インバウンド特集レポート
2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京五輪など、これから数年、日本ではメガ・イベントが目白押しだ。これを契機に日本のスポーツツーリズムを盛り上げたいという機運がある。とはいえ、スポーツにもいろいろある。外国客は日本でどんなスポーツを体験したいのか。スポーツ庁の海外マーケティング調査を基にあるべき方向性を考えてみたい。(執筆:中村正人)
講道館が世界の柔道ファンのあこがれの地!
6月上旬の日曜、文京区春日にある講道館で恒例の春季紅白試合が開催されていた。男子、女子、少年の部に分かれた約600名の柔道選手が勝ち抜き戦を行
2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京五輪など、これから数年、日本ではメガ・イベントが目白押しだ。これを契機に日本のスポーツツーリズムを盛り上げたいという機運がある。とはいえ、スポーツにもいろいろある。外国客は日本でどんなスポーツを体験したいのか。スポーツ庁の海外マーケティング調査を基にあるべき方向性を考えてみたい。(執筆:中村正人)
講道館が世界の柔道ファンのあこがれの地!
6月上旬の日曜、文京区春日にある講道館で恒例の春季紅白試合が開催されていた。男子、女子、少年の部に分かれた約600名の柔道選手が勝ち抜き戦を行った。

春季紅白試合は年に2回行われる
会場には日本の観客に加え、多くの外国人が詰めかけていた。柔道着姿の武道家らしき人たちから若い女性や子供までいて、次々に繰り広げられる試合をスマートフォンで動画に撮る姿が見られた。講道館の紅白試合は外国人も参加できる。友人が試合に出るというので、会場を訪れる外国人もいるのだ。

若い外国人親子が観戦する姿が見られた 海外の柔道関係者も訪れている
柔道の世界的な大本山である講道館では、平日午後4時から8時まで一般稽古が行われ、参加する外国人の姿も見られる。館内には柔道資料館や図書館もあり、自由に入場できる。なかでも海外の武道ファンの間で人気なのが、嘉納治五郎師範の像の前での記念撮影である。

嘉納治五郎師範の像は外国人の撮影スポット
柔道は日本発祥の競技としてリスペクト
なぜ、これほどまでに嘉納治五郎が、外国人に人気なのか。
嘉納治五郎が講道館柔道を起こしたのが1882年で、そのわずか7年後の1889年に、嘉納は柔道普及のため初めてヨーロッパへ渡ったと記録がある。また、嘉納は1909年にアジア初の国際オリンピック委員会(IOC)の委員となるなど、柔道の国際化に向けた取り組みをしてきた。
現代では世界中に普及し、海外の柔道人口が日本より上回っていて、国際柔道連盟の加盟国・地域が199カ国もある(2007年9月現在)。日本以外では、韓国、欧州、ロシア、キューバ、ブラジルで人気が高く、特にフランスの登録競技人口が50万人を突破し、全日本柔道連盟への登録競技人口20万人を大きく上回っている。
外国人にはその国独自のスポーツが魅力
講道館でこれらの光景を眺めているとき、筆者は2年前の7月に訪れた中国内モンゴル自治区の草原で見たモンゴル相撲のナダムを思い出した。ナダムとは毎年夏に行われるモンゴル民族の祭典だ。競馬と弓術、相撲の3種の競技が草原を舞台に繰り広げられる。
だが、ほとんどのナダムはいつどこで開かれるか現地にいてもなかなかわからない。この時期、各地で開催されているのだが、日程や場所は地元の人間だけが知っていて、情報が公開されているわけではないのだ。

ナダムで最も人気が高いのがモンゴル相撲だ(撮影/佐藤憲一)

ふだんはなにもない草原にテントを張って大会が開催される(撮影/佐藤憲一)
見渡す限り一面、パオと羊の群れだけが点在するだけの大草原の中で、献身的なガイドの電話による情報収集の結果、チャーターした車を数時間走らせ、ようやくナダムの会場にたどり着いたときの喜びは大きかった。
そこまでしても見たいのがその国独自のスポーツである。これは日本を訪れる外国客にとっても同じことだろう。異文化体験を求めてさまようのがツーリストの特権である。この種のスポーツほど人の心をつかむコンテンツはないのである。
注目されているスポーツツーリズム
こうした旅の体験をスポーツツーリズムという。スポーツの参加や観戦を目的とした旅行や、地域資源とスポーツを融合した観光を楽しむこと。スポーツを楽しみ、大会に参加し、参加者を応援する。プロスポーツを観戦し、イベントのボランティアをするなど、スポーツにはさまざまな関わり方があるが、こうした体験と観光をかけ合わせた旅行といえる。
スポーツツーリズムが日本を訪れる外国人に大きな満足度を与えていることについては、以下の観光庁の調査が物語っている。
「訪日外国人の消費動向」(平成29年次報告書)によると、満足度の高い体験のうち、「日本の日常生活体験」(91.3 %)「日本食を食べること」(91.2%)「テーマパーク」(91.0%)などが上位に挙がっているが、「スキー・スノーボード」(90.8%)「その他スポーツ」(90.5 %)「スポーツ観戦」(89.9 %)などのスポーツに関わる体験もきわめて高い。
さらにいうと、これらのスポーツ体験は「ショッピング」(87.2%)や「日本のポップカルチャーを楽しむ」(89.0%)より満足度が高いようである。
次回は、どのようなスポーツ体験の満足度が高いのかを探っていく。
った。

