インタビュー
岐阜県最北端、飛騨市の飛騨古川で、英語を話すガイドと共に古い街並みや里山をめぐるツアー「SATOYAMA EXPERIENCE」が外国人観光客の人気を集めている。なかでも、地元の人が「なんもない」という田舎道を自転車で回るツアーは、3時間半で7600円と安くはないものの、昨年度の利用客は約3500人という人気ぶり。10年前の150人から20倍以上の集客に成功している。
なぜ、「なんもない」田舎に外国人が押し寄せるのか、SATOYAMA EXPERIENCEを運営する株式会社美ら地球の代表取締役社長 山田 拓氏にその理由を伺った。
走りながら、考える。実験を繰り返し、PDCAを回す
――今から10年以上前、飛騨古川に移住し、会社を立ち上げられとき、ここまで外国人の注目を集めるコンテンツになることを予想していましたか。
全く思っていませんでした。移住して2年後の2009年に、現在のSATOYAMA EXPERIENCEの前身となる「飛騨里山サイクリング」を始めたのですが、そのときは「どのような田舎がクールか」の基準すらありませんでした。
走りながら考え、Plan(計画)→Do(実行)→Check(振り返り)→Action(改善)のサイクルを回しつづけて10年。ようやく、全国の観光業の中でも“一歩先を行く”存在になれたと思います。
何か特別な技術があったわけではなく、日々の積み重ねと実験の繰り返しの結果です。まだまだ未完成ですが、登山するような感じで、これからも一歩ずつ進んでいきたいと思います。
地域住民との関係は、年月をかけ、互いに歩み寄ることで築いていく(1)
――地域に訪日外国人を呼び込むためには、地元の方たちの協力が欠かせないと思います。どのようにして巻き込んでいったのでしょうか。地域住民の「世論」が変化した瞬間はありましたでしょうか。
サイクリングツアーは、いきなり2倍、3倍となったわけではなく、年平均130%程度のスピードで、じわじわと成長していきました。その緩やかな増加ペースが、地域住民の方たちのペースとマッチしていた感覚はあります。特別に何か大きな変化があったというよりも、地道に少しずつ、取り組んできたという感じでしょうか。
いまでは地域の方たちが旅行者と交流して下さることもが多く、彼らの存在があってこそ、私たちはツアーをさらに思い出深いものにすることができています。
今年は特にツアー数も増えてきているので、協力してくださっている地域の方たちに負担をかけていないか、何か私たちに手伝えることはないか、常に考えています。スタッフが企画をして地域の草刈りや落ち葉拾いにも積極的に参加しています。『これをやればよい』という答えがあるわけではなく、本当に小さなことの積み重ねのような気がします。
何をすれば相手が動くのか、動く理由を見つけ提供する
――まずは、自分たちが地域住民の方たちのためにできることを行動していくことが必要、ということですね。
もちろん、自ら働きかけることが大切なのは、言うまでもありませんがですが、お互いが歩み寄ることが何よりも重要だと感じています。都会から来た人たちが、都会の感覚をそのまま地域に持ち込むことは不可能ですし、逆に受け入れる側である町の人たちも『郷に入りては郷に従え』の姿勢を崩さないようでは一向に話が進みません。では、どのようにすればよいのでしょうか。人は、理由が見いだせたら動いてくれます。その意味でも、相手に何を提供すれば地域の方に動いて頂けるのかを考え、こちらから働きかけることが大切です。
地元企業の強みを活かし、弱みをカバーし相互協力(2)
――先ほど、地域住民の方とうまくやっていくコツを教えていただきましたが、地元の企業とうまくやっていくコツもあるのでしょうか。
私たちが大切にしている信条は『人様のビジネスはやらない』ということです。なので、地元企業とのバッティングしないように気を付けています。飛騨古川には、歩いて観光客を案内するボランティアがいるため、私たちは『サイクリング』と住み分けをしています。
また、競合になることを避けるだけでなく、お互いの強みを生かし、協力して補完していくことも大切だと考えています。仮に私たちがツアー作ったとしても、交通網が発達していなければコンテンツは売れません。
そのため、地元のバス会社やロープウェイ会社など、単独では集客が難しい事業者の方と協働しツアーを組んだりしています。一方で、私たちの強みは外国人対応なので、外国人対応を得意としていない場所でのサポートに入るなど、お互いの弱点をカバーし、プラスオンしていく、という考えのもと協力体制を築いています。
外国人の需要にいち早く気づき、サービスを提供することが実現の一歩に(3)
――これらの一連の取り組みは、飛騨古川だからできたのでは、という風にも感じるのですが、他の地域でも再現できるものなのでしょうか。
SATOYAMA EXPERIENCEのような事例は日本全国で再現可能だと思います。
旅の口コミサイト“トリップアドバイザー”から、最高のサービスを継続的に提供し続けるホスピタリティ施設に対して授与される「エクセレンス認定」を7年連続で頂いているのですが、その中の5つ星コメントにこんな印象的なものがありました。
“Great Scenery, Great People, Great Guide!!(景色よし、人よし、ガイドよし!!)”
