インバウンド特集レポート
安全対策、体験を通してタイを知る、アフター7市場
①旅行者専用の安全対策
旅行者の安全管理においては、今回の政情不安の以前から“旅行者専用のツーリストポリス”がある。通常の警察とは別に、繁華街や観光スポットに駐在所が設置され、24時間のコールセンターもある。特に、今回の政情不安においては、このコールセンターの電話番号を旅行者に伝え、不安の解消につながっている。
日本も2000万人、3000万人を目指していく際にはこのような専門の安全管理システムも必要となってくると思われる。
②タイならではの体験 – 「Thainess」の進化
タイのここ数年のプロモーションコンセプトは「Thainess」。文字通り「タイらしさ」を味わうということだが、TAT東アジア局長・シースダー・ワナカピンコーサック氏は、「ただ観光する、ということから、体験により深い魅力を知ってもらうこと」と語った(※TTM日本記者懇談会より)。
例えば、おいしいグルメを味わうだけでなく、料理教室により食材が持つ効能やヘルシーさを学ぶ。エレファント・トレッキングを楽しむだけなく、象とタイの人々との生活がいかに結びついているかを知る。ムエタイ観戦だけではなく、実際に自身で体験し、そこに息づく精神性を学ぶ。これらは、リピーターが多い成熟したマーケットで求められることであり、旅行の醍醐味の本質的な部分である。
タイのホテルでは、クッキングクラスを体験プログラムとして行っているところも多い。
日本では、着物着付けや茶道体験といったところだろうか。
「○○らしさ」を体感させる手法は、ツーリズムの本質的な部分である。対象国相手にトライをしながら、追求していくと間違いなく満足度はあがっていくだろう。

グリーンカレーの素材の特徴を学びながらのクッキング教室。イタリア人もトライ。島全体がリゾートのSantya Kao Yaoで
③アフター7が充実

「アジアティーク」では、欧米人はパブで盛り上がっている姿をよく見かける
「日本は夕食後、ショッピングや散策、ショーを観るなどの場所が少ない」とアフター7の過ごし方は課題となっている。
タイはその点「夜こそ暑さもしのいで観光本番」とばかりに街がにぎわう。ショッピングでは22時ころまで開いているデパートやモールも多く、夜店で有名なパッポンストリートやマッサージ店も深夜までオープン。ショーやライブなどのエンターテインメントも随所にある。
2012年にできた人気のショッピングスポット「アジアティーク」。チャオプラヤ川に面するここは、小さな店が立ち並び、22時過ぎまで買い物が楽しめ、フードコートやパブ、レストランもある。地元タイ人にも大人気で、平日でも多くの人が詰めかけ、週末はごった返すほどの人気だ。
ここにはニューハーフショーなどのシアター「カリプソ」が常設されている。華やかで、コミカルなショー構成もさることながら、日本人には「川の流れのように」を、韓国人には「アリラン」を感動的にみせていくなど、観客が多い国別に盛り上がる演目を工夫している。この手のエンターテインメントショーが日本にはまだまだ少ない。ノンバーバルに楽しめるカジュアルなショーということで、ロボットレストランが人気になっているのかもしれない。

