インタビュー
Q12.シンガポールは人口以上に外国人旅行者が多いというデータがありますが、シンガポールのインバウンド政策から日本が学ぶべき点はございますでしょうか?
シンガポールのインバウンド政策はすばらしいと常々思っています。確実に成果をあげていますし、それなりの予算を使っています。また、その予算となる収入もしっかり把握して、観光資源開発に投資することも忘れません。
2008年9月には世界初となるF1自動車の夜間レースが市内の一般道を利用して開催されますし、2009年にはインテグレーテッドリゾートといってカジノ、ホテル、コンベンションセンターを融合した施設の建設が進められていますし、古くからあるセントーサ島の再開発にもユニバーサルスタジオを誘致してくるなどアイデアで勝負しています。
また、街中にあるショッピングモールでは頻繁に催し物やフェアが開催されていて、来訪者を飽きさせない工夫を怠りません。他民族が集まる国家ですのでたとえばインド系の人にはベジタリアン料理を出す店がたくさんありますし、ムスリム系の人にはハラール料理が出せるレストランも多々あり、これらを必要とする人に対して、シンガポールでは、シンガポール政府観光局(以下STB)を通じて情報が提供されています。
また、昨今STBが力を入れているMICE政策ですが、国際会議を誘致してくれば開催まできちんと政府が面倒を見て、国の玄関であるイミグレーションや会議の開催会場周辺を中心に、国中お化粧して参加者をお迎えしています。たとえば、IMF国際通貨基金の会議で参加者が2万人を超える大型国際会議が当地で開催されました。このときにはリー・シェンロン首相は自ら国民に呼びかけ、「400万人の笑顔でお迎えしましょう」というキャンペーンを行いました。国民が笑顔の写真をウェブに投稿して、それをモチーフに壁紙やPR広告、会議資料といったもの使われました。国の玄関である空港のイミグレーションでは、吹き抜けの壁一面に国民の笑顔が敷き詰められているのを目にして感動したのを思い出します。また、会議場周辺は警備が非常に厳しく物々しいのですが、空港から会場に続く1本道の高速道路の中央分離帯、会場周辺には「ガーデンシティ」の名にふさわしく、通常見ないような様々な花が植えられ、きれいな街だなという印象を参加者に植え付けたことでしょう。
また、上記のようなアイデアや手配のうまさ、アピールのうまさを感じるとともに、観光資源が少ないシンガポールならではの来訪客の集客には、アイデア勝負だという気迫が感じられます。日本のVIPがSTBを訪問したいとお願いすると、直ぐに30分程度の時間がほしいと言われ、彼らのプレゼンテーションを聞かされる羽目になります。1度だけ聞いているとたいしたことのないように感じるのですが、ある時、数ヶ月しか空けずに2度プレゼンを聞くことになったことがありました。2回目の時は、「あ、また同じことを言っているな」と聞き流していたのですが、プレゼンが進むなかで、前回聞いていなかったプロジェクトやアイデアがポンポンと飛び出してきたのには、正直驚きました。数ヶ月の間でこれほどのアイデアやプロジェクトを排出できるスピードの速さに驚かされます。これは、まさに都市国家であるメリットで、観光プロジェクトを担うSTBが政府と密接に連携し、人も予算も業界も一元的に管理が出来ているからではないかと思います。
Q13.シンガポール事務所で現状抱えている課題・対策について教えてください。
この広い担当地域に比べ当所の人員体制、とあまり十分ではない予算でしょうか。特にマーケットが広がることはよいことではあるのですが、そのマーケットからのJNTOに対する期待値が高ければ高いほど、当所としてはその要望に応えるためのハードルが高くなるというジレンマがあります。また、多様化する日本国内の貴重な情報をいかに早く、正確にマーケットに伝えるかと言うことが今後重要になってきますが、その基盤がまだ完成していないように思います。日本国内の観光情報は溢れていますが、それをきちんと多言語化して、情報発信するという簡単そうでなかなか出来ていません。最近はJNTOのウェブサイトもポルトガル語やロシア語も加わって充実してきていますが、すべての情報をタイムリーに多言語化できるようなシステムにはもう少し時間がかかると思います。
Q14.シンガポールの方をもっと集客したいと考えている日本の自治体や企業に対してメッセージを頂けないでしょうか?
