インバウンド特集レポート
近年、自治体や企業などがインバウンド誘致を図る上で欠かせないSNSでの情報発信。しかし、その発信手法はさまざまで、どのようなアプローチをしたら外国人の心をつかめるのかがわからず、四苦八苦している人も多いだろう。そんな中、独立行政法人中小企業基盤整備機構東北本部は、SNSを活用した具体的な情報発信に関するマニュアル「外国人による情報発信(SNS活用)マニュアル~台湾編~」を作成し公開した。
ここでは(1)留学生(在日外国人)編(2)観光事業者編(3)行政・観光協会等編の3つの中から、特に役立ちそうなポイントをピックアップして紹介する。
<第一部:留学生(在日外国人編)>
ここでは、留学生など在日外国人が、SNSを通じて情報を発信する際に気を付けるべき点を紹介。なお、特別なカメラや機材は使わず、スマートフォン搭載のカメラでの投稿を想定したものだ。
スマートフォンでもできる好印象な写真の撮り方と情報発信のポイント
・好印象を与える写真の撮り方
まず、下の写真にある「悪い例」と「良い例」を比べてみよう。悪い例では赤い丸で囲まれている部分のように、無駄な要素が写真に写り込んでいるため、写真に集中できない。また、光の当たり方が悪く、全体的に色味が暗いことで悪印象を与えてしまう。一方で良い例では、光の当たり方や被写体の配置が計算されており、写したいものが映えている。全体の背景色も白で統一しているため、見る人にストレスを与えない。
こうした写真の原理原則を踏まえれば、スマートフォンでも十分に美しい写真を撮影することができる。
・情報発信のレベルアップに役立つコツ
情報発信をするにあたり、どんなに素晴らしい投稿をしても、最初は誰も見てくれないかもしれない。しかし、諦めずに投稿を続ければ、1ヶ月ほどすると少しずつ見てくれる人は増える。周囲の親族や友人、知人など、周りの人に投稿を見てもらったり、拡散をお願いすることで少しずつファンを増やしてくことも重要だ。最後に、見てくれる人が増えてきたら、「どんな人」が「どんな投稿」を見て喜んでくれているのかを毎回分析することも忘れてはならない。
<第二部:観光事業者編>
普及率は80%超?! 台湾人が良く使うSNSとは
ここでは、事業者が台湾人を受け入れる際の基礎知識と、台湾向けのSNSでの情報発信について紹介。訪日台湾人の求めるものや台湾人の視点を理解すること、SNSでの情報発信にあたり体系的な知識と方法を理解すること、台湾向けの情報発信を開始し、観光コンテンツ化を進めることを主な狙いとしている
台湾の人口は2,355万人で東京都の約2倍。面積は九州と同じくらいで、使用言語は北京語(一部地域で台湾語)、使用文字は繁体字という点は基本情報として押さえておきたい。
さらに、台湾でのネットの普及率は約90%、スマホユーザー比率は82%、EC市場規模は約4兆円にも及ぶ。この数字を見てわかるとおり、台湾はインターネットが成熟した環境にあるといえる。また、台湾で使用されている各SNSのユーザー数と主な用途は下図のとおり。
LINEとFacebookは人口のおよそ80%もの人々が利用しており、(日本はFacebookの利用率が人口の25%)、Instagramも日本の14%に対し、台湾では30%の人々が利用している。日本人よりも高い比率でSNSに慣れ親しんでいることがわかる。
台湾人への情報発信にあたっての3つのポイント
台湾人に向けて発信するにあたり気をつけたいポイントとして、まず1つ目は「中国語で投稿する」ということ。SNSは投稿した瞬間から海外の人も見ることができるが、日本語での投稿では普通の外国人が読むことは難しい。台湾人向けであれば短文でもいいので中国語(繁体字)での情報発信を心がけたい。
2つ目に、「継続して投稿を行なう」こと。SNSはたった1回の投稿では何の意味もなく、投稿数を貯めていく必要がある。担当者と投稿日を決め、毎日投稿していく方法であれば継続しやすいだろう。まずは1ヶ月間を目標に続けてみるのがおすすめ。
3つ目のポイントは「シェアしてもらう」こと。単にページを作って投稿を続けるだけでは誰も見てくれない。もし自社の施設に台湾人が訪れたのであれば、開設したページへ誘導し、見てもらうことから始める。SNSとはいえ、インターネット上だけが露出の機会ではなく、あらゆるチャンスで露出を狙うことが大切だ。
<第三部 行政・観光協会等編>
