インバウンド特集レポート
新型コロナウイルス感染症拡大以前は、年間200万人以上がクルーズ船で訪日していた。コロナ禍で往来がなくなって久しいが、2023年春からようやく国境を越えるクルーズ船の運行が日本でも再開する。空白の3年を経て再スタートを切るクルーズ市場の動向と予測について、日本国際クルーズ協議会副会長の糸川氏の寄稿をお届けする。
日本国際クルーズ協議会(JICC) 副会長
糸川 雄介
世界のクルーズ船運航、続々と再開を果たした2022年
日本国際クルーズ協議会(JICC、2021年4月設立)は2021年に引き続き、2022年頭初から国土交通省、厚生労働省と運航再開に向けた協議を行ってきた。しかしながら、国内の感染状況次第で、協議がストップすることがしばしばあり、3歩進んでは2歩下がる状況だった。業界全体では年明け早々に、スタークルーズ、ドリームクルーズ、クリスタルクルーズを有する「ゲンティンクルーズライン」が長引く運航停止の影響もあり、会社清算となるなど2022年は波乱の幕開けだった。
世界も日本と同様に、感染が広がると運航が中止されるケースがあったが、2022年3~4月ころを境に、各社がクルーズ運航を再開し、アジア以外の巨大市場で唯一動いていなかったオセアニアも再開を果たした。この段階で、世界地図の中で唯一国を跨ぐクルーズ船の運航ができない地域は、アジアだけになってしまった。2022年7月にはそのアジアでも東南アジアが再開し、緩和の波のうねりを受け、アメリカCDCのクルーズに対する感染防止プログラムも終了した。
日本の国際クルーズ船運航、2023年春より再開
一方、日本では2022年夏からの再開を模索する動きもあったが、やはり感染の再拡大にもみ消される形となってしまった。ただ、欧米ではアフターコロナでの通常運航に近いところまでに回復していたことから、最終的にはその流れに乗る形で、後れを取りながらも昨年11月15日に、JICCで運航ガイドラインを策定・公表し、国土交通省が運航再開を発表した。これは、国土交通省、厚生労働省など関係者の協力によるもので、これをもって日本での外国船運航停止に終止符を打つことができた。国境を越えるクルーズ船の運航は世界で日本と中国の2つだけが取り残されていたが、これで中国より先に再開が決定。いよいよ2023年春から、3年ぶりの運航再開を迎えられる。
2023年の日本発着クルーズ、19年並みの予約に期待高まる
2020年2月のダイヤモンド・プリンセス号の寄港以降、乗客を乗せた外国クルーズ船は日本に寄港できていなかったが、2023年は3月以降、各社合わせて166本が計画されている。ここでは再開初年度の様相を予測したい。
まず日本市場では、特に日本発着クルーズを中心に、この3年間の運航停止の反動で、2019年度並みの予約が期待できる。ただし、プリンセス、MSCの2社が大きく寄与する一方で、東アジアにおける国際クルーズの本格的な再開が依然先行き不透明なことを理由にコスタクルーズが運航を中止したことによる供給減は少なからず、市場全体に影響を及ぼすだろう。
欧米市場では、ノルウェージャンクルーズライン、リージェント、ポナン、シルバーシーなどを中心に、日本へのニーズは高く、日本発着や日本寄港での、2019年を上回る乗船者数が見込まれている。
世界最大の中国発着クルーズの回復2024年以降の予測、当面は回復見込めず
アジア市場、特に中国市場発着の日本への寄港クルーズは、コロナ前までは最大の寄港数を誇り、全体の80%程度を占めていた。この中国発着クルーズ再開は、2024年以降との予測で各社動いており、この数字が大きく減ることになる。
そのため、業界が目指す2023年度の日本市場と訪日のクルーズ人口については、日本市場のリカバリーはある程度見込めるものの、訪日は大きく減ることになりそうだ。とはいえ、訪日クルーズの80%以上を占めていた中国への依存度を下げ、特に欧米を中心としたリカバリーを目指すことで、2024年以降はよりバランスの取れた市場形成が見込めるのではないかと思う。
それには、乗客もさることながら、寄港する各地域のコミュニティーに対して、安全、かつ安心なクルーズを提供することが重要であり明るい未来を描けるような再開を目指したいところである。
多様化するクルーズ乗客のニーズを満たす旅行プランの造成と訴求を
クルーズ船社は、大型~小型船、ラグジュアリー~カジュアル、そして乗客も、中国のみ、アジア、欧米、日本人と、多様化が進んでいる。この機会に、そのターゲットに応じたプランの造成やブラッシュアップに取り組めるのではないかと思う。
そして、乗客の特性に合わせて寄港地をめぐるプランを船会社へ提案するなど、多様化するニーズへの対応も必要だ。こうした需要をうまく取り込めれば、受け入れ地の観光にとってもチャンスになるのではないか。
特に、2023年は中国発着船の寄港が見込めないなか、この機会に特に欧米市場の取り込みを図ることで、それぞれの寄港地の地域が、ターゲットに応じた棲み分けを行うことが出来るようになると思う。
一方でパンデミック初期に、乗客の長期間にわたるクルーズ船への隔離がニュースで大々的に報道されたことによるクルーズ船のネガティブなイメージの回復も喫緊の課題だ。船社も積極的に行う考えだが、特に発着地のコミュニティや住民への理解を促す活動などは、船社と当クルーズ協議会が共同で行いたいと考えている。
著者プロフィール クルーズ業界で25年以上のキャリアを持ち、クルーズコンサルタントの資格を保有。日本クルーズ客船株式会社でチャーターやレジャークルーズの営業、香港本拠地のスタークルーズでシンガポール・香港・神戸・福岡発着クルーズのセールス&マーケティングに携わる。その後、米国船社ロイヤル・カリビアン・インターナショナルとセレブリティ・クルーズの日本総代理店株式会社ミキ・ツーリストに約12年間在籍し、Fly&Cruise、日本発着クルーズ事業を統括。2015年11月コスタクルーズ日本支社長に就任。2018年6月シルバーシー・クルーズ日本・韓国支社長に就任し、現在、日本でのラグジュアリー市場の拡大を目指している。 |
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