インタビュー

訪日客のレビューを生む仕掛け、3カ月でわずか3-4組から伸ばした三味線体験の現場の工夫

印刷用ページを表示する


ロックと三味線を掛け合わせた独自のスタイルで、国内外を舞台に三味線奏者として活動してきた寂空-JACK-さん。現在は、京都で訪日客向けの三味線体験施設を運営している。事業開始当初は3カ月で来客わずか3〜4組と苦戦したが、現場での試行錯誤を重ね、現在は高いレビュー評価を獲得しているという。

今回は、関係性づくりを軸に訪日客のレビューを生む工夫や、集客が伸び悩んだ時期の打ち手、顧客ごとに体験内容を変える現場での判断について話を聞いた。

 

海外での経験が土台に、訪日客向け体験につながった三味線奏者の原点

― 現在のお仕事とこれまでの経歴を教えてください。

津軽三味線奏者として国内外で演奏活動を行いながら、京都で訪日客向けの体験施設「三味線道場」を運営しています。三味線を始めて20年になります。

自身のことを「シャミセニスト」と呼んでおり、三味線のロックアレンジやバンドを組んでの海外ツアーなど、独自の活動を続けてきました。

ロックアレンジを取り入れた演奏スタイルのジャックさん▲ロックアレンジを取り入れた演奏スタイル。三味線の新たな表現に挑戦している

これまでに、アメリカの音楽レーベル主催のオーディション「COLOR RED Challenge」での優勝や、インド外務省の音楽プロジェクトへの参加、大阪・関西万博のステージ出演など、国際的な活動にも取り組んできました。

そもそも三味線を始めた背景には、民謡を続けていた祖母の存在があります。若い頃はロックに夢中でしたが、祖母の影響で三味線に触れていたこともあり、常に興味の対象の一つでした。また、「音楽で世界に挑戦したい」という思いもあり、日本の楽器である三味線の道に進みました。

国内外を舞台に活動を展開する寂空-JACK-さん▲国内外を舞台に活動を展開する寂空-JACK-さん

 

訪日客ニーズと競合の少なさに着目、京都で三味線体験を始めた理由

― 訪日客向けの体験事業「三味線道場」を始めた経緯について教えてください。

三味線道場のアイデアは、最初から計画していたものではなく、偶然から生まれたものです。きっかけは、2023年にインドへ3カ月ほど音楽の修行に行ったことでした。帰国直後、インドの友人を案内する機会に恵まれ、その時に改めて日本文化の奥深さや伝統的な街並みの美しさに気づかされたんです。

そのときに「自分はどのように日本の魅力を伝えられるだろう」と考え、三味線で日本の魅力を伝えたいと思うようになりました。そして、その舞台として選んだのが京都です。以前から大好きな場所でしたが、訪日客の増加を実感し、体験ニーズの高さも感じました。

調べてみると、英語で訪日客向けに特化した三味線体験は意外と少なく、可能性があると感じました。そこで2024年の2月に神奈川から京都へ移住し、準備期間を経て、その年の6月に体験事業をスタートしました。

 

一人ひとりに合わせて内容を変える三味線体験、会話から組み立てる現場の工夫

― 現在提供している三味線体験の概要を教えてください。

三味線道場のコンセプトは、「日本の“真”のおもてなしの心を海外に届けること」「三味線の魅力発信」「三味線を通して新しい自分を発見してもらう」の三つが軸になっています。これまで世界各国で受けてきた温かい歓迎を、今後は日本で返していきたいという思いがあります。同時に、まだ十分に知られていない三味線の魅力に触れてもらうきっかけをつくりたいと考えています。

また、意外かもしれませんが、外国の方でも音楽に苦手意識を持っている方が多くいらっしゃいます。そんな方たちの先入観を優しく壊し、門戸を開いてあげることも私の仕事の一つだと思っています。