春季紅白試合は年に2回行われる
会場には日本の観客に加え、多くの外国人が詰めかけていた。柔道着姿の武道家らしき人たちから若い女性や子供までいて、次々に繰り広げられる試合をスマートフォンで動画に撮る姿が見られた。講道館の紅白試合は外国人も参加できる。友人が試合に出るというので、会場を訪れる外国人もいるのだ。

若い外国人親子が観戦する姿が見られた 海外の柔道関係者も訪れている
柔道の世界的な大本山である講道館では、平日午後4時から8時まで一般稽古が行われ、参加する外国人の姿も見られる。館内には柔道資料館や図書館もあり、自由に入場できる。なかでも海外の武道ファンの間で人気なのが、嘉納治五郎師範の像の前での記念撮影である。

嘉納治五郎師範の像は外国人の撮影スポット
柔道は日本発祥の競技としてリスペクト
なぜ、これほどまでに嘉納治五郎が、外国人に人気なのか。
嘉納治五郎が講道館柔道を起こしたのが1882年で、そのわずか7年後の1889年に、嘉納は柔道普及のため初めてヨーロッパへ渡ったと記録がある。また、嘉納は1909年にアジア初の国際オリンピック委員会(IOC)の委員となるなど、柔道の国際化に向けた取り組みをしてきた。
現代では世界中に普及し、海外の柔道人口が日本より上回っていて、国際柔道連盟の加盟国・地域が199カ国もある(2007年9月現在)。日本以外では、韓国、欧州、ロシア、キューバ、ブラジルで人気が高く、特にフランスの登録競技人口が50万人を突破し、全日本柔道連盟への登録競技人口20万人を大きく上回っている。
外国人にはその国独自のスポーツが魅力
講道館でこれらの光景を眺めているとき、筆者は2年前の7月に訪れた中国内モンゴル自治区の草原で見たモンゴル相撲のナダムを思い出した。ナダムとは毎年夏に行われるモンゴル民族の祭典だ。競馬と弓術、相撲の3種の競技が草原を舞台に繰り広げられる。
だが、ほとんどのナダムはいつどこで開かれるか現地にいてもなかなかわからない。この時期、各地で開催されているのだが、日程や場所は地元の人間だけが知っていて、情報が公開されているわけではないのだ。

ナダムで最も人気が高いのがモンゴル相撲だ(撮影/佐藤憲一)

ふだんはなにもない草原にテントを張って大会が開催される(撮影/佐藤憲一)
見渡す限り一面、パオと羊の群れだけが点在するだけの大草原の中で、献身的なガイドの電話による情報収集の結果、チャーターした車を数時間走らせ、ようやくナダムの会場にたどり着いたときの喜びは大きかった。
そこまでしても見たいのがその国独自のスポーツである。これは日本を訪れる外国客にとっても同じことだろう。異文化体験を求めてさまようのがツーリストの特権である。この種のスポーツほど人の心をつかむコンテンツはないのである。
注目されているスポーツツーリズム
こうした旅の体験をスポーツツーリズムという。スポーツの参加や観戦を目的とした旅行や、地域資源とスポーツを融合した観光を楽しむこと。スポーツを楽しみ、大会に参加し、参加者を応援する。プロスポーツを観戦し、イベントのボランティアをするなど、スポーツにはさまざまな関わり方があるが、こうした体験と観光をかけ合わせた旅行といえる。
スポーツツーリズムが日本を訪れる外国人に大きな満足度を与えていることについては、以下の観光庁の調査が物語っている。
「訪日外国人の消費動向」(平成29年次報告書)によると、満足度の高い体験のうち、「日本の日常生活体験」(91.3 %)「日本食を食べること」(91.2%)「テーマパーク」(91.0%)などが上位に挙がっているが、「スキー・スノーボード」(90.8%)「その他スポーツ」(90.5 %)「スポーツ観戦」(89.9 %)などのスポーツに関わる体験もきわめて高い。
さらにいうと、これらのスポーツ体験は「ショッピング」(87.2%)や「日本のポップカルチャーを楽しむ」(89.0%)より満足度が高いようである。
次回は、どのようなスポーツ体験の満足度が高いのかを探っていく。
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