インバウンド特集レポート
前回は、日本人の新しい旅先として極東ロシアの可能性について探ってみた。ロシアは、昨年のサッカーW杯で200万人もの外国人客の呼び込みに成功したことからインバウンド政策を進めている。成田空港から2時間半で行くことができ、「日本にいちばん近い西洋都市」として魅力あふれる注目すべき旅先である。最後に、訪日するロシア人の特徴や彼らが持つ日本へのイメージをお伝えしよう。
日本を訪れるロシア人が増えている理由
では、ロシアの人たちは日本でどんな旅行をしたいと考えているのだろうか。ロシアで発行されているカルチャー雑誌“KIMONO”の副編集長のアナスタシーア・ストレブコーワさんに話を聞いた。

▲「KIMONO」は隔月発行のロシア語の「現代日本を紹介する雑誌」
彼女は日本を訪れるロシア人が増えている理由についてこう語る。
「ひとつの大きな理由は日本側の努力だと思う。最近、モスクワに日本各地の地方自治体が観光PRのため訪れるようになった。一方、ロシア人は近年、NATOからの制裁で、旅行先がヨーロッパではなくアジアに目が向いているところがあり、日本は以前に比べ、オープンになってきたと感じている。ここ数年、日露首脳会談が増え、プーチン大統領が日本をよく訪れるようになったことがニュースでも報じられていることから、日本に対するロシア人の関心が以前より高まっているのは確かだ」
彼女の言うように、日本政府は2017年にロシア人に対するビザ取得を緩和し、今年に入り、ロシア人のビザ免除を検討しているという報道もある。ロシア国内では、日本政府観光局や各地自治体が観光セミナーや観光写真展、フォトコンテストを行うなど、PR活動を進めている。昨年9月に開催されたツーリズムEXPOジャパンでも、ロシアは出展国の中で最大規模のブースを展開していたことは記憶に新しい。
日本の旅をインスタグラムにアップして楽しむロシア人
ところで、ロシア人観光客とはどんな人たちなのだろうか。
ロシア人の人気海外旅行先は、タイやベトナムのビーチだ。それらの国には、すでにロシア人専用といってもいいリゾートエリアがあり、町はロシア語であふれ、現地の人たちもロシア語を話す環境ができているようだ。理由は旅行費用が安いからだが、ロシア人はたいてい最低2週間くらいビーチに滞在し、特別何をするでもなく、のんびり過ごす。そんな休暇のスタイルを好むという。
「日本ではタイと同じような過ごし方はできないが、一般のロシア人が知らない穴場を見つけ、特別な体験をしている自分を自撮りしてインスタグラムに上げるというのは、ロシア人がいまいちばんやりたいこと」とストレブコーワさんは話す。
確かに、ロシアで出会った人たちと話をしていると、必ずといっていいほど、家族でタイやベトナムに行った写真を見せられる。インスタグラムも日本と同様、盛んな印象がある。
日本はどこに行っても観光が楽しめる
では、ロシア人にもっと日本に来てもらうためにはどうすればいいのだろうか。
「日本の観光コンテンツの水準はロシアに比べてずっと高いと思う。どの地方に行っても観るべきもの、やるべきおもしろいことがある。ミシュランレストランが多いことも、ロシア人は知っている」
そう話すストレブコーワさんだが、ロシア人にとって日本はまだ旅行費用の高い国であること。そして、日本の情報が圧倒的に足りないことが課題だという。
「私がよく日本人に言われるのは、ロシアは寒い? ウォッカが好き? そんなステレオタイプな見方ばかり。同じように、ロシアでも日本といえば、いまだにアニメやマンガ、サムライ、芸者というイメージしかないのも事実。最近はロシア人のブロガーもいて、それぞれ日本のことを発信しているが、内容はバラバラで、日本のいまを的確に伝える情報は少ない。ぜひ日本に行ってみようと思える情報は、まだそんなに多くないと思う」
日本のいまを伝えるロシア語媒体「KIMONO」
ストレブコーワさんが制作に参画しているロシア語メディア「KIMONO」は、2018年1月に創刊されたカルチャー誌で、モスクワやサンクトペテルブルクなどの書店で販売されている。