現在は京都・西陣の古民家で、60分・90分の体験レッスンを中心に、オンラインレッスンも行っています。特に90分コースでは参加者に作務衣を着てもらうところから体験が始まります。昔ながらの古民家なので、急な階段なども含めて「日本のディープな空間に来た」という体験を楽しんでもらえればと思っています。

三味線道場の風景▲古民家で行われる三味線体験。日本らしい空間も魅力の一つ

レッスンの冒頭には、必ずアイスブレイクの時間を設けています。参加者の今回の日本旅行の話題や、これまでの音楽に関する経験など、5分ほど会話をしたうえで、その会話をもとにレッスンを組み立てるため、この時間をとても大事にしています。

例えば、テンション高く楽しそうに話す方であれば、リズム感のあるテンポの良いレッスンにしますし、瞑想やヨガが好きそうな落ち着いたタイプの方には、ゆっくり丁寧に三味線や和楽器の背景、歴史の説明なども交えながら進めていきます。マニュアル通りではなく、その場で一人ひとりに合わせてレッスンをつくっていくイメージです。

三味線道場は、こうした「心と心のコミュニケーション」を大切にしている点が特徴です。その結果、レビューでも高い評価をいただき、体験後に私の三味線ライブへ足を運んでくれる方もいます。単なる体験にとどまらず、人と人との交流を通じて日本文化に触れてもらうことを一番大切にしています。

 

三味線体験の参加者像。欧米圏中心に初心者が4割、初訪日客が中心

― 三味線体験には、どのような人がどういった理由で参加しているのですか。

参加者は欧米圏が中心で、アメリカやカナダ、ドイツ、フランス、イギリスに加え、北欧からの方も多い印象です。体験をきっかけに三味線を購入し、帰国後もオンラインレッスンを続けている方もいます。

年齢層は20代からシニアまで幅広く、訪日回数は初訪日が約7割、残りは訪日リピーターです。多くの参加者がその日初めて三味線に触れる方で、約4割は楽器自体も初めてという完全初心者です。

参加のきっかけは大きく三つあります。一つはアニメやゲームの影響です。作品の中で三味線の音が使われていたり、三味線を弾くキャラクターが登場したりすることもあります。『NARUTO』や『ワンピース』『鬼滅の刃』などの作品のBGMをきっかけに興味を持つ方も少なくありません。

二つ目はYouTubeなどインフルエンサーの発信、そして三つ目が「観光地とは違う体験をしたい」というニーズです。有名観光地を巡った後に、よりローカルで深い日本文化を体験したいと来てくれる方が多いですね。

最近では、プロの音楽家の参加も増えていて、武道館公演を終えたばかりの世界的なアーティストも三味線を習いたいと来場してくれました。レビューや動画をきっかけに、ギタリストやバイオリニスト、ピアニストなどの音楽家が三味線に興味を持って訪れることもあり、特徴的な傾向だと感じています。

三味線道場での体験の様子▲初心者からプロまで幅広い参加者が集まる三味線体験。交流を通じた学びの場となっている

 

3カ月で来客わずか3〜4組、苦戦期を乗り越えた集客の工夫

― 体験事業を始めた当初の利用状況はどうでしたか。

体験を本格的にスタートしたのは2024年6月ですが、最初の3カ月の実績は、来客が3〜4組というかなり厳しい状況でした。京都の夏の暑さの影響もあったと思いますが、そもそも三味線の認知度がまだ低く「どうやって知ってもらうか」に悩んだ時期でした。

そのため、近隣ホテルへの三味線道場の割引券の設置や街中での宣伝など、とにかく自分で動き続けました。また、京都市観光協会へ入会し、アドバイスをいただいたり、紹介をいただいたりするなど、地域のネットワークにも積極的に参加しました。結果的に、稼働が少ない時期に動いたことが後から効いてきたと感じています。

転機は2024年9月頃で、予約が一気に増え始め「これは信念を持って続けていく価値がある事業だ」と手応えを得られました。

― 現在の集客方法について、教えてください。

現在の集客は、Airbnb、Viator、自社サイトの3つが中心で、ほぼ均等に予約が入っています。時期によってプラットフォームごとに波があるため、複数チャネルを持っていてよかったと感じています。こういった観光業ならではのアイデアは、京都で忍者をテーマに体験施設を運営する先輩事業者のアドバイスによるものです。その施設でアルバイトをしながら今でも多くのことを学ばせてもらっています。

