることを示している。
「ビザなし」という枠組みは維持されつつも、実態としては詳細な個人情報の開示や事前承認が必須となる「条件付きの自由」へと移行しつつある。こうした潮流の中で、日本もまた、自国の開放性と安全性のバランスをどう図るのか、そして国際社会においていかに「信頼」という無形の資産を維持し続けるかという、新たな難題に直面していると言えるのではないだろうか。
【編集部コメント】
パスポート自由度の陰りに見る、観光戦略の再構築
パスポートのランキングに見えるのは、単なる渡航自由度ではなく、世界の国境政策と外交戦略の変化である。日本が上位を保ちながらもビザなし渡航先を減らしている事実は、見過ごせない。デジタル化が利便性と引き換えに「条件付きの自由」を増やす今、観光事業者は、入国要件の最新動向を把握し、渡航先選定やプロモーション戦略を柔軟に調整する必要があるだろう。
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