インバウンド特集レポート

農家が空港ショップで訪日客にフルーツ販売 国内農業の活性化へつなげる

2018.05.09

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前回は東南アジアでの日本フルーツの人気ぶりと日本のフルーツの輸出事情について解説した。本編では、空港ショップを日本の良質な産品を海外に発信する場として活用している事例を紹介する。

 

成田空港で日本のフルーツ販売開始

今年1月15日、成田空港第2ターミナルで日本のフルーツ販売が始まった。販売しているのは、JALグループの空港店舗「BLUE SKYおみやげプラザ」。日本のフルーツを検疫なく持ち込める、主に香港やシンガポールなどの訪日客をターゲットにしている。

今年2月の売上トップは香港で全体の50%、以下タイ17%、3位は意外や日本人7%だったという。日本人の中にも海外の知人へのおみやげとして日本のフルーツを選ぶ人がいたことがわかる。また香港がトップであることは、KNT-CTグローバルトラベルのフルーツ狩りの参加者と共通しており、興味深い結果といえる。福岡県などが早い時期から香港市場で同県産のイチゴ「あまおう」のPRに力を入れていたことも背景にあるようだ。

同店を運営する株式会社JALUXエアポートの井上龍スーパーバイザーは「羽田の国際化で成田空港はビジネス客が減る一方、訪日客の増加で空港ショップのターゲットが日本人から外国人に大きくシフトした。現在は売上の大半が外国人。当然、店に置く商品も訪日客向けに変わった。空港ショップは日本の良質な産品を海外に発信する場としての役割を担うようになった」と日本のフルーツ販売に至った理由を語る。

同店にフルーツを納入しているのは、茨城県つくば市で農産物直売所「みずほの村市場」を運営する株式会社農業法人みずほとその子会社の株式会社みずほジャパンだ。

みずほジャパンの篠原隆志事業開発部長は、日本の青果物の輸出が増えない理由として以下の3つの課題を挙げる。

1. 農家が主役となり、儲かり、わくわくする舞台がない
2. 農家のこだわりを、外国人に知ってもらうPR手段がない
3. 一度だけでなく、買い続けてもらう販売のしくみがない

同法人はその解決手段として、国際空港に農家の直売所をつくり、訪日客へのPRと販売の場とすることを提案し、JALグループとのコラボが実現したのだった。両者は昨年4月から話し合いを始め、何度かフルーツの試験販売を行った後、今年から常設販売が始まった。

4月現在はイチゴを販売しているが、今後はメロンや桃など季節に合わせて並べていく

4月現在はイチゴを販売しているが、今後はメロンや桃など季節に合わせて並べていく

 

みずほジャパンと契約した農園のイチゴを販売

みずほジャパンと契約した農園のイチゴを販売

 

JALグループとのコラボで朝摘み空輸を実現

篠原部長によると、今回のプロジェクトには以下の3つのステージがあるという。

1.Take Me Home(空港での出逢い)…訪日客のゲートウェイである空港での販売を通じて日本のフルーツの認知を向上させる
2.Buy Me Home(海外で再会)…成田発日本航空貨物便で朝摘み果物を空輸し、みずほジャパンのバンコク店で販売する
3.Visit Me Home(農園で再会)…日本のフルーツのファンとなった海外の人が生産農家を訪ねるグリーンツーリズムにつなげる

みずほジャパンのバンコク店は、同社が農産物を調達、輸送、販売までを担い、2014年に現地で開業した販売店だ。日本航空の貨物便を使えば、朝摘みのフルーツを翌日昼にはバンコクの消費者に届けることができるというわけだ。

篠原部長は「日本のイチゴは見た目のサイズの大きさと色が魅力。しかも、鮮度があって、完熟した状態で海外でも販売できることが重要だった」と語る。国内農家→海外直売所→現地消費者という流通の仕組みを構築することで「農家が主役となり、儲かる」輸出の実現を目指す。

現在は成田空港にある「BLUE SKY」のうち4Fおみやげプラザと1F南到着ロビー店のみの販売だが、今後は出国手続き後の搭乗ロビーでも販売を計画。さらには、他の国際空港でも同様の仕組みを運用していくことで全国の農家に輸出の機会を提供することを考えているという。

すでに述べたとおり、日本の農林水産品の輸出には多くの課題がある。航空会社と流通業者がタッグを組み、拡大するインバウンド需要と結びつけたこうした取り組みが新しいモデルケースとなって全国に普及していくことが期待される。

 

Text:中村正人

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