自社サイトについては、カナダ人の元バンドメンバーがWebデザイナーになったことをきっかけに制作をお願いし、2025年から運用を始めました。英語表記で外国人目線も反映されていることから、ダイレクト予約の増加につながり、売上にも寄与しています。

参加者は欧米圏が中心ですが、Airbnbでは台湾や中国、香港などアジア圏の方も比較的多く、チャネルごとの違いを感じています。

また、三味線の認知度はまだ高くありませんが、自社サイトを中心に6〜7割の方は三味線がどのようなものかを理解した上で参加しています。一方で、Airbnb経由の方は、宿を探す中で体験が表示され「面白そう」と直感的に予約する人が多いです。そのため三味線がどのようなものかを知らないまま参加されるケースも多く、流入経路によって関心度に違いがあると感じています。

 

レビューはお願いしない。訪日客が自然に書きたくなる関係性のつくり方

― 体験事業でのゲストをもてなす上での心がけを教えてください。

まず大切にしているのは、ゲストと「旅先で出会った友達のように接すること」です。これは私のスタンスであると同時に、戦略でもあります。体験事業ではレビューが重要ですが、私は営業的にレビューをお願いする方法があまり得意ではありません。自分自身をお客さんの立場に置き換えて考えると、知らないお店から頼まれてもなかなか書かない一方、友達に頼まれたら「書いてあげようかな」という気持ちになりやすいのではないかと思います。無理にお願いするのではなく、「書いてあげたい」と自然に思ってもらえる友達のような関係性をつくることを意識しています。ただし、相手の雰囲気や立場に応じて、フランクさと節度のバランスは常に意識しています。

もう一つ大事にしているのは「相手の話をしっかり聞くこと」です。訪日客の中には、日本滞在中に言語面でストレスを感じている方も多いと思います。日本では英語で自然に会話できる場面がまだ多くないため、「やっと日本人と英語でストレスなく話すことができた」と喜んでくれる方も少なくありません。

普段の仕事や旅の感想、なぜ三味線に興味を持ったのかなど、皆さん楽しそうに話してくれます。その話をしっかり聞き、相づちを打ちながら、自分の話も少し交えて会話を続けています。三味線の体験だけでなく、その時間全体を通じて「いい出会いだった」と感じてもらえる体験を提供したいと思っています。

ジャックさんと参加者の様子▲参加者一人ひとりに合わせて進められるレッスン。対話を重視した指導が特徴

 

作務衣・古民家・即興演奏。「日本らしさ」と余白で体験価値を高める工夫

― そうした関係性づくりに加えて、体験の満足度を高めるために工夫されていることはありますか?

ゲストに作務衣を着てもらったり、古民家の道場で体験を行っているのも、その一環です。自身が海外に行ったとき、その国らしい空間や服装の中で体験したいと感じるように、日本に来た方にも「日本らしさ」をしっかり感じてもらいたいと思っています。作務衣や古民家、レッスンの合間にお出しする煎茶など、分かりやすく「日本らしさ」を感じてもらえる演出を意識しています。

また、会話から生まれるちょっとしたサプライズも大切にしています。例えば、ゲストが好きだと言っていたバンドの曲を、その場で三味線アレンジにして演奏することもあります。そうした体験が、より印象に残る時間につながっていると感じています。

この体験で目指しているのは、内容を詰め込むことではなく「いい時間だった」と思ってもらうことです。教えることだけに偏らず、余白やゆとりを持たせながら、全体の時間を楽しんでもらうことを大切にしています。

 