ここでは、行政や観光協会が地域の戦略策定を行う上で重要な「地域資源のアイコン化」「ブロガーによる口コミ」「インバウンドカレンダー」という3つの要素を紹介。
地名を売るのではなく、地域の魅力をSNSを通じて発信
・地域資源のアイコン化
まずは、長野県の地獄谷温泉の事例を紹介。同所では、SNSでの温泉に入る猿の写真をきっかけに、それまで長野に足を運ぶことのなかった外国人観光客が急増した。来訪した外国人にアンケートを取った結果、彼らは「長野県に来た」という自覚が薄く、地獄谷を目的に訪れているという傾向が見えてきた。さらに、地獄谷の魅力について聞いてみたところ「猿がとてもキュート!」「温泉に入る猿は他にいない」など、ここでしか見られないものを求めて足を運んでいることもわかった。
続いて、日本らしい町並みを誇る石川県金沢市での事例を紹介。
金沢市は北陸新幹線開通によりアクセスが良くなったことに加え、「金箔アイス」をSNSでシェアしたことにより、その人気が急上昇した。1人の投稿者が発信した情報が、投稿者の友人から友人へと拡散され、「ここでしか食べられない」金箔のアイスを求めて外国人観光客が殺到するという現象が起きている。SNS映えする商品が「地域のSNSアイコン」となり、地域へ外国人を誘致する成功例となった。
上記2つの事例のとおり、その地域でしか味わえない「地域資源」のアイコン化が、外国人観光客を誘致する上で重要だということがわかる。
台湾で認知度100%のブロガーを通じて、訪れるべき場所を明確に発信
・ブロガーによる口コミを起こす
台湾人を誘致するにあたり、ブロガーは欠かすことのできない存在となっている。その裏付けとして台湾では「ブロガー」の認知度が100%で、旅行する際には38.6%の人がブログを参考にしているというデータがある。また、多くの台湾人は、ブロガーの公式ページをフォローしているという。台湾人ブロガーは、専門ジャンルを持ち、プロ意識が高く、ブログ以外(TV出演など)でも幅広い分野で活躍しているのが特徴だ。
ここでは、ブロガーを起用した台湾での現地ブロガーによる施策成功事例を紹介。「陽明山」とは台北市郊外に位置する山で、現在は陽明山国家公園に含まれ、風景区・温泉地として観光開発が進められている場所だ。
かつては観光客が激減し、ゴミの不法投棄やマナーの悪化により危機を迎えていた。
しかし、ブロガーを多数招待し、情報発信をしてもらうことで「可愛く写真が撮れるのはここ」というイメージを作った。
結果、今まで曖昧だった陽明山での見るべき場所のポイントが明確化されたこと、写真を綺麗に撮れる場所であるという認識が広まり、若い女子の間で瞬く間に話題となった。
この事例を踏まえて人気台湾人ブロガーを福島県福島市の土湯温泉に招聘。台湾人目線での撮影ポイントや「地域資源のアイコン化」のコツを、ブロガーが撮影した写真とともに紹介する。
おしゃれな建物+日本らしいアイコン(この場合は郵便ポスト)があれば、たちまち撮影場所に変わる。
地元に当たり前にあるもの(この場合は氷柱)でも、台湾人からすると珍しいものかもしれない。常に台湾人目線を大切に。
写真映えするものがなければ作ればよい。名物の卵にフードペンで似顔絵を。世界にひとつだけの体験を提供。
訪れてほしい時期に照準を合わせてコンテンツ造成とプロモーションを
・カレンダーコンテンツで話題作り
一般的に、台湾人観光客はカレンダーイベントに連動して旅行すると言われているが、実際には下記の表のとおり、毎月一定数が訪日している。そのため、台湾人のカレンダーを意識しつつも地域のベストシーズン(最も訪れてほしい月)を決めて、独自にカレンダーコンテンツを作り、複数年を見据えてプロモーションすることが重要だ。
以上、マニュアルを通して、外国人による情報発信がインバウンド誘致においていかに効果的かということがわかった。もし、ブロガーを招聘することができない場合でも、地元に住んでいる台湾人留学生など在日の方々と協力をし、地域資源を洗い出したり、台湾人観光客に人気が出そうな点を直接聞くことが大切だという。これは台湾のみならず、他の市場においても同様に当てはまる考え方として押さえておきたいポイントだ。マニュアルでは最後に、観光戦略は行政や企業が連携して、地域全体で取り組むことが重要だとしている。
◆外国人による情報発信(SNS活用)マニュアル〜台湾編〜はこちら
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