インバウンド特集レポート

国際基準GSTCを活用した「サステイナブルツーリズム」日本でも加速化の兆し

2021.11.12

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サステイナブルツーリズムの実現に向けた動きが世界各地で本格化する中、持続可能性を指標化した国際基準「GSTC」が多くの観光地で活用されている。同時に、この基準を満たす地域や事業者に与えられる国際認証の取得を目指して、さまざまな取り組みを進める地域も増えてきた。

日本でも近年、持続可能な観光地経営を推進する動きが活発化している。観光庁が日本版のガイドラインを策定して地域の事業をサポートするほか、自治体やDMOが国際認証取得を目標に掲げて始動するなど、ムーブメントの兆しが見える。今、世界的な潮流を受けて加速する、日本でのサステイナブルツーリズムの動きを紹介していきたい。

 

持続可能な観光地づくりとは?

UNWTO(国連世界観光機関)は、持続可能な観光(サステイナブルツーリズム)の定義を、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」としている。

言い換えれば、観光を通じて地域経済を発展させると共に、地域社会や自然環境・文化も守っていくこと。それらを、今だけではなく未来のことも踏まえた時間軸で考えていくツーリズムのカタチ、と言えるだろう。

背景には、マスツーリズムの進展による環境汚染や自然破壊、また観光地に暮らす人々の生活に大きな負荷が発生するなど、観光による負の側面が浮上してきたことがある。これを解決するには、観光地の本来の姿を持続的に保ち、観光客、地域住民、事業者などすべてのステークホルダーが相互に潤うことが大切だ、と考えられるようになったのだ。

 

旅行者のサステイナブルへの意識も高まる

観光をめぐる環境の変化としては、旅行者の意識の高まりも挙げられる。2021年、ブッキング・ドットコムが発表した調査結果(※)によると、世界の旅行者の81%が「今年はサステイナブルな宿泊施設に滞在したい」、43%が「旅行に関する選択にさらに配慮することで現地のコミュニティや経済を支えたい」と回答している。またこのような旅行者は、観光地の環境や文化にも関心が高く、いわば「質の高い」旅行客である可能性が高い。彼らに選ばれる旅の目的地となるには、大前提として持続可能な観光地への取り組みをしていること、そして、それに取り組んでいると発信していくことも必要となるのだ。

また、2015年、国連総会でのSGDsの採択も大きな契機になった。

「UNWTOは、観光がSDGsのすべての目標に対して貢献する力があると宣言しており、SDGsへの関心の高まりがサステイナブルツーリズムの機運を高めていると言えます」。そう話すのは、日本でいち早くサステイナブルツーリズムに着目し、釜石市で2016年より取り組みを推進してきた、株式会社かまいしDMCのサステイナビリティ・コーディネーター、久保竜太氏だ。

「とはいえ、日本で行われてきたエコツーリズムやグリーンツーリズム、文化観光などもサステイナブルツーリズムの概念に含まれるもの。“これからはサステイナブルツーリズムの時代だ”と切り替えなければという話ではなく、これまでの取り組みを改めて新しい言葉で定義づけしている側面もあるんです」

持続可能な観光地づくりは、決してゼロからの取り組みではなく、実はすでにスタートを切っているケースが多いということだ。

※ブッキング・ドットコム/2021年の「サステイナブル・トラベル」に関する調査結果(2021年6月4日)、「旅行が及ぼすインパクトに関する意識の高まり:責任ある旅行の始まり」(2021年4月22日)より

▲UNWTOのウェブサイトにも観光のためのSDGs(Tourism for SDGs)のページがある

 

国際的な指標となるガイドライン「GSTC」と認証制度

では、旅行者たちはなにを基準にサステイナブルな観光地を判断するのか。その指標の1つとなるのが、認証ラベルだ。ヨーロッパでは「サステイナブルラベル」という認証制度が古くから成熟していた。しかし、気づけば多種多様なラベルが溢れ、なかにはマーケティングを目的にうわべだけの取り組みでラベルを利用するといったグリーンウォッシュも横行。旅行者の混乱を招いていた。