1対1の対話と即興演奏が生む、三味線体験ならではのやりがい

― 体験事業を通して感じるやりがいは、アーティストとは異なるものがありそうですよね。

そうですね。コンサートは1対多数ですが、三味線道場は和室で60分〜90分、海外の方と1対1で向き合う時間です。この距離感は、アーティスト活動とはまったく違う魅力があります。

会話を通じて相手の文化や価値観に触れたり、彼らの視点から日本の美しさを再発見できたりするのも大きなやりがいです。

中でも印象的なのは、最後に行う即興演奏です。その日学んだ音を使って一緒に演奏するのですが、思いがけない表現が生まれることも多く、私自身が驚いたり感動したりする場面も少なくありません。

こうした体験を重ねる中で、「音楽は世界共通の言語」という言葉は本当なのだと実感するようになりました。悲しい、嬉しい、切ないといった音楽の感覚は、国や地域が違っても同じなのだと感じています。この感覚を得たことは逆にアーティストの自分にも大きな影響をもたらしていると感じています。

また、三味線道場を通じて世界中に人とのつながりが生まれたことも大きな財産です。これまで約30カ国以上の方が参加し、多くの方と連絡先を交換しています。「自分の国に来たら泊まりに来てね」と声をかけてもらうことも多く、世界中に仲間ができたような感覚があります。

振り返ると、三味線道場は当初の想像以上に豊かな場になりました。今では、三味線だけでなく「アーティストとしての自分自身」も含めて体験の価値になっていると感じています。レビューを読むと、多くの方が三味線だけでなく私自身についても書いてくれていて、世界で演奏してきた経験がこの体験の価値につながっていると実感しています。だからこそ、このスタイルをどう広げていくかという葛藤もありますが、今はこの場所でしか生まれない時間を大切にしていきたいと思っています。

三味線道場で指導をするジャックさん

 

感動体験はどう生まれるか、現場での工夫と新たな取り組み

― 今後、どのような活動を展開していきたいと考えていますか?

次の展開として構想しているのは、世界でも非常に珍しい「音楽体験リトリート施設」を京都で開業することです。和楽器のコーチングをしてくれるスタッフが常駐し、参加者は宿泊をしながら日本の美意識や精神を音楽を通して、京都の景観とともに体感できる空間を目指しています。

旅が好きな私自身の経験から生まれた発想です。実現には資金や時間、そして多くの挑戦が必要になりますが、先輩たちの助言をいただきながら実現に近づけられたらと思っています。

― 観光の現場に立つ立場から、今この業界に関わっている方、そしてこれから観光業界を志す方に向けて、伝えたいメッセージがあればお願いします。

三味線道場を運営していて感じるのは、観光体験というより「感動体験」を提供することの大切さです。

印象に残る体験は、必ずストーリーと一緒に語られます。例えば5年後、10年後に「日本でこんな先生に出会って、こんな体験をした」と話してもらえるような記憶をつくれたら理想です。単に体験を商品として販売するだけでは一過性で終わってしまうので、もう一歩踏み込んで「日本人として世界に何を伝えたいか」を念頭に、心に残る体験にするための工夫が大切だと思います。

そのためには、自分自身の経験を増やすことも重要です。海外に行ったり、日常の中で外国人と関わったりする中で引き出しを増やしていくことで、現場での柔軟な対応につながります。例えば、視力の問題などで3本の糸の見分けがつきづらい方にはその場で弦を減らして 1本にしてあげたり、高齢で三味線が重くて大変そうな方には、軽いタイプの三味線に変えてあげたりと工夫していますが、こうした対応はマニュアルだけでは難しい部分です。

また、宗教や文化、価値観の違いへの理解も欠かせません。本やニュースなど通してさまざまな事を学び、実際に現地の人と会話しながら感覚を身につけていくことが大切だと感じています。

こうした経験の積み重ねが体験の質を高め、より印象に残る時間につながるのではないかと思います。観光体験は、設計次第で人生を変える感動体験になります。観光に関わる方には、ぜひ視野を広げながら深い体験づくりに挑戦し、世界に向けて日本の魅力を一緒に広めていけたら嬉しいです。

 

最新のインタビュー