▲2018年秋に発売された「KIMONO」13号の特集は、東京のエリア案内(渋谷、六本木、秋葉原、新宿、お台場、銀座、浅草などをルートマップ付きで紹介)
編集長のエカテリーナ・ステパノヴァさんによると、同誌は2016年10月にオンラインマガジンとしてスタートしている。毎号ワンテーマ式の編集で、日本を訪れた著名なロシア人やユニークな日本人のインタビュー(以前の号では、映画監督の黒沢清や歌舞伎役者の中村扇雀、ジョージア出身力士の栃ノ心剛史なども登場)、旅行、フード、ファッション、美容、東京エリア案内などに分かれた誌面構成になっている。読者の70%は20代から40代の女性という。
「日本在住のロシア人ライターたちの体験と印象を含めて、先入観のないありのままの現代日本を紹介する媒体づくりを進めている。ロシアでは日本文化やアート、ファッションの特徴、フード、美容などの日本情報に関心があることから、それを編集方針の要にしている」と彼女は話す。
▲左:編集長のエカテリーナ・ステパノヴァさんはロシア西部のヴォルゴグラード州生まれ。大学でインテリアデザイン(ヴォルゴグラード技術国立大学)とジャーナリズム(モスクワ市経済大学)を学ぶ。ご主人は日本人で、モスクワと日本を往復する日々。(撮影/Yulia Shusharina) 右:副編集長のアナスタシーア・ストレブコーワさんはロシア沿海地方生まれ。極東国立連邦大学日本学部日本文学専攻卒。(撮影/Evgenia Chiba)
同誌は、若いロシア人ライターたちの目を通して現代の日本を伝えようとしているユニークな媒体だ。デザインセンスも優れていて、日本人の目で見ても面白いし、何よりロシア人の目から見て日本の何が魅力的に映るのかを理解するうえで参考になる。
基本的にロシアで販売されており、日本で入手することは簡単ではないが、もともとオンラインマガジンとして始まっているので、ウエブサイトで誌面を読むこともできる。編集に関わっているのは、若きロシア人女性編集者ふたりだけでなく、フリーランスの編集スタッフ10名、さらにライターを加えると20名ほどになるという。
ロシア人向けインバウンドの鍵となるメディアであることは間違いない。同誌の今後を期待したい。
最新のインバウンド特集レポート
【万博特集】食の多様性で高まる日本の魅力、海外ゲストをもてなす上で大切な心構えとは? (2025.02.14)
人口1200人 鶴岡市手向地区が挑む、出羽三山の山岳信仰を活かした持続可能な地域づくり (2025.02.07)
【万博特集】MICEの持つ可能性とは?MICEの基本から諸外国の成功事例、最新動向まで徹底解説 (2025.01.31)
サステナブルツーリズムを目指し、観光庁「持続可能な観光推進モデル事業」で変わる日本各地の地域づくり (2025.01.30)
2025年のインバウンド市場はどうなる? アジアから欧米豪中東まで11市場 12人の専門家が徹底予測 (2025.01.30)
20〜30代FIT層急増、ムスリム対応が成長のカギ。2025年のマレーシア訪日市場 (2024.12.25)
消費力が高いメキシコ市場、2025年の地方誘致は建築・アート・マインドフルネスなど特別な体験がカギ (2024.12.25)
2025年の訪日消費拡大と地方誘致のカギに、米国市場が注目する6つの新トレンド (2024.12.24)
リピーター増と共にローカル志向高まる中東市場、2025年 旅行者に選ばれるための重要なポイントとは? (2024.12.23)
完璧な事前の準備よりオープンな心で対応を、2025年拡大する豪州市場の地方受け入れに必要なこと (2024.12.20)
地域体験を求めるFIT急増、2025年シンガポール市場獲得に向けて地方ができることとは? (2024.12.19)
まだ見ぬ景色を求めて地方を旅するタイ市場、2025年は二次交通が地方誘致のカギに (2024.12.18)