インバウンド特集レポート

地域を“見える化”するビッグデータの活用とミクロデータマーケティングの重要性

2018.06.08

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前回は、旅行者の行動をビッグデータ化し、その傾向から次の一手を提案していくナビタイムジャパンの事例を紹介した。今回は、実際にデータを活用しているDMO(Destination Management/Marketing Organization)や商店街の取組みを紹介する。

 

docomoの携帯ローミングデータを数値化する

モバイル空間統計(※1)は携帯電話の繋がる仕組み(※2)の中で生成される運用データを活用して集計される統計情報であり、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングが2013年10月より提供している。訪日外国人旅行者が海外より持ち込んだ携帯電話のうち、日本国内でNTTドコモの携帯電話ネットワークに接続したものがサンプル対象になる。

昨年1年間の訪日外国人数約2,869万人に対して、入国から出国まで途切れることなく捕捉できたおおよそ750万のローミング端末がサンプルとなるためサンプル数が多く、データの信頼性は高い。

地域の観光産業を先導するDMO(Destination Management/Marketing Organization)には、データを継続的に収集しながらKPIを設定して、PDCAサイクルを確立することを国交省から求められている。その要求に対し、モバイル空間統計で分析している事例である。

※1「モバイル空間統計」は株式会社NTTドコモの登録商標
※2 各基地局のエリア毎に所在する携帯電話を周期的に把握

 

熊本県八代市では、データ分析で外国人の動向を把握

さて、ドコモ・インサイトマーケティングが手掛けたビッグデータの活用事例を紹介しよう。熊本県の八代市のDMOやつしろとドコモ・インサイトマーケティングが直接取り組んだ案件だ。八代市は、熊本県南部に位置し、12万9千人(2016年10月末統計)と熊本県第2位の人口を持ち、2016年に発足したDMOやつしろがデータ活用に積極的だ。稼ぐ力の強化、地域間連携、マーケティング、プロモーションの4本の柱を観光戦略に掲げ、特にマーケティングに注力していて、ビッグデータの活用になった。

八代市には中国からのクルーズ船が急増し、観光に力を入れるようになり、DMO設立に至っている。クルーズ以外の外国人観光客の動向を探るため、2016年1月〜12月の外国人観光客の動態分析の依頼があった。サンプル数としては、5057のローミングデータだった。

分析を担当したDMO八代の岩本氏は、前職で福岡県観光連盟のDMO専門員として実績をつんできた方だ。同氏によると、手順としては、以下のように3つあった。

1つ目は、「仮説」を立てる。今回であれば、外国人客は鹿児島の温泉から観光で立ち寄るのではないか、というもの。

2つ目は、収集したデータの「検証」だ。実際には、福岡から南下してくる人の割合が高かったこと、他に湯布院や別府を周遊する人が多いことが分かった。また、八代に2時間以上滞在する外国人来訪者の国・地域は、韓国がトップで、次に台湾、続いて、中国、香港、ベトナム、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、シンガポールと多様な国からだった。

3つ目が、次なる「打ち手」を考える。まだ実行はしていないが、例えば、福岡空港でのプロモーションの強化、次回のホームページ改修の際には、熊本に加え、福岡、大分の情報を厚くしていくなどがあげられる。

このように重要視するマーケティングの目的は、勘や経験、感覚ではなく、データを基にした施策・事業を行い、八代の各エリアへの動態調査などで地域を“見える化”し、客観的なデータで、地域の優位性を見つけていくことである。

 

商店街では、ミクロなデータ分析が売り上げに直結する?

さて、ビッグデータの活用は、大きな流れを把握するのには効果的だが、一方で、各施設が売り上げにつなげるには具体的ではない。マクロを把握しつつミクロなデータマーケティングも重要である。商店街では、実際にその場にいる訪日外国人への調査をしてニーズを掘り下げていくことも重要だと、福岡で長年インバウンド事業に関わる株式会社インアウトの帆足副社長は言う。

東京の「かっぱ橋道具街」では免税カウンターを活かしたデータマーケティングを行い、売り上げ増加につなげている事例がある。この商店街には、全国の食器や道具がならんでおり、料理好きな外国人観光客も包丁をはじめとした料理道具を求めて足を運ぶ。そこに一括免税カウンターを設置したことで、マーケティングデータの蓄積にもつながっているのだ。

免税カウンターにやって来た外国人旅行者は、還付金のためにレシートとパスポートを提示する必要がある。その購買履歴と外国人の属性が紐づいて数値化され、マーケティングデータとして目に見えるようになった。各自の店舗の情報だけではなく、商店街の参加店すべてのデータを共有することができるのだ。

データの分析により、例えば買い物客の7割が欧米からで、3割がアジアからだとわかった。また、月ごとの売り上げの推移、どの国の人が何をどのくらい購入したのかがわかる。買い物客を年齢別でも把握できる。

免税カウンターを運営する株式会社インサイト・プラスは、参加店舗にこれらのデータを毎月フィードバックし、各店舗は、売り上げが見込める国の言語でPOPやポスターを店頭に掲げて誘客につなげるなど、積極的な活用をしている。

インバウンドでは、マクロからミクロまで、科学的知見によるデータマーケティングがますます重要になってくるだろう。今後、データ分析による新しい打ち手が効果的かどうかも継続して見ていきたい。

(Text:此松タケヒコ)

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