インバウンド特集レポート
前回は、忍者にまつわるエンターテイメントやレストラン等のコンテンツをレポートした。今回は、忍者を町おこしのために商品化し、成功している事例を紹介する。
伊賀は忍者でまちおこしを進め、人気商品の開発も
忍者をテーマにその裾野が広がり、イベントやまちづくりが全国で盛んになりつつある。その先頭を走っているのが、三重県の伊賀上野だ。
4年前に始まった「忍者パック」という体験商品の人気が高く、2017年度は3200名の利用者がいたという。エンターテイメント性があり、年々盛り上がっていると伊賀上野観光協会の担当者はいう。内訳としては、マレーシアが多く、次いでタイ、台湾、フランスの順だ。また忍者博物館の外国人来館者数も右肩上がりが続いている。
ところで、この「忍者パック」という商品は何だろうか。
それは、三重県津市にある美杉リゾートに宿泊し、密書を受け取って、ミッションをこなす忍者体験プログラムだ。夜は忍者鍋、館内で伊賀流忍者麦酒を探す。翌朝は、忍者の衣装を身につけ、伊賀鉄道の忍者列車に乗って伊賀に向かう。忍者列車は松本零士のデザインで、車内では忍者グッズの販売など、鉄道スタッフも企画の盛り上げに一役買っている。その後、伊賀流忍者博物館を訪れ、忍者の歴史と知識を伝授。館内には英語と中国語をしゃべれるスタッフがいる。忍者屋敷や忍者ショー、さらに手裏剣の体験もでき、ミッションが終了すると巻物「伊賀流忍術皆伝の巻」の認定書が忍者の頭領からもらえる。お昼には終了するパッケージ商品だ。
忍者の里として伊賀を世界に売り込む!
この企画が立ち上がった背景には、もともと忍者が伊賀にとってのキラーコンテンツでありながら、訪日観光に生かしきれていないという現実があった。そこで三重県は、美杉リゾート、伊賀上野観光協会、伊賀鉄道を交えた議論の場をセッティングして、各事業者から多くの意見を上げてもらい、忍者パック実施に向けてのスキームが出来上がっていった。これにより、津市と伊賀市のふたつの地域が鉄道で結ばれ、広域連携のテーマ型ツーリズムが生まれたのだ。
忍者パック成功の鍵となったのは、アジアを中心とした各国TOPエージェントと独占契約をしたことによるものと言える。美杉リゾートはインバウンド事業のパイオニアで、各国エージェントとのネットワークを持ち、三重県内随一の集客を誇るホテルであることも大きいと当時を振り返る同観光協会の担当者。
この伊賀上野の成功を受け、全国の忍者ゆかりの地では、インバウンドや国内需要の掘り起こしに動き始めている。
関東では、小田原の「風魔忍者」に注目!
風魔忍者は、戦国時代に100年にわたり北条五代に仕えていた集団と伝えられるが、文献が残っていないため、これまで小田原市では有力な観光コンテンツに出来ていなかった。ところが漫画のナルトやゲームの戦国BASARAにも風魔が登場するなど、様々な後押しがあり、小田原市観光協会では風魔をテーマにしたイベントを行い、忍者のいる城下町を訴求して、東京オリンピック・パラリンピックに向けて国際化に取り組んでいる。
毎年夏に開催される「風魔まつり」は、今年で6回目だ。
小田原市観光協会では、忍者の取り組みをアカデミックさとエンターテイメント性の二軸で進めている。具体的には、市民への啓発活動がある。風魔は外国人どころか市民にも浸透していないので、まず市民に親しみを持ってもらうため、夏の「風魔まつり」が始まった。手裏剣打ち等、その用途を掘り下げた解説もあり、楽しみながら学べる仕掛けになっているのだ。
一方、インバウンドの活動にも力を入れており、今年2月に首都圏在住の21名の外国人に忍者体験会に参加してもらった。
また、小田原城の本丸広場では、忍者衣装や甲冑の着付け体験を常時開催しており、看板には英語の表記をして外国人も参加しやすいようにしている。外国人旅行者は、箱根の途中で小田原城に立ち寄るケースが多いのだが、あまり時間がないため、手軽な忍者衣装体験が人気だ。写真を撮ると城がバックに写り、よりエキゾチックなのだ。
小田原城に入場する外国人の比率は、年々増加しており、昨年は約7%までになった。以前は、ほんの数%に過ぎなかったのだが。
小田原城址公園の一角にたたずむ「歴史見聞館」は、2019年5月に「(仮称)風魔忍者館」としてリニューアルオープンする予定であり、今年の8月1日から改修工事に入った。外国人の方々が忍者を知り、学び、体験できるよう、多言語表記などの整備を進め、より多くの国の方々に楽しんでいただける施設にしたいと担当者は意欲をみせている。
全国の忍者を連携するネットワーク組織が設立
このように、忍者ゆかりの地が盛り上がるのには、国の後押しもある。2018年6月には、国会に忍者議員連ができている。また国際忍者学会もできるなど、忍者関連組織の動きからも目が離せない。2015年の日本忍者協議会の設立もインパクトがあったと、伊賀上野観光協会の担当者や小田原観光協会の担当者は口をそろえる。
同協議会は、究極のクールジャパンコンテンツと言われている「NINJA」を2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、日本の文化資産と貴重な地域資源と位置づけ、インバウンドを含めた観光資源及び地域経済の活性化と、全国の忍者に関わる自治体をネットワーク化してゆく事を目的としている。発起人は、神奈川県、三重県、滋賀県、佐賀県の県知事、小田原市、上田市、伊賀市、甲賀市、嬉野市の市長、伊賀上野観光協会だ。
発足時の記者発表会では、元観光庁長官で日本忍者協議会副会長の溝畑宏氏が登壇し「漫画、アニメ、ゲームや映画など、様々な忍者を題材にした作品を通して、外国人の方の忍者の認知度が高いにも関わらず、日本国内で忍者のことを発信できるポータルサイトがないことや、忍者の歴史、文化について語れる方が少ないことに問題を感じ、日本中で忍者の知識を集約、研究し、発信していくために協議会を立ち上げた」と趣旨説明をしている。
まさに忍者というアンダーグラウンドな存在が、国に認められ、活性化していこうと盛り上がりつつあるのだ。
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