そこで乱立するラベルを整理し、本当に信頼に足る国際基準を策定・管理することを目的に、国際的な32団体と連携し、世界持続可能観光協議会(GSTC=Global Sustainable Tourism Council)が発足した。ここで策定された国際基準(GSTC=Global Sustainable Tourism Criteria)は、最低限達成すべき基準として作られており、各国での独自の文化や法律など、地域の状況に適応できるよう、追加基準で補完を可能としている。

国際基準であるGSTCには、宿泊施設やツアーオペレーター向けのGSTC-I(GSTC Criteria for Tourism Industry)と、観光地を対象としたGSTC-D(GSTC Criteria for Destinations)の2種類がある。ここで注意すべきは、団体としてのGSTCはあくまで国際基準を管理する組織であり、GSTC団体そのものがラベル認証を行うのではないということだ。実際に認証を行うのはGSTCが認めた第三者認証機関である。

このGSTC認定の第三者認証機関となるためには、各機関が作り上げた独自の基準がGSTCの国際基準に準拠しているかどうか、および、どのように認証を行っていくかといった認証プロセスの審査が行われる。そしてこの厳しいチェックを通過した機関から認証を受けるということはすなわち、世界水準のサステイナブルラベル(GSTC認定認証ラベル)を獲得するという意味を持つ。 

観光地を対象とした国際認証制度の1つとして世界的に評価を得ているのが、オランダの非営利団体Green Destinationsによる認証および表彰制度だ。

100項目の基準のうちいくつを満たしているかでプラチナ・ゴールド・シルバー・ブロンズの格付表彰制度を設けており、最初のステップとしては15項目のクリアでエントリーできるTop100選が推奨される。認証に向けての取り組みの過程もしっかりと評価することで、世界中の持続可能な観光地経営の底上げを図る仕組みを設けているのだ。

▲Green Destinaitonsの認証取得までのステップ(出典:観光庁)

そして日本の先駆的な地域では、このGreen Destinationsでの表彰を1つの指針として掲げた取り組みが始まっている。

 

日本の地域が第一歩を踏み出す手引き「日本版持続可能な観光ガイドライン」

日本の観光地におけるサステイナブルツーリズムを後押しする起爆剤となったのが、2020年に発表された、観光庁による日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D=Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations)だ。JSTS-Dの策定にあたり、当時、観光庁外客受入参事官室の一員として中心的役割を担った大野 一氏に、ガイドライン開発の経緯について話を伺った。

「観光庁は2008年の発足以来、インバウンド推進の政策に力を注いできましたが、2018年頃から特定観光地における混雑やマナー違反といったオーバーツーリズムがメディアでも取り上げられるようになりました。訪日外国人旅行者数6000万人を目指す上で、この課題に向き合い改善することはマストでしたし、そもそもオーバーツーリズム等の課題が発生しないように中長期的な総合地域マネジメントに取り組む必要性があると考えたのです」

地域の観光資源で継続した財源を得ながら、地域住民が観光による恩恵を実感できる地域づくりの実現には、サステイナブルツーリズムへの取り組みが欠かせない。そこで、持続可能な観光地づくりの指標として着目したのが、GSTC-Dという国際基準だった。

ただし、GSTC-Dは先進国から後進国まで全世界のデスティネーションに向けて作られているため、個別の項目が社会状況や環境、各国の法制度などの特性に合わないものもある。
「例えば、自然災害への危機管理や文化的建造物の維持管理、オーバーツーリズムへの対応など、加えたり、内容を充実させるべき箇所もあります。また、水質基準や下水道の整備など日本ではすでに達成されている項目は簡素化できます。日本の現状課題を鑑みながら、より実情に即したガイドラインを開発することになったのです」