衣装やステージの演出にも工夫が凝らされている「カリプソ」

6月5日木曜日21時半に行くと、お祈りするタイ人、それをみる観光客が広場にあふれていた バンコクの街中にも必見のスポットがある。「恋愛の神様」として若者に人気のパワースポット・セントラルワールド伊勢丹前にあるトリムルティの祠だ。昼夜問わず広場にお祈りの人が集まるが、特に夜が多い。一番効力があるという木曜の21時半に行ってみると、赤いバラと赤い蝋燭を9本ずつ供える人たちは広場にあふれ、その光景を一目見ようと世界からの観光客も集まっていた。ここでは毎日お祭りが繰り広げられているといってもいいだろう。旅の面白さは、現地の人では当たり前の、しかしそこでしか体験できない生活文化を垣間見ることにある。タイでは、アフター7にそれが楽しめるスポットも多い。
宿泊施設施設の充実、ショッピング天国、メディカルツーリズム、団体の受け入れ
①ホテルの豊富さ、サービスアパートメントの充実
一流、老舗のホテルから中流、コストパフォーマンスが高いビジネスホテル、そして最近はサービスアパートメントまで宿泊施設のレンジが多彩で、豊富な点もタイの素晴らしいところだ。特にサービスアパートメントは、長期滞在向けだが、agodaなどで一泊から予約ができ、最近は朝食を出すところも出てきた。団体、FITでも使いやすい形になっている。
また、バンコクやリゾートでは現代アートを随所にちりばめたラグジュアリーホテルも登場し、世界各国からの人気を集めているという。

バンコクのPullmanG Bankokはフランス人アーティストの作品が随所に展示されている。最近はタイ人のウェディングが集めているとのこと
②ショッピング天国・タイ
これは香港も該当すると思うが、ショッピング好きの国民の自国には、さまざまなタイプのショッピング施設があふれている。次々と新しいショッピングコンプレックスができて、今後完成予定も目白押しだ。
今年完成した「セントラル・エンバシー」には、ふたつの巨大な吹き抜けを中心にした回廊に高級ブティックやショップが並ぶ。ここには、「ONITSUKA TIGER」やラーメン「一風堂」(8月オープン)、寿司屋など、日本にゆかりのある店も多く出店している。
ここで驚くのは、高価なブティックショップで、タイ人がバンバン購入していることだ。
ブランドごとに比較してみると、日本の方が2割~3割くらい安いものが多い。日本製のもの、あるいは日本が安い品は日本で買ってくれるはずだ。

写真はCentral Embassy。タイのみならず東南アジアでは吹き抜けをメインにした巨大ショッピングコンプレックスが多い。また、タイ人は靴も好きでディスプレイが購買意欲をそそられる
③病院のサービスレベルが高い
この視点は、前回の特集で登場した現地在住・イオンクレジット顧問の石亀智氏からの情報によるもの。海外旅行保険でのキャッシュレスサービス、24時間受付、各国の通訳が常勤しているという旅行者にとって安心のシステムがある。日本人医師も在籍する病院や日本語対応ができるタイ人医師のいる病院もある。しかも病院自体も清潔で設備の充実しており、対応も迅速とのこと。この点は一朝一夕にはできないので、日本においても首都圏だけでなく地方でも拡充していきたいところだ。
④団体旅行向けのサービス施設が多数
これはまさしく日本が不足している点。大型バスはもちろん、団体向け食事ができるレストランが豊富に揃っている。日本人をはじめ、団体旅行を受け入れてきた歴史が長いゆえにオペレーションもスムーズとのこと。今では、中国人団体を乗せたバスが頻繁に行き来しているのをよく見かける。
タイと日本のツーウェイツーリズム
前回のタイの特集と今回を通して、タイと日本はお互いにひかれあう両想いの関係にあることを検証してきた。やはり恋愛でも旅行でもどちらかが片思いばかりだと長続きしない。そういった意味で、タイと日本は永続的に旅行者が行き来しあう関係を続けていけるのではないかと思う(ただし、お互いの努力が必要である)。

バンコクのH.I.S。タイ人向けに日本のツアーや航空券を販売している。対面式のカウンターがあり、盛況だった 今回の政情不安で、日本人観光客は減少したが、航空路線はタイ人旅行者の増加によりむしろ拡充されている。JTBやHISなどの日本発の旅行代理店はインもアウトも行いながら、より発地側の視点にたった 商品を提供し、タイ人の人気を集めている。
また、微笑みの国・タイのおもてなしは、日本の精神性と通じるおおらかな優しさがあり、お互いに心地よさを感じるのではないだろうか。
その関係性に安住することなく、もっと日本ファンになってもらうために、タイ人の声をさらにきいて関係向上に努めていきたい。
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