これは飛騨古川に限らず、日本全国どこででも実現できることだと考えています。
もちろん、私たちと全く同じことをしても実現は難しいかもしれません。その地域にあったやり方へのカスタマイズは必要です。ただ私が思うに、日本は、世界中の人々から独特の文化を持つ不思議で魅力的な国だとみられているので、どんな景色でもどんな場所でも、外国人の方々は興味をもつに違いありません。問題は、そうした圧倒的な需要に対して『供給』が追いついていないことにあるのではないでしょうか。
私たちは、外国人がもたらす需要にいち早く気がつき、サービスを提供できたからこそ、今があるのだと思っています。
少し先を行く存在として、成功事例や学びを共有し続ける
――最後に、これから地方でインバウンドを活性化したいと思っている方たちへメッセージをお願いします。
『地方創生』という言葉を掲げながらも、実際は「もう必要ない」と思っている方もいるのではないか、と感じるときがあります。外国人観光客はすぐ近くまで来ています。ただ、目の前まで来ている外国人に対して出来るはずのことを、まだやっていないだけではないでしょうか。
「インバウンドには興味があるのだけれど、やり方がわかりません」と相談されることがよくあります。少し厳しいかもしれませんが、そのようなことを言っている場合ではありません。とりあえず「やる」しかないのです。
だからこそ、私たちは『少し先を行く存在』として、実践を繰り返し上手くいった事例や、そこから学んだことを共有しつづける、そうありたいと思っています。その為にも、今後もローカルに軸足を置いた取り組みを続けていきたいと思います。
(取材を終えて)
今回のインタビューを通してSATOYAMA EXPERIENCEの事例が「地元住民」「地元企業」「訪日ゲスト」の3者とWin-Winの状態を作り上げたからこそ今がある、と改めて実感しました。
山田拓氏がトップを務められる株式会社美ら地球のテーマは「クールな田舎をプロデュースする」。
2007年に起業されてから、ちょうど10年目の節目にご自身と会社の歩みをまとめた書籍『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』を出版されました。
インバウンドに関わる方々が勇気を手にし、インバウンドへの新たな一歩を踏み出すヒントが詰まった1冊です。
株式会社美ら地球 代表取締役 山田拓 氏
総務省 地域力創造アドバイザー
内閣官房 クールジャパン・アンバサダー
2007年『クールな田舎をプロデュースする』をモットーに、株式会社美ら地球を飛騨古川に設立。インバウンドのお客様に向けてサービスを提供する「SATOYAMA EXPERIENCE」をプロデュースし、里山や民家など地域資源を活用したツーリズムを推進。多彩なプログラムの中で「飛騨里山サイクリング」は、リリース時からトリップアドバイザーで優良施設認定を受け続けるほか、グッドデザイン賞や環境大臣賞など、多方面から高い評価を受けている。
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