シンガポールの訪日市場は、今が旬です。人数だけをとってみても昨年は15万人を超え対前年比32%増、一昨年は11万人強でしたが対前年比23%増、当所の開所前から比べると61%の増加を記録しています。
また、最近は日本へのファムトリップなどもVJC事業で実施していますが、当地のエージェントは視察地が気に入って、売れると思うとすぐにツアーに組み込んでくれます。また、人気が出なければすぐに変えてしまえばよいといった気持ちもあるのか、大変早い時期に結果が現れてきます。すなわち成果が問いやすい市場といえると思います。
また、特徴として国が狭いからか、情報伝達が思いのほか早いのも特徴です。広告媒体の値段は安くはありませんが、確実に消費者に届くというメリットがあると思います。過去、何度か当地で広告を出していますが、一番よく読まれている日刊英字紙のThe StraitsTimesの広告などは、目にしたかどうかを問うアンケートを取るとダントツです。今後、JNTOではさまざまな事業で共同広告の掲載や、メディアの受け入れを募集いたしますので、ご協力いただきたいと思います。
そもそも人口がそれほど多い国ではありませんが、近い将来20万人を超えることは可能だと思います。また、このアセアンの中心(シンガポールは何でもハブだということを言いますが)を中心にマレーシアやインドネシア、インドへの波及効果も大きく見込めることでしょう。ぜひともこの新たな市場に目を向けて、JNTOとともにインバウンド事業を盛り上げていただきたいと思います。
Q15.また、シンガポール人を受け入れるホテル・旅館や通訳案内士の方へもメッセージをお願い致します。
「シンガポール人」といってイメージできる日本人はどれほどいらっしゃるでしょうか?シンガポール人ってどんな人たち?というのは小生にとっても永遠のテーマかもしれません。正直言って赴任前には全く予備知識はありませんでした。ですので、かれこれたった2年程度のお付き合いの中での話しと断った上でお話します。
シンガポール人の多くは中華系ということは、なんとなく知っていると思います。最初はエレベーターに乗っても奥に詰めないで、つっけんどんな印象がありましたが、日々お付き合いしていると、結構遠慮深げなところもあったり、日本人に似たところもあるように感じます。 但し、福建語で「KIASU」という言葉があって、「損をすることを恐れる」気質があるのか、だめもとでの要求は日本人以上です。それ以外は、それなりに恥ずかしがりやですし、結構見栄っ張りなところもあります。日本をまだよく知らないシンガポール人は、小生が大好きな「驚き」や「感動」を帰国後に得意になって話してくれます。
日本を知らないが故にご迷惑を掛ける人もいるかもしれませんが、根は正直者で悪気はないので許してあげてほしいと思います。
通訳案内士の方には、ご苦労をおかけするかもしれませんが、マンダリンもしくは英語でお願いします。英語に関しては日本で勉強する米語、ブリティッシュイングリッシュとは違い、かの有名なシングリッシュは健在です。「ネバマインラー(never mind, lah)や、「キャンキャン (can, can)」など賑やかな英語を話します。最近シングリッシュの本を買って多少勉強していますが、少々慣れが必要です。間違っても議論を吹っかけないほうがよろしいかと思います。彼らはれっきとしたイングリッシュスピーカーです。英語で渡り合う力は日本人よりはるかに上手です。
Q16.最後に今後の抱負についてお聞かせください。
ますます、当地や周辺国で日本が旅行先として知られてくることになると大変です。最近2010年を待たずして2020年に2,000万人?といったことも言われているようですが、今、必要と思うのは2010年1,000万人達成のためのプロジェクトを考えることでしょうか。これらは、日本国内で何ができるのかよく考えてSTBのようにバンバン新プロジェクトを立ち上げて、海外に情報発信してもらいたいと思います。それを伝えていくのが当所の役割でもあると思います。
「やまとごころ」はまさに旅行や観光を通じて世界に伝えたい私たちの「こころ」だと思います。貴重な機会を与えてくださりありがとうございました。多少なりとも今のシンガポールの状況がご理解いただければ幸いです。この市場がある程度成熟してきたら、マレーシアやインドネシアといった他の東南アジア諸国のレポートも出来ればと考えています。どうもありがとうございました。
取材へのご協力、誠にありがとうございました。
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