インバウンド特集レポート
JNTOの調査結果が示すように、外国人旅行者は、日本の「グルメ」に対して興味関心を抱いている。最近では、日本食だけではなく、B級グルメへの注目も集まっている。
前編では、「広島のお好み焼き」「伊勢志摩のアワビの炭焼き」「香川のうどん」の3つのB級グルメを活用した外国人対応事例を紹介。後編では、全編に引き続き、B級グルメの体験教室としてお好み焼きの事例を紹介、また、2016年にB級グルメの海外進出を果たした「ラーメンアリーナ」開業までの道のりをレポート。
B級グルメの体験が口コミで広がり、外国人も参加!
広島には、お好み焼き教室がある。オタフクソースでは、外国人も参加できる有料の料理教室を実施している。定員は26名で、教室では日本人と外国人、団体客や個人客が混在する。内容は、お好み焼を日本語と英語で同時に解説しながら、実際に作ってみるというものだ。思い出に写真を撮って、SNSにアップする人も多く、口コミで評判が広がり、外国人参加者が増えているのだという。
海外出店がご当地グルメ認知度拡大のチャンス!
ところで、なぜ香川県のうどん屋さんを訪れる人が増えたのか。高松空港の国際便が増えたこともあるが、それ以上に、海外での認知度向上がある。海外で、うどん店が急増しているのだ。讃岐うどんのチェーン店「丸亀製麺」は、神戸の会社であるが、12の国と地域に出店し、海外でのうどんの知名度に貢献している。海外だけで、すでに134店舗ある。同じく、はなまるうどんも海外進出をはたし、上海では10店舗を超えている。
香川県は、海外での物産展や旅行博覧会等へ、うどんをテーマに出展。さらに知事によるトップセールスをはじめ、現地メディアや旅行会社へうどんの種類、うどん店の情報提供などを行っている。現地でうどんを知り、さらに食べなれた結果、本場に行きたいという流れができてきたのだ。
タイ事情に詳しい作家の下川裕治氏によると、タイ人の訪日数の増加の理由の一つとして、バンコクに本格的な日本食レストランが増えたことも大きいという。タイ人は、食に関しては保守的だが、バンコクで日本食を食べなれた結果、日本に行ってみようと人が増えたのだ。本場ならば、もっと美味しいものを食べられるという期待感があがる。
海外現地にもご当地B級グルメが増えれば、その本場に行きたいという流れができる可能性が高い。
そのような流れができそうな企画が、既に2016年に上海ではじまっていた。
上海でご当地ラーメンを集め、多様な味を知ってもらう!
2016年12月下旬に「ラーメンアリーナ」が上海の大悦城というデパート内にできた。ここには、日本のご当地ラーメンが7店舗出店している。
ゲームソフトメーカーのKLabが、Klab Food & Cultureという会社を立ち上げ、施設の運営をしている。名誉館長には、B級フードジャーナリストのはんつ遠藤氏が就任した。はんつ氏は全国のラーメン店のネットワークがあり、そこから声掛けした。
中国で一番成功しているラーメン店に「味千」があるが、最近は、訪日旅行する中国人が増えた結果、「日本では味千以外のラーメン屋も多く、バラエティーに富んでいる」と知られるようになってきた。とんこつ味以外も注目されるようになってきたのだ。そこで、とんこつ以外の味も紹介しようと、動きだした企画が、この「ラーメンアリーナ」だった。
北海道から沖縄まで、全国には40カ所のご当地ラーメンがあるとされている。ご当地ラーメンとは、その地域で食べられている統一した味や製法を持つラーメンのことで、例えば、北海道の札幌は味噌ラーメン、福島県の喜多方は薄味醤油などがある。
ラーメンアリーナ開業前の2016年9月、全国のご当地ラーメン店に視察ツアーを募ったところ、約20社が足を運び、可能性を大いに感じて帰ったそうだ。上海の人口だけで、2,400万人、東京は1,360万人なので、1.8倍のマーケット規模になる。さらにライバルも少ない。最終的には、エリアを分散して、北海道から九州まで網羅できるように店が決まった。
内装はご当地風になっていて、京都のお店(セアブラの神)は古都をイメージさせる装飾となっている。さらに、興味深いことに、館内には、チラシの類がまったくない。上海の人は、スマートフォンのアプリですべてが完結するため、紙媒体を利用しないからと遠藤氏は話す。ウィーチャットにラーメンアリーナの公式アプリがあるので、そこにアクセスすれば、すべての情報が手に入る。ラーメンの歴史から、ご当地ラーメンのマップ、会員になったときの特典などが記載されている。
味に関して、中国人と日本人では好みが違う、と遠藤氏はいう。日式ラーメンは全般的にしょっぱいというのが現地の意見だ。そのため、ラーメンアリーナに出身している各ラーメン店では、普段では薄味にしていて、日本人からのリクエストで濃い味付けに変えている。
B級グルメとは、もはやA級やB級のBではないと遠藤氏は言う。”BEST” ”BEAUTIFUL” ”BRILLIANT” の「B」と、この業界ではいわれている。進化した安くて美味しい日本のグルメ。今後は、地域への送客のフックになりそうだ。
TEXT:此松 武彦
最新のインバウンド特集レポート
リピーター増と共にローカル志向高まる中東市場、2025年 旅行者に選ばれるための重要なポイントとは? (2024.12.23)
完璧な事前の準備よりオープンな心で対応を、2025年拡大する豪州市場の地方受け入れに必要なこと (2024.12.20)
地域体験を求めるFIT急増、2025年シンガポール市場獲得に向けて地方ができることとは? (2024.12.19)
まだ見ぬ景色を求めて地方を旅するタイ市場、2025年は二次交通が地方誘致のカギに (2024.12.18)
香港市場が求める高品質の訪日旅行体験、2025年に米豪市場と競う日本は何をすべきか? (2024.12.17)
2025年の台湾市場は定番観光から深度旅遊へ。地方誘致拡大への効果的なプロモーションとは? (2024.12.16)
2025年中国FIT市場の潮流、国内感覚で日本の地方を旅する旅行者の心をつかむためには? (2024.12.13)
日中往来の更なる活発化が予測される2025年の中国市場、地方分散や受け入れキャパ不足への対応がカギに (2024.12.12)
小都市旅行とグルメで進化する2025年の韓国市場、日本人と変わらないスタイルへ (2024.12.11)
香港の日常に溶け込む「日本」、香港人の消費行動から見えるその魅力とは? (2024.09.30)
地方を旅する香港人旅行者の最新トレンド、柔軟な旅スタイルで新たな魅力を発掘 (2024.09.06)
酒造りからマラソンまで、ディープな日本を楽しむ台湾人観光客。新規旅行商品造成のノウハウとは? (2024.08.30)