GSTCを国際基準として遵守しつつ、災害への危機管理やオーバーツーリズムなど日本で特に重視される項目を追加。さらにケーススタディを多く掲載したりすることで親和性を高めていった。英語原文であるGSTCの主旨を、日本語で理解できる点も大きな利点だろう。

2021年にJSTS-D は「GSTC承認基準」を満たしているとの公認を獲得した。
「これにより、日本の取り組みが世界からも認めてもらえるようになりました。各地方公共団体やDMOらがスムーズなマネジメントを行うことができるよう、地域の道しるべとして活用いただけたらと思います」

▲「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」ロゴマーク(出典:観光庁)

観光庁では、このJSTS-Dを活用したモデル事業も実施している。2020年度は、国内5地域においてJSTS-Dに基づく持続可能な観光マネジメントが実施され、すべての地域がGreen Destinations「TOP100選」に選ばれるという成果を収めた(日本からはモデル地域に釜石市を加えた6地域がTOP100選に選出)。2021年も継続してモデル事業を実施し、計12地域が選ばれた。また、事業のモデル地区でなくともJSTS-Dに取り組んでいることが認められれば、ロゴマークを旅行者へのアプローチとして活用することができる。

 

認証取得がもたらす3つの役割

サステイナブルツーリズムへの取り組みによって取得したロゴやラベルは、もちろん地域のプロモーションに活用することができるだろう。しかし、履き違えてはいけないのが、認証は1つの側面でしかないということだ。認証を取ることだけが議論のトピックになってしまうと、「どれだけ人が来るのか」「どれだけ儲かるのか」という点に終始してしまいがちになる。

「持続可能な観光地づくりを推進するにあたっては、自分たちの地域が“こうありたい”という目標値を設定し、いろんな課題を把握して取り組みを進めていく過程に大きな意味があります。それによって地域が変化していき、地域にもたらされる観光の影響がよりポジティブになっていくというのが理想的な姿だと思います」(大野氏)

JSTS-Dの活用においても、3つの役割が挙げられている。

1つめは「自己分析ツール」として。そもそも自分たちの地域のサステイナビリティ度合いがどの程度達成されているのかを把握する、いわば健康診断のようなものだ。その上で、現状と目標値とのギャップを把握し、原因を探りながら戦略を立てることができる。

2つめは「コミュニケーションツール」として。自己分析の結果を用いて地域のステークホルダーと現状や課題を共有することにより、理解促進を図ることができる。単なる勘や経験だけに頼らない合理的な判断が可能になり、地域が一体となって取り組みを進めるのに役立つ。

3つめは「プロモーションツール」としての役割だ。認証ラベルは、持続可能な観光への取り組みを端的に示すツールとして有効だ。また、持続可能な観光に向けた活動や取り組みを対外的に発信することで、認知度向上にもつながる。 ただし、認証ラベルに劇的な誘客効果があるとは限らないことも踏まえておきたい。最も大切なのは、認証を取得することではなく、健康な地域づくりに向けて、整理された適切なアクションをしていくというプロセスなのだ。

▲世界遺産、釜石市の橋野高炉跡

 

あくまでも認証取得は、目標を実現するための手段

かまいしDMCの久保氏は「経済効果をはじめ地域によい影響をもたらすには、観光だけでなくいろんな側面からサステイナビリティを考えていく必要がある」と言う。
「釜石市の場合は、震災被害を受けた釜石市民が、再びここで生きていくことへの誇りを取り戻していくことが大事であると考え、釜石市観光振興ビジョンの目標に掲げています。釜石に住むことに誇りを持ち、このまちに人を呼びたいと思う市民が増えること。その目標を実現するための手段として観光を活用したいと考えています」

50年後、100年後の「住んでよし、訪れてよし」を実現するためのサステイナブルツーリズム。人口急減・超高齢化などの大きな課題を抱える日本にこそ、必要な施策なのかもしれない。

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