インバウンド特集レポート
訪日外国人の買い物の中身が変わってきたといわれるが、日本のお菓子の人気が際立っている。お菓子は単価が安いと嘆くなかれ。万国共通、みやげの定番だ。外国人観光客はどんなお菓子を選んでいるのだろうか。「インバウンドとスイーツの甘くて濃密な関係」を探るべく、まずは売り場を訪ねてみよう。(執筆:中村正人)
裸電球が吊るされた薄暗い店内で、中華系の家族連れやビジャブで頭を覆った若い女性ふたりが、日本の中年女性や子供たちと交じってお菓子を物色している。イオンモール成田の2階にある駄菓子チェーン店「1丁目1番地」でのことだ。
▲駄菓子チェーン店「1丁目1番地」で見かけた外国人観光客
日本人と少し違う外国人観光客のお菓子の好み
「外国のお客様は平日もいらっしゃいます。若い女性はキャラチョコなどを細かく選び、中年女性はコンペイトウなど昔ながらの駄菓子を買っていかれます」と黒田翼店長は話す。「当店はモール内の他のテナントと違い、店内が薄暗く独特の雰囲気。“和”のイメージを感じるそうです。お菓子のパッケージに書かれた商品名の特にカタカナが外国人には面白いとも聞きます。成田空港が近いので、残った小銭を使うのにちょうどいいようです」。
▲若者にはかわいいキャラクター菓子が人気
▲うまい棒はフレイバーの種類が豊富で、人気はコーンポタージュ味とチーズ味
外国人観光客の平均購入単価は1人1000円程度だが、日本人客の2倍という。彼らの好みは日本人客と少し違い、工作のように自分の手を加えて作る知育菓子(クラシエフーズ)のような意外な商品も売れる。YOUTUBEで海外に広まったからだそうだ。これは上野の二木の菓子でも聞いた話だが、棒状スナック菓子のうまい棒(やおきん)も外国人観光客に人気だという。
▲二木の菓子第一営業所には多くの外国人観光客が訪れていた
※二木の菓子第一営業所(台東区上野)は、訪日客向け情報サイト「LIVE JAPAN」の2018年4月から2019年3月までの訪日外国人から人気があった施設や店舗において、総合賞・ショッピング部門(小売ショッピング施設)第1位となっている。
モール内には和菓子屋やお茶屋もあるが、「抹茶ブームで、茶葉を買う外国のお客様が増えています」(「三國屋善五郎」)とのこと。抹茶を使ったお菓子がこれほど巷にあふれるようになったのは、インバウンドの影響が大きいが、お茶まで買ってみようという外国人観光客も現れているのだ。
外国人観光客がお土産を買う成田空港、デパ地下、東京駅エキナカの事情
一般に外国人観光客がみやげ買いをしている光景を見かけるのは空港だろう。成田国際空港の出国ターミナルのショッピングフロアの製菓店を何軒か訪ねたところ、外国人観光客によく買われるみやげ菓子として挙がったのが、東京ばな奈やキットカット、意外や老舗の和菓子の名菓ひよ子、そして宇治抹茶ショコラ大福など。もちろん、それがすべてではない。乳化剤が大豆由来のハラルチョコレートもあった。
▲東京ばな奈とキットカットのコラボ商品も登場
▲ハラル菓子にはチョコレート以外にもクッキーや焼き菓子など種類も豊富
出国ゲート内の免税店に行くと、インバウンド向け菓子は花盛りといっていい。ここでは人気菓子をまとめ買いするため、いつ行っても外国人観光客の行列ができている。深夜便に乗るため午前2時近くに羽田空港に行ったときもそうだった。
なお、東京ばな奈、KITKAT、ひよ子本舗吉野堂、吉祥菓寮など、人気菓子のサイトのコンテンツは充実し、多言語化も進んでいる。
▲空港の免税店には東京ばな奈が山積みにされている
▲これらの人気菓子をまとめ買いしていく外国人観光客も多い
さらに、外国人観光客は百貨店の地下食品売場にも現れるし、いま最もホットなスポットになっているのが東京駅改札内のエキナカショップのGRANSTAだ。ここは東京の老舗菓子から地方の有名店、新進メーカーなど、日本のお菓子のトレンド最前線のひとつといっていい。ここにも外国人観光客は押し寄せているのだ。
明らかに変化する訪日外国人市場
日本政府観光局(JNTO)の統計をみると、今年になって訪日外国人市場に明らかな変調が見られる。トータルな数自体は数%の増加をなんとか維持しているものの、伸び率が激減。韓国、台湾、香港など訪日トップ5の常連の伸びがついに飽和状態となり、前年より減少する月が増えている。特に韓国は昨年夏頃から減少傾向にあり(昨年過去最大の750万人は上期が好調だったため)、今後もこの傾向は続くと考えられる。一方2桁の勢いで伸びているのは、ベトナムとロシアである。
さらに、観光庁が2019年3月29日に発表した「訪日外国人消費動向調査」によると、2018年のインバウンドの旅行消費額は4兆5189億円、前年比で微増したものの、費目別でみると、トップは買い物1兆5763億円だ。さらにその内訳で購買率の1位が「お菓子」の68.0%となり、2位、3位の「化粧品・香水」(41.6%)、「医薬品」(36.4%)を抜いて断トツ。一人平均単価は、8,353円という結果で、国によっては韓国が82.5%等、平均よりも高い。
さて、買い物について前年比ではシェアのみならず、総額で減少(2017年1兆6398億円)している。つまり、消費額の伸び悩みはもとより、訪日客は増えているのに、買い物総額が落ちているのだ。これはただの変調ではなく、今後もこの傾向が続くと考えられる。
▲2018年訪日外国人消費動向調査(2019年3月29日より)
高額商品から安価で小さな商品へと変化する訪日中国人の購買行動
その実態は、中国からのインセンティブツアーや学校間交流などを手がけている誠信インターナショナルの遠藤祐司代表取締役の次の指摘に見られるとおりである。
「最近、中国から来るお客様は、以前流行った炊飯器など電化製品はほとんど買いません。高額な商品でなく、みやげ用の安価で小さい商品ばかり買います。それも数を大量に買います。たとえば、マスク類(肌にやさしい種類)、ハンドクリーム、スキンケアミルク(特に資生堂)、ステンレス製のボトルやカップ、セラミックナイフ、酒盃、歯ブラシ、各種薬品(龍角散、救心等)などがよく購入されています。人から頼まれて買って来てほしいと具体的な商品名をメモして来る方が多いです」
▲大阪心斎橋で見かけた外国人観光客の買い物袋。ドラッグストア系商品とお菓子ばかり
競争力のある商品が売れるだけのこと
訪日客が増えても、購入するみやげの単価が下がれば、買い物総額は下がって当然だ。だが、その理由を外国人観光客の志向が変わったせいだと説明するのは手前勝手すぎる。むしろ、家電メーカーに代表される日本企業の凋落で、競争力を失ったためだと受けとめるべきだろう。
その点、日本のお菓子には海外にはない魅力があり、現状では競争力があるといっていい。
「日本のお菓子なら何でも喜びますが、圧倒的人気なのは、白い恋人と東京ばな奈。空港や東京駅などどこでも売っているし、東京を代表する菓子と思われている。白い恋人も同様です。銀座や大阪、博多という有名地名を冠した商品も手に取りやすいようです」(誠信インターナショナルの遠藤祐司代表取締役)。
もっとも、いま外国人観光客が手に取っているのは、こうした定番菓子だけではない。次回は、もっとディープな世界を見ていこう。
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