インバウンド特集レポート
会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、展示会・イベント(Exhibition/Event)など多くの交流や集客が見込めるビジネスイベントであるMICE。コロナ禍を経て、縮小やオンラインに切り替わるのではないかという声も聞かれたが、2023年の市場はどうなっていくことが予想されるのか。主に国際会議とインセンティブ旅行の誘致を手掛けるJNTO MICEプロモーション部 部長の川﨑悦子氏にお話を伺った。
独立行政法人 国際観光振興機構(日本政府観光局 JNTO)
MICEプロモーション部長 川﨑 悦子
空白の3年を経て、コロナ前に戻りつつあるMICE
新型コロナウイルス感染拡大直後、国際会議はほとんどが中止や延期になった。ただ、2020年後半からはオンライン形式で開催されるようになり、2021年10月頃からはいち早く域内を往来できるようになった欧州などで、対面に加え、渡航できない国の人たちはオンラインで参加するというハイブリット形式での開催が増えていった。
さらに、2022年4月頃からは欧州に加えて東南アジアも国境を再開したため、それらの地域ではハイブリット形式とともに対面でのイベントも戻ってきた。
日本では水際対策が緩和された2022年10月以降、海外の人々も参加しやすくなり、対面の会議が復活した。
海外から日本へのインセンティブ旅行については、2020年2月以降、2022年の夏頃まではほぼ開催されていない。2022年6月から添乗員付きのツアーで来日できるようになったが、ビザの取得など入国手続きのハードルが高く、リスクを負ってまで催行されることはなかった。10月にビザなしの個人旅行が解禁されて以降、コロナ前に予定されていたが実施できなかったものを中心に、小規模単位のインセンティブ旅行が徐々に回復している。
オンサイト交流の重要性が再認識された国際会議、インセンティブ旅行
コロナ禍で再認識させられたのは、国際会議、インセンティブ旅行ともにオンサイトでの交流が必要な存在であるということだ。
国際会議については、セミナーや聴講などはオンラインでも成立するが、学術会議では参加者同士がディスカッションをして予期せぬ人脈の構築やビジネスチャンスが生まれるといった効果があり、参加者が実際に集まることの重要性を改めて認識した。
インセンティブ旅行も、海外の企業は旅行の代替手段として現金や物品の提供、オンラインで表彰式など様々な試みをしたものの参加者の満足度は低く、旅行にとって代わることはないとの調査結果が、米国のMICE専門誌で発表されていた。海外の旅行雑誌の読者投票でも日本は観光旅行先として人気のデスティネーションであり、水際対策緩和後いち早く欧州や東南アジアからの訪日インセンティブ旅行が実施されている。
コロナ禍において、様々な行動制限により誰もがストレスをため込んでいたはずだ。企業としても、約2年間中止されていたインセンティブ旅行を早期に再開することで、ストレスの解放と参加者同士の交流を図り、優秀な人材を確保したいと考えているのではないか。2023年はインセンティブ旅行も重要なプログラムとして催行されていくだろう。
2023年の国際会議の動向、押さえたい3つのポイント
2023年のMICE市場だが、まず国際会議は、昨年に続き、対面開催が主流になっていく。その上で、次の3つの点に力を入れて行く必要があると考えている。
1つ目は、デスティネーションの価値を高めることだ。会議主催団体の持続可能で安定的な経営には、国際会議が重要な収入源となる。特に渡航のリスクを負ってでも大勢の人に参加してもらうためには、学術的なメリットに加え、食事や観光、その地ならではの産業観光など、現地に行きたくなるような付加価値のあるコンテンツも重要になる。
2つ目は、環境を意識した会議の運営だ。欧州の人は特にサステナビリティに対する意識が高く、開催地を決める時には環境に配慮しているかどうかも決め手の1つとなる。ペットボトルではなくウォータサーバーでの水の提供、食事は地産地消でフードマイレージをなるべく減らすなど、できることから取り組む姿勢を見せたい。アジアからは様々な民族や宗教的なバックグラウンドを持つ方が参加するので、食のダイバーシティなど、彼らの生活習慣に合わせたサービスを提供する工夫が求められる。
3つ目は、様々な事情で現地に足を運べない方の選択肢を広げるためにも、引き続きオンラインがコミュニケーション手段の1つとして活用されるということだ。国際会議などの受け入れ地や事業者は、こうした主催者のニーズを踏まえた上で、ハードとソフトの両面で対応をすることが大切である。
二極化進むインセンティブ旅行、ハイエンドな旅の誘致を
2023年のインセンティブ旅行では、「ウェルネス」「アウトドア」「マインドフルネス」といったトレンドに注目が集まり、より付加価値の高いコンテンツが求められるだろう。最近では、団体の興味に応じてカスタマイズしたものを提供するニーズはさらに高まっている。JNTOが海外のインセンティブ旅行会社やプランナーを対象に行った調査では、緊縮に進む企業と予算を増額する企業の二極化が進んでいることが分かった。また、台湾市場では、日本は以前から人気の旅行先であるが、小規模でハイエンドのインセンティブ旅行は欧州など遠くへ足を運んでいたことも分かった。2023年以降、こうしたハイエンドの旅行先としても日本を選んでもらえるよう、ラグジュアリー感や新鮮味のあるプログラムを作ることも大切だ。
サステナビリティへの理解を深め、柔軟で迅速な意思決定がカギに
現地企業や旅行会社の話からも、日本は安心、安全、清潔な国という認識が浸透しているため、今後の可能性は大きいと考えている。さらに、自然や伝統文化、先端技術などまだ知られていないコンテンツを提供できる可能性を秘めている。JNTOはインバウンド戦略に1.高付加価値旅行、2.アドベンチャーツーリズム、3.サステナビリティの3つを柱に取り組んでいるが、インセンティブ旅行についても同様だと言える。
日本の課題はまず、サステナビリティへの取り組みの遅れが挙げられる。地域の人たちにもイベント開催の地域に於けるメリットや環境保護への理解を深めていただき、連携する必要がある。また、地域によってはサプライヤーの方々が英語で対応できない点も課題の1つと言われている。コロナ禍で先が見えない状況での経験を経て、契約から催行までの期間が短縮しており、柔軟な対応や迅速な意思決定の観点でも、英語でのコミュニケーションへの期待が高くなっている。見本市や商談会等さまざまな機会を捉え、海外のMICE関係者の方々との関係づくりに活用していただきたいと思う。
著者プロフィール JNTOツーリストインフォメーションセンター京都での外国人旅行者向け情報提供業務を経て、東京本部で訪日プロモーション事業に従事。1999年から2009年の間2回に亘りニューヨーク事務所でメディア広報、訪日ツアー造成やMICE誘致等米国市場に向けたプロモーションを手掛ける。2009年より本部にて国際会議や訪日インセンティブ旅行に対するマーケティング事業に携わり、2016年4月より現